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59話 彼の過去、そして復讐

 レストが物心ついた頃から、母は父の事をよく話していた。

 母にとって父は偉大だったようだが、その姿を見たことは一度もない。

 初めて父の姿を見たのは貴族として認められる七歳の頃だったか、その時に王の隣に立つ大臣を母は指差して言った。


 あれが父よ、と。

 王の隣に立つ父、それをまざまざと見せつけられて母がよく言っていた偉大だということを深く理解した。

 あの時からだ、父の為に働こうと思ったのは。

 

 大臣である父をサポートするために、レストは騎士を目指した。

 魔法学院に入学して、騎士を目指していた頃に母は死んだ。

 病だ。母が死んだ事にレストは悲しみを覚えたが、それに捕らわれ続ける訳にはいかなかった。

 レストには騎士にならなければならない理由があるのだ。

 ただ母が死に、そして母方の親族が不慮の死が続き一人になった。

 

 騎士になったレストが仕事をしていると、大臣に呼ばれた。二人しかいない部屋に呼、大臣からお前の息子だと伝えられる。

 それは勿論知っている。だからその事も伝えた上で、貴方に忠誠を誓います、と頭を垂れて言った。

 子供の頃からの念願の夢が叶った。あの時はその気持ちで一杯だった。だから、父の、大臣の満足そうな顔が何も不振に思わなかったのだ。

 

 それからは大臣の元で黒い仕事をこなしていると、騎士団長だったフォードルが死んでしまう。

 死んだ事を知ったその日、大臣は酷く荒れていた。

 当然だ、息子が死んだのだから。

 レストはその日、誰がフォードルを殺したのかを調査していた。

 

 フォードルが死んで三日後、調査を終えて大臣に報告に向かった。

 

「調査の結果ですが、殺したのは影の王だという事が分かりました」


 誰かが分かった瞬間、大臣は手の届く所にあった机に向かって右手を思いっきり振り下ろした。

 突然の事に驚き大臣を見ると、机に叩きつけた右手が痛むらしく、顔をゆがめながら左手で右手で擦っている。

 

「よくもやってくれたな! 影の王、私の計画を邪魔しおって」


 今まで聞いたことがないほど、ドスの効いた低い声だ。

 それほどまでに憎悪しが膨れ上がっていると、すぐに理解できた。

 レストは大臣の言っていた計画の全貌を知っている。だからこそ、大臣の言葉に反応して反射的に口を開く。

 

「私がフォードルの代わりになります。だから――」


「貴様に代わりが務まるものかッ!!」


 叱正だった。それは紛れもない事実だ。その人と代わりはいない。しかし、レストは心の奥底で大臣の息子であるフォードルに憧れていた。

 同じ息子のはずなのに何故ここまで違うのか、と。

 その答えが叱正だった。

 言葉を飲み込むのに時間がかかっていると、大臣は自分の言った事の意味に気づいて気まずそうな顔を浮かべる。

 

「すまない、少しの間一人にしてくれないか?」


「分かりました」


 ここは長居するべきではないと判断し、レストは去って行く。

 息子一人が死んだ、親としてそう思うのは当然だ。ただ、少しばかり引っかかる所がレストにあった。

 調査の報告をした時に心配したのは息子ではなく計画であり、口では説明できない何かを感じていたのだ。

 だから、調べる。

 

 大臣に頼まれて調査の真似事をしていた。だから調べるのは得意だ、それで分かった事、あれはクズだという事。

 王族に謀反を考えるのだから当然だが、思っていた以上にクズだった。

 母が死んだ後に母方の親族の不慮な死、あれは大臣が画策したものだ。それを大臣と仲の良い貴族に脅して聞いた時、上手く立つことができなかくなったほどである。

 

 疑心に変わった、それから、時間をかけて少しずつ少しずつ調べていき、本人の口から聞いてみたいという欲求が生まれていく。

 上手く調整し、酒を酔わせて、そして聞いた。

 

「馬鹿も使い用だな」


 酒の入ったグラスをゆらゆらと揺らしながら、揺れる酒を大臣は見ていた。

 顔は仄かに赤く、酒に酔っていた。だからこそ、硬かった口が緩む。

 

「あのまま何も考えずいてほしいが、そのために周りを葬って孤立させたんだ」


 レストはそれを聞いて、怒りで身体が震える。大臣が誰の事を言っているのか、すぐに分かった。

 当時、家族や親族を失い一人っきりだったレスト、それを救ってくれた大臣に感謝すらしていほど。

 誰も頼る人がいない状況で頼る人が現れれば、頼ってしまうのは必然だ。

 しかし、それが狙っての事だと聞いて怒りを覚える。

 

 怒りで身体がわなわなと震えている間、大臣は酒を飲みつつなにやらまた色々言っていた。

 

「それにしても、息子が死んだのは想定外だったな。おかげで計画も延期になった。――そういえば、アレが息子の代わりになる、なんてほざいていたな」


 ふっと鼻で笑う大臣は続けて言う、

 

「素質もないゴミに息子の代わりができる訳がない。その点、私の子供だと周りに認知させなかったのは流石私、というべきか」


 もう親として信頼は全てなくなった。

 息子すらも道具としか見てない事に、怒りはとうに吹っ切れて逆に冷静になってしまうほど。

 聞くことすら苦痛になり、レストは音を漏らさずに去って行く。

 その後ろではまだ、大臣が何か言っているのが聞こえていた。

 

 レストにとって、全てがどうでもよくなった。父も、国も、全て。だから、復讐することにした。大臣の、そして国を滅ぼす復讐である。

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