消えた痕跡
誤字報告ありがとうございます
何時ものように眼を覗き込んで貰い、メレニアは人間の姿を取り戻す。この魔法は、リチャードの秘術なのだろう。自宅以外では使わないのだ。メレニアも察して、魔法が解けた詳しい方法は父にも話していない。
父も、魔法を扱う仕事だ。その辺は分かってくれている。単純に、目の奥をじっと見られる状況は、黙っているのが得策だと思ったのもある。
「噛みついたら、血が口に入ることになる。変身魔法がかかった状態で自分以外の血を取り込むと、人では無くなるぞ」
灰色マントの魔法使いの言葉に、メレニアは蒼褪める。
「助かりました」
「強気なのはいいけど、無茶すんなよ」
リチャードの縦皺が深くなる。
「ご免なさい」
メレニアが素直に謝ると、リチャードは肩を竦めて、
「送ったら、捜査協力に行ってくるよ」
「何か手がかりがあれば良いのですけど」
「結局魔法使いどもには、逃げられたしな」
やはり、魔法使いは複数居たようだ。黄色いマントの魔女と虹色の魔法使いは、別人だったのだ。
「とんだ夜会デビューだな」
言いながらリチャードは、魔法で直した御守りを手ずからメレニアに掛けてくれた。
メレニアは、ただ真っ赤になってリチャードを仰ぎ見る。
リチャードの濃い紫色が、メレニアの新緑を優しく捉えた。
永遠にも思える一瞬が過ぎ、メレニアは自宅に返された。
翌日の夕方、リチャードがメレニアの父ミルレイク子爵と連れ立って子爵邸を訪れた。事情聴取の内容を、ある程度教えてくれるという。
「本当は機密誓約をさせられたんだが」
前置きをして、状況を話し出す。
機密誓約は、口封じの魔法だ。誓約をした内容を話せなくされる。だが、リチャード・ストリングスは、難なく解いてしまったようだ。
(こっちは命がかかっているのよ。冗談じゃないわね。リックさんが柔軟な人で助かったわ)
重要な情報を秘匿されては、対策がとれないではないか。そもそも、あれほど危ない目に合わされて、被害者が放置されている状況はおかしい。
或いは、密かに監視が付いているのかも知れない。
「あの男、魔法技兵だった」
「まほうぎへい?」
「魔法で作られた兵隊だ」
「えっ、人間じゃあなかったの?」
「ああ。連行途中で土くれになったそうだ」
「ひーっ怖い」
黄色いマントの魔女を夜会で目撃したのは、リチャードとメレニアだけ。彼女の侵入経路も解らなければ、目的も判明しない。それどころか、存在自体を証明出来ない。証拠が掴めず、黄色いマントの国へ抗議すら叶わないのだ。
「虹色野郎は、今回も姿を見せなかった」
「手強いわね」
すべての魔法が、その人特有の色を放つ訳ではない。しかし、個人が開発した固有魔法は、それぞれの魔法使いの色が着くことが多いのだ。使いやすい魔法の種類は、その魔法使いの魔質によるからである。
「魔力の痕跡も上手く消して、追跡出来ねえ」
「ストリングス卿と同じ位の使い手みたいだね」
メレニア程度の魔力では、何処から変身魔法が飛んできたのかさえ解らなかった。
「黄色いマントの魔女も、探れないの?」
「証拠がないからねえ。下手に接触して、却って国際問題にされたら困るし」
「黄色マントと虹色が、仲間とは限らないしな」
「危害を加えようとしたのは、確かなんだけどねえ」
証拠も、痕跡も、綺麗に消されてしまっているのだ。
「結局、何も解らないし、出来ないのね」
「そうなんだよな」
(黄色いマントの国について、何か知らないのかしら?)
ふと、メレニアは思う。
「お父様、リックさん、黄色いマントの国は、確か、遠い北の山脈を越えた、更に先でしたわよね?」
「ん?何か気付いた事でもあんのか?」
「そうじゃないんだけど、随分遠い国じゃない?」
「強力な魔法使いは、どの国も欲しがるからな」
メレニアが気になったのは、別の事だ。
「マントの魔法使いって、凄い距離の移動が出来るのねえ」
「いや、流石に一気には無理だろ」
「これだけ頻繁に仕掛けて来るんだから、国内に潜伏してるんだろうけどな」
「それでも、解らないのねえ」
部屋の中は、重い空気に包まれた。
次回、ミルレイク子爵領
よろしくお願いします
※誤字報告ありがとうございます。「のねえ」は正しいので修正していません。「のよねえ」だと、意味が違ってしまいます。※




