それぞれの答は
「──俺は血眼者だ」
皆の視線が集中する中で。
アノンは語る。空になった胸腔を皆に晒しながら。
「クレテラと同じように──あんたたちを騙していたことになるな。それに関しては謝ろう」
「…………」
一同からの反応はない。
皆、アノンの瞳と胸に視線を集中させたまま固まっている。
それでも構わない、という風に、アノンは淡々と言葉を続けた。
「俺を処断するなら、その剣を使え。心臓を潰せばカタが付く。後腐れなく終わりにできるはずだ」
どくん、と。
彼の言葉に呼応したかのように、彼の胸の中で肉が蠢き、盛り上がった。
血管を形作り、脈打つ袋を生み出し。
あっという間に、それは新しい心臓となった。
「……アノン、は」
沈黙を破ったのはロネだった。
「何のために血眼者と戦ってたの? どうして、ぼくたちを護ってくれていたの?」
「何のために、か」
アノンは肩を竦めた。
「俺自身が血眼者に恨みを持っていたからだ。あんたたちを護ることになったのはもののついでというやつだな。人間の味方だとか、そういうことを言うつもりはない」
「ぼくたちと争うつもりは、あるの?」
「ないな」
徐々に再生し元に戻っていく胸を撫で、彼は言った。
「争うことに何の得がある? 此処であんたたちが俺を殺すと言って武器を持ったとしても、俺は抵抗しない。大人しく運命を受け入れるさ」
ふっ……と笑う。
それは、全てを達観しているかのような、何処か疲れの色を滲ませた笑みだった。
「人間だからとか、血眼者だからとか、そういうのは主張したところで疲れるだけだ」
ロネたちは人間で、アノンは血眼者だ。その事実が変わるわけではないのだから。
ロネは前に歩み出て、アノンの前で膝を付き、彼と目線の高さを合わせた。
「──生きよう」
手を差し出し、アノンの目をひたと見据える。
「これからも……ぼくたちと一緒に、皆と一緒に、暮らそうよ。アノンがそうしたいって少しでも思ってくれているのなら」
アノンは若干呆けたような顔をして、差し出されたロネの手を見つめた。
「今まで仲良く暮らせていたんだもの。これからも仲良くできるはずだよ。アノンが血眼者だって分かったから争うだなんて、今までのことをなしにするなんて、そんなのは間違ってる気がする」
「……あんたたちはそれでいいのか」
アノンは視線を持ち上げて、自分を取り囲む大人たちの顔を順番に見た。
ネフェロは後頭部を掻いて、普段通りの微笑み顔をアノンへと向けた。
「……何が正解かなんて、分からないからねェ」
「てめぇが決めろ。自分の意思があるんだからよ。オレらに答を求めるなんざ、現実から逃げるのと同じだ。甘えてんじゃねぇ」
フィレールは腕を組んで鼻をふんと鳴らした。
「私たちは、血眼者だから争うとか、そういうものの見方をするつもりはないですよ」
セレヴィはロネの横にそっと寄り添い、小さな彼の肩に優しく手を置いて、言った。
「敵意を向けられたから、対抗する。今までもそうだったではありませんか」
「人間にだって悪い奴がいるんだから、血眼者にそういうのがいたって不思議じゃないわよね」
髪を掻き上げ、ミラノはアノンの目を見つめ返した。
アノンは皆からの言葉を受け、視線を伏せ加減にした。
まっすぐに前を見据える彼の赤い瞳は、何を映しているのだろうか。
『自分だって受け入れられたんや。アノンさんが受け入れられないわけがあらしまへん』
静かに、アノンに言葉を掛けるイース。
『一緒に、答を探しましょ。全てはそれからでも遅くはないのとちゃいますやろか』
「……それが、あんたたちの答えか」
ゆっくりと、息を吐き。
額にずらしていたゴーグルを元通り装着して、アノンは右手を持ち上げた。
差し出されたロネの掌を、控え目に、だがしっかりと握る。
ロネがにこっとはにかむ。それを見ながら、アノンは、
「──俺は」
胸の内に抱いていた答を口にするべく、唇を開いた。




