結婚式当日③
神の前での神聖なる誓いを交わした二人は、参列者の温かい拍手に包まれた。
お互いに親がいないも同然の二人の式は、イオンの側近達のみが参列した小規模なものであったが、彼らの熱量は凄まじく、祝福の声が鳴り止むことはなかった。
「アレシア、さぁ行こうか。」
「え??どこに??」
イオンはアレシアの手を取り、教会の外へと連れ出した。
どこに向かっているのか皆目見当もつかないアレシアは、イオンに先導されるがまま付いて行った。
「ああ、ごめんね。」
歩いて1分ほど経った後、イオンは物凄く申し訳なさそうな顔をして唐突に謝ってきた。
「え?何が?…ひゃっ!わっ!!!」
イオンは、ウェディングドレスごとアレシアのことを持ち上げて横抱きにした。
いきなりの浮遊感に、アレシアは軽くパニックになっていた。
「僕としたことが…アレシアにこんな苦難を負わせてしまうなんて…ドレス重かったろう?ここからは僕が運んで行くよ。」
「え!?ちょっと…!!自分で歩けるから!というか、どこに連れて行く気よ…!!」
ジタバタしたい気持ちでいっぱいのアレシアだったが、通常のドレスよりもかなり重い作りになっているウェディングドレス、イオンの負担にならないように大人しく彼の首元に掴まっていた。
「僕らの寝室。」
イオンは、自分の首元にある彼女の頬に顔をくっ付けて甘い声で囁いた。
その声に、アレシアの身体は硬直し、言葉が出なかった。
「…と言いたいところだけど、まだ少し時間が早いかな。先にこちらへの挨拶を済ませないとね。」
「…もうっ!!!!」
揶揄われたことに気付いたアレシアは、イオンの胸を軽く叩き、抗議の意思を示した。
彼はそんなことは全く気にせず、嬉しそうにアレシアのことを眺めながら目的地へと歩いて行った。
着いたのは、教会の近くに建っている塔だった。昔は、見張りのために使われていたらしく、門の方を見渡せるバルコニーが付いている。
イオンは、アレシアを抱きかかえたまま、塔内部にある階段を登り、上まで登って行った。彼は息一つ乱さず、涼しい顔をしている。そんな彼の凛々しい横顔にアレシアは見惚れていた。
「着いたよ。」
バルコニーに出る直前、ようやくアレシアのことを地上に降ろした。
今度は彼女の手を握り、ゆっくりとバルコニーへと進み、手すりに手が届く位置まで移動した。
「「「わあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」」」
アレシアとイオンが顔を出すと、大歓声が聞こえた。
王宮の正門を抜けてすぐの広場が開放されており、そこには何百という大勢の人が集まっていた。皆が笑顔で手を振り、歓喜の声を上げていたのだ。
そこには、貴族だけではなく、市井の人間も混ざっていた。服装こそ違えど、この国の王と王妃に対する気持ちは皆同じであった。
「これって…どういう…」
「言っただろう?君はすごいことをしたんだ。この国を大切に想う王妃に、皆感謝と祝いの気持ちを伝えたくて集まってくれたのだよ。ほら、皆に手を振ってあげて。」
イオンは、慣れた顔で、優雅に手を振り、端から端まで丁寧に視線を送った。
国王陛下の微笑みに、観衆の歓声は一際大きくなった。
その後、アレシアは、イオンよりもやや控えめに手を振り、皆に笑顔を振りまいた。
「「「「「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」
王妃殿下の麗しい笑顔に、更に大きな歓声が響いた。今日一番の歓声だ。あまりの音の大きさに、アレシアが思わず身をすくめてしまったほどだ。
「…妬けるな。」
観衆に笑顔を見せるアレシアに、イオンはまさかの嫉妬心を剥き出しにしていた。
その横で、アレシアは必死に涙を堪えていた。
こんなにも自分たちに対して温かい声をくれる国民に感極まったのだ。
この国のために、自分にしか出来ないことをやり遂げたい、その気持ちが一層強くなった。
彼女の様子に気付いたイオンは、観衆に向けてもう一度手を振ると、アレシアの肩を抱いてその場を後にした。
結婚式と国民への挨拶という大仕事を終えたアレシアは、部屋に戻って軽食を取った後湯浴みをし、着心地の良いシルクの夜着に着替えていた。今は、イオンとアレシアの寝室にいる。
神への誓いを終えた二人は、イオンからの強い要望で、今日から同じベッドで寝ることになっているのだ。
アレシアは、ベッドで待つことなど出来ず、そわそわと部屋中を歩き回っていた。
「アレシア?」
ドアで繋がっている部屋から、アレシアとお揃いの夜着を着たイオンがやってきた。いつも一つに束ねている長い金髪は、今は下ろしてある。
普段と違う姿に、イオンの神々しさと色気が増していた。
「落ち着かない?」
イオンは、動き回っているアレシアを捕まえて、そのまま抱きしめた。
「落ち着いている…と言ったら嘘になるけど、ちゃんと王妃教育を受けてるんだから、王妃として重要なことだって分かってるわ。だから、大丈夫。」
「そんな寂しいこと言わないで…」
「え?」
イオンの声は、今にも泣き出してしまいそうなほど悲しい色をしていた。
「これは義務なんかじゃないよ。僕がアレシアへの愛を伝えたいんだ。一緒に愛を感じて、一緒に幸せな気持ちになりたい。だから、アレシアは余計なことは気にせず、僕に愛されて、僕の愛に溺れて、僕だけを見て、僕で満たされて。だからどうか、この溢れる気持ちを受け取ってもらえないだろうか。」
「…あんまり、恥ずかしくなるようなこと、言わないで…」
抱きしめられているアレシアは、イオンの言葉に赤くなった顔を隠すように、彼の胸に頭を押し付けた。
「ふふ、これでも加減してるんだけどね。」
先ほどまでの悲しい色はどこへやら、いつもの調子に戻ったイオンは、アレシアのことを抱きかかえてベッドまで運んだ。
イオンは、アレシアの頭を押さえながらゆっくりと寝かせると、その上に覆い被さるように、深く交わるようなキスをした。
「…んっ」
思わず息が漏れた。
アレシアは、漏れ出た自分の声に、心臓が止まりそうなほど恥ずかしさでいっぱいになった。
羞恥心で死にそうになっている顔を隠そうとしたのだが、上に乗っかっているイオンによって、両手を掴まれてしまった。
「もっとその顔を見せて?僕のことで頭がいっぱいになるアレシアの顔が見たい。もっともっと満たしてあげる。安心して身を委ねて、僕に溺れて。」
イオンの言葉に、頭が真っ白になったアレシアは、羞恥心によって潤んだ瞳で見つめ返すことで精一杯だった。
そんな彼女の表情に、イオンの理性は完全に焼き切れた。
「アレシア、どうしようもないくらいに愛している。言葉で伝えきれない想いは、行動で示すから。余すことなく受け取って欲しい。」
先ほどよりもさらに深いキスをしてきたイオン。アレシアは、深い愛を感じる優しいキスに、目の前がクラクラした。
イオンは、一晩中休むことなく、アレシアのことを慈しむように丁寧に愛し抜いた。
これにて二章完結です!
少し置いて、三章を書く予定です。恐らく、そこで終わりになるかなと。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!!また続きも読んで頂けたら大変幸いです。
pvもブクマも評価ポイントもいいね!もいつもありがとうございます!!
引き続きどうぞよろしくお願いします。




