結婚式当日
ここは王宮の敷地内に建てられている教会、ウェディングドレスの衣装に身を包んだアレシアは、控え室の椅子に座っていた。
純白のドレスに、彼女のプラチナブロンドの髪がよく映えている。
髪は上にまとめ上げ、その周りには白い花が飾られていた。
首元のレースの下には、金色の鷲が透けて見えている。
アレシアの強い要望で、イオンからもらったネックレスを身に付けて式に臨むことになったのだ。
「姉様、本当に、言葉に出来ないくらい綺麗だよ。本当に…幸せそうで僕は、嬉しい…」
「ありがとう、ティモン。もう私とイオンは結婚してるんだから、今更泣くことないのよ?」
式が始まる前から瞳を潤ませているティモンに、アレシアは茶化すように明るく声を掛けた。
父親がいないも同然のアレシアは、バージンロードのエスコート役をティモンに頼んでいた。
最初は、イオンがその役をやると言って聞かなかったのだが、新郎が新婦を連れてくるなんておかしいでしょうとファニスによって再三言われ、渋々ティモンに譲ったのだった。
ファニスが止めなければ、イオンはアレシアのことをお姫様抱っこしてバージンロードを歩くつもりだったらしい。
「アレシア様、そろそろお時間です。」
教会の者から連絡を受けたクロエは、アレシアに声を掛けた。
「分かったわ。ねぇ、クロエ。」
「何かございましたでしょうか。」
主の言葉に、部屋の隅に控えていたクロエはすぐさまアレシアの元へと駆け付けた。
「ベールダウンをお願いできる?」
「わ、わたくしがですか…」
「ええ。クロエ、貴女にお願いしたいの。」
ベールダウンとは、元来花嫁の母親が行うものである。ベールには魔除けの効果があるとされ、大切に守り抜き、新郎の元へと送り届けるという意味を持つ。
何があっても自分の味方でいてくれて、守ってくれる大切な存在、クロエのことをそう思っているこそ、母親の代わりをお願いしたのだ。
「身に余る光栄にございます…」
クロエは繊細なガラス細工を扱うような慎重な手つきで、丁寧にゆっくりとベールを掛けた。
「ありがとう、クロエ。」
「御礼を言うのはこちらにございます。アレシア様、神に誓うとはいえ、お辛くなる時にはいつでもお声掛けくださいませ。どのような相手でも、剣を取る覚悟がございます。」
相変わらずの主君至上主義のクロエは、真面目な美しい顔で物騒な言葉を言い放った。
彼女は、アレシアに向かって優雅な一礼をすると、後ろに下がり、ティモンに視線を向けた。
その視線に軽く頷いた彼は、アレシアの前に跪くと、恭しく頭を下げた。
「アレシア王妃殿下、此度はこのような大役を賜り恐悦の思いにございます。誠に僭越ながら、どうかその尊いお手を取ることを是認頂きたく、お許しを頂けますでしょうか。」
「アルティーノ公爵家次期当主、許諾を与えましょう。」
姉弟とは思えない挨拶を交わした二人は、目を合わせて微笑み合った。
「ティモン!時間がないから早足で行くわよ!」
「ちょっ!引っ張らないで!あ、ドレスの裾踏んじゃうから、ちょっと待ってってー!!」
「…お二人とも、お足元にお気を付けて行ってらっしゃいませ。どうかご無事で。」
すぐにいつもの二人に戻った彼らを見て、クロエは呆れてため息を吐いていた。
最後には思わず不穏な言葉まで言ってしまった。




