犯人を誘き出す
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「こうも毎回毎回、愉快犯みたいな事をされるんじゃ、ちょっとはやり返したくもなるわよ」
馬、鳥、犬、鼠と、散々被害にあったメレニアは、口を尖らせて主張する。リチャードは、意外そうに被害者令嬢を見た。
リチャードの印象では、メレニアがお転婆な行動をするとは予想外だったのだ。
馬にされた出会いの時からして、肝が据わった娘だと思った。しかし、攻手に転ずるタイプには見えなかった。
「今度は何にされるのか、解ったものじゃないんだぞ」
今までは動物だったが、すぐに潰されてしまうような虫にされる可能性もある。
「御守りをとられない工夫をしなくちゃね」
メレニアは、あくまでも前向きだ。
「そうは言ってもなあ」
2回も特殊な方法で、魔法防御のかかったペンダントの紐を切られた。物理強化を施したところで、魔法をキャンセルされるような事をされたら、無意味なのだ。
「とられないだけなら、紐を止めたらいいんだけど」
「ポケットに入れたら、落とすんじゃないか?」
「服に縫い込む方法もあるし」
確かにそれなら、ちょっとやそっとの事では盗られはしないと思われる。
「けど、そしたら、囮にはならないわ」
こちらが守りを固めれば、犯人が警戒するだろう。少しだけ防衛策を強化するほうが、誘き出すには良さそうだ。
「どうしても、囮作戦をやりたいのか」
「手っ取り早いでしょ」
リチャードの濃い紫色をした瞳が、困ったようにメレニアを見つめる。
最初は怒っていたようだが、今は、諦めモードだ。
それどころか、何処か優しく包み込むような眼差しを向けている。
(やだ、なんだか居心地が悪いわねえ)
やや場違いな甘い雰囲気に慣れず、メレニアは視線を逸らす。
「お茶をどうぞ」
絶妙なタイミングで、老いた補佐官がお茶を出してくれた。
「ありがとう」
「まあ、無花果ね」
お茶請けに出された干し果物は、メレニアの好物だ。可愛らしい籠に、繊細なレースペーパーを敷いて、干した無花果とナッツがたっぷりと盛られている。
「ミルレイク領の無花果ですよ。お嬢様は、小さい頃から好きでした」
補佐官は、リチャードに向かって説明をする。
「へえ。無花果が好きなのか」
嬉しそうに口元を綻ばせ、リチャードは問いかけた。
事件とは関わりのない、普段のメレニアの事を知れて、気分が浮き立つ。
「リックさんは?好きな食べ物って何かしら」
メレニアは、薬草園の仕事で節くれだった指で、無花果を摘まむ。手だけを見れば、およそ令嬢らしからぬ様子である。
だが、その仕草はどこか優雅で上品だ。平民出身の魔法使いであるリチャードには、眩しく映った。
「ナッツは好きだな」
リチャードは、少し考えてから返事をした。
「あら、良かった。どうぞ召し上がって」
メレニアは、籠を少し魔法使い側に押して、勧める。
「ありがとう」
一口飲んだ香り高い紅茶を置き、リチャードがナッツに手を伸ばす。すっかり囮作戦は何処かに行ってしまった。
壁際に下がった補佐官は、まるで給仕のように完璧なお茶を用意してくれた。
メレニアも、先程までのアグレッシブな様子とは打ってかわって、頬を染めている。
「可愛いなあ」
リチャードは、噛み締めるように呟いた。
愛しさを込めたその声は、明るい月が見守るこぢんまりした応接室に、驚くほどハッキリと響いた。
干し無花果に眼を落としていたメレニアが、はっと顔を上げる。輝く笑顔を初恋の青年に向け、2人の動きが止まった。
1人は、小さく茶色がかった無花果を、もう1人は、それと同じような色をしたクルミを、それぞれに指先で挟んだままだ。
2人の前に置かれた、ハーブ模様の大振りなカップは、飴色の液体を湛え、まだ湯気をたてていた。
次回、いざ追跡
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