血で描く結末
崩れていく。
アノンの手の中で。彼の生命の核が。熱い血潮を宿した彼の心臓が。
溢れんばかりの血を滴らせ。
アーゼンは見た。
心臓が吐き出す赤が、重力とは異なる方向に収束していく様を。
ロネは見た。
アノンの手の中で、心臓が何かの形を描いて変化していく様を。
血管は手に馴染む柄に。肉は長大なラインを形作る刀身に。
それは、まるで斬首台に備えられている刃のような──
人の身の丈を超えた、巨大な剣となった。
「──アノン。もしや君は──」
クレテラの言葉は、最後まで続かなかった。
アノンが振り下ろした剣が、クレテラの胸を深く切り裂いたのだ。
どば、と大量の血が溢れてアノンに降り注ぐ。
力を失った巨体が、ぐらりと傾いで横に倒れていく。
形になりかけていた風の刃が力を失い、ただの微風となって散っていった。
「……まさか、兄様……!」
クレテラが倒されたという事実に、慄くブリスタ。
アノンはゆっくりと顔を上げ、ブリスタの姿を視界の中央に捉えた。
右手の剣を水平に構え、翼を広げてブリスタへと向かっていく。
ブリスタが炎を吐く。それはアノンの左脇を掠めて通り過ぎていくのみで、アノンにとっては牽制にもなりはしなかった。
相手の懐に飛び込んだアノンは、右手を横一文字に振り抜いた。
彼の剣は、身構えたブリスタの腕ごと胸を斬った。
ばっと血が飛び散って露出したブリスタの心臓を、袈裟に断ち割る。熟れたトマトのように潰れる肉の塊を、彼は冷たい目で見下ろした。
「たかが血眼者如きが、とでも言うべきか? 俺をただの人間だと思ったのがあんたたちの敗因だ」
ゴーグルに付いた血を拭い、静かにその場に降り立つ。
仰向けに倒れたブリスタの身体が、地面を打って土埃を巻き上げる。
もはやぴくりとも動かない竜たちに背を向けて、アノンは自分のことを口を半開きにして見つめているアーゼンを見つめた。
その場に座り、槍と剣をがしゃりと放り投げる。
「……言い訳はしない。言いたいことがあるなら聞こう」
ゴーグルをずらし、瞳を晒す。
黄金色だったはずの彼の眼は、熟したワインのように深い緋色を宿していた。
「──アノンは」
元の少年の姿に戻ったロネが、尋ねた。
「……人間じゃ、ないの?」
──戦いが終わった地に、仲間だった者たちが集ってくる。
彼らが集まるのを待って、アノンはロネの問いに答えるべく口を開いた。




