結婚式当日②
アレシアは、ティモンの腕に手を掛け、教会の入り口に立ち、扉が開く瞬間を待っていた。
「姉様、今幸せ?」
ティモンは前を向いたまま、アレシアに尋ねた。答えを聞くのが怖くてずっと聞けなかったことだ。
イオンのことは尊敬して信頼もしているし、姉のことを誰よりも愛してくれていることも分かっていたけれど、最後までアレシアの気持ちは分からなかった。
もし今姉様が幸せじゃなかったら…そう思うとティモンは怖くて怖くて堪らなくなった。
「ええ、とても幸せよ。今の私には自分の意思がある。大切な国がある。そして何より、イオンがいてくれる。」
アレシアは迷いのないはっきりとした口調で言い切り、ティモンの顔を見上げて微笑んだ。
ティモンは胸に熱いものが込み上げ、微笑み返すだけで精一杯だった。
その時、ゆっくりと扉が開いた。
二人は、呼吸を合わせて一歩ずつ進み、教会の中へと足を踏み入れた。
アレシアの目にまず飛び込んできたのは、正面に見える大きなステンドガラスだ。
精巧に作られた模様の間に、青色をベースに、赤黄色緑の色が敷き詰められている。それは、太陽の光を受け、神秘的な光で教会内を照らしていた。
この教会の象徴とも言える大きなステンドグラスのすぐ下、ここにも光り輝く存在があった。
イオンの姿を視認したアレシアは、そのあまりの強い輝きに思わず目を細めた。
彼は、式典で着用する正装に加え、豪奢なマントを羽織っていた。黒を基調とした装いに、彼の美しい金髪と青い瞳が一層際立っている。
祭壇までの道をゆっくりと歩んでくるアレシアを見たイオンは、純白のドレスを身に纏ったその姿に目を見開いた。
その美しさに目だけではなく心まで奪われ、彼女のことを見つめたまま目が離せなくなった。
ティモンは、イオンの前までアレシアを連れて行くと、彼女の手をイオンに渡し、万感の思いを込めて深々と一礼した。
顔を上げたティモンは、目に涙を浮かんでいた。それを見たアレシアも泣きそうな顔になっている。
そんな二人を見ていたファニスは、大号泣しており、隣で同じように見守っていたクロエがさっとハンカチを差し出していた。
イオンはアレシアの手を受け取ると、ティモンに向かって手を差し出し、これからは僕が守るから安心してと目で伝えながら、握手を交わした。
イオンのエスコートによって、祭壇の前に並んだ二人。
司祭の言葉で、二人は互いに向き合った。
「イオン・サフィックス、ここにいる、アレシア・アルティーノを妻とし、生涯かけて愛し抜くことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「アレシア・アルティーノ、ここにいる、イオン・サフィックスを夫とし、生涯かけて愛し抜くことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
二人の真摯な返事に、司祭はゆっくりと大きく頷いた。
「それでは、誓いのキスを。」
司祭の言葉に、イオンは一歩前に進み、アレシアのベールに手を掛け、顔にかからないようにゆっくりと上げた。
軽く目を閉じていたアレシアは、ベールが上がると同時に、ゆっくりと目を開けた。
アレシアはその宝石のように輝く青い瞳に、イオンは自分を虜にするエメラルドグリーンの美しい瞳に、それぞれ吸い寄せられるように互いに見つめ合った。
数十秒見つめ合った後、イオンはアレシアの頬に手を添えると、彼女の顔が参列者の目に触れないよう、後ろを向かせて優しく触れるだけのキスをした。
一瞬の出来事だったが、アレシアは唇から伝わったイオンの熱に、身体中に衝撃が走った。それは、恥ずかしさでも緊張でもなく、愛されることの悦びが全身を駆け巡っていた。
心の内から湧き立つ感情を持て余したアレシアは、目に涙を浮かべた。瞬きと同時に、一筋の涙が頬を伝った。
イオンは涙を拭うように瞼にキスをすると、アレシアのことを軽く抱き寄せ、耳元で囁いた。
「アレシア、愛している。」




