秘匿された真実
その日の来訪は、いつも通り唐突だった。
「お邪魔するのサ」
一同が注目する中颯爽と大地に降り立ったブリスタは、お決まりの挨拶もそこそこにアノンを指差した。
「今日こそその武器、頂くのサ」
「しつこいな、あんたも」
気だるげに車椅子を反転させて、アノンはブリスタと傍らのアーゼンに言った。
「武器は渡さないと何度言えば理解できるんだ。子供でももう少し聞き分けは良いぞ」
「ふふん。今日も何もできずに引き下がると思ったら大間違いなのサ。今日は一味違うのサ、何と言っても強い味方がいるからね!」
ブリスタは胸を張り、腕を組んだ。
「クレテラの兄様、全ては整ったのサ! 今こそ、我らの悲願を此処に!」
「!?」
クレテラ、の名に目を見開くアノン。そして一同。
名指しされたクレテラはゆっくりとその場から歩み出ると、アノンの横を通り過ぎてブリスタの前に移動した。
手に、アノンの剣を持っている。
すれ違った際に、アノンから取り上げたのだろう。
「──そうなんだな」
クレテラは剣を下段に構えて、アノンと対峙した。
「四方神の力を手に入れた武器──人間の君には過ぎた力なんだな。我らにこそ、相応しい」
「──何の真似だ、クレテラ」
アノンはクレテラを見据え、問うた。
クレテラは、これが冗談ではないと言わんばかりの真面目な面持ちで、アノンの視線を真っ向から受け止めた。
「全ては、我らが四方神の力を得るために計画したこと──こうなることは、最初から決まっていたことなんだな」
クレテラ、曰く。
土地の開拓計画を立てて協力者を集めたのは、普段は何処にいるか皆目見当も付かない四方神を自分の下におびき寄せるため。
血眼者と戦う狩人を用意したのは、自分の代わりに四方神と戦う人材を確保するため。
全てが上手くいったら、後は頃合いを見計らって四方神の魂を封じ込めた武器を取り上げるつもりであった。
今、クレテラがやってみせたように。
「感謝するんだな、アノン。君のお陰で、四方神の力は我らのものになったんだな」
すっと目を閉じ、そして開く。
澄んだ青色をしていたクレテラの瞳が、絵の具を混ぜ合わせたかのように暗い血溜まりの色に変化していく。
アノンは表情を険しくして、呻いた。
「血眼者か……あんたも」
「もう、狩人も開拓地も必要ないんだな。全部、葬ってあげるんだな」
クレテラの背が、大きく不自然に盛り上がる。
衣を突き破って現れたのは、巨大な一対の青い翼だった。
変化はそれだけに留まらない。皆が見ている前で、クレテラはその身を大きく変貌させていった。
鱗を纏った四肢は膨張し、鋭い鉤爪を備えた爬虫類の手足に。
顔は面長になり、牙を生やした蜥蜴のものに。
胴体はは長い尾を生やした巨大な身体へ。
深い青を宿した竜へと、変化を遂げた。
「……あ……」
どくん、と大きく脈打った心臓に手を当てて、ロネは声を漏らした。
沈没する直前の船の上で目の当たりにした光景が、フラッシュバックして蘇る。
船を難破に追い込んだ、巨大な生物の姿が記憶の底から呼び起こされたのだった。
あの時に見たものと同じ──
ひょっとして──船を沈没させたのは──
「私たちは、騙されていたのか」
ブリスタから離れ、アーゼンは槍を構えた。
「私たちは、何のために今までを戦って──」
「無駄な抵抗はやめるのサ、アーゼン。大人しくその武器を渡すのサ」
ブリスタは笑みを浮かべてアーゼンを見つめた。
「君1人が抗ったところで、結果は見えてるのサ。無駄なことはしないに限るのサ。──それとも」
指先を突きつけるブリスタの全身もまた、歪み、膨張して、クレテラと同じ赤色の竜へと変じていく。
「戦うのサ? 神同然となった我々と、1人で」
ブリスタは喉をぐるると鳴らした。笑っているようだ。
クレテラは持っていた剣を口元に持って行き、それを、獲物を食するように口内へと含んだ。
喉をごくりと鳴らし、翼を大きく広げてアーゼンを悠然と見下ろす。
「……私は逃げない」
アーゼンは奥歯を噛み締めて、声高に言った。
まるでそれは、自分自身を鼓舞しているかのように。
「1人でも、戦ってやるさ──皆を護ると、自分に誓ったからな!」
「あんたたちは離れていろ。巻き添えを食らいたくなかったらな」
アノンは背後のネフェロたちに言った。
その言葉にフィレールが反論する。
「それを言ったらお前もだろうが! 武器を取られたの、自覚してねぇのかよ!」
「俺には俺なりの戦い方がある」
アノンは退かなかった。2体の竜を見据えて、普段通りの冷静さを崩さずに言った。
「武器がなくても俺は狩人だ。血眼者を前に背を見せるわけにはいかない」
「そういうことなら──オレたちも逃げるわけにはいかないよねェ」
腰の剣を抜き、肩に担いで、ネフェロは笑った。
「一緒に戦わせてよ。オレたちも当事者なんだし、そのくらいの我儘は言ってもいいでしょ?」
「……全く、此処には馬鹿しかいないのか」
アーゼンは口の端を上げた。
「殺されるんじゃないぞ。私から言えるのはそれだけだ」
「ん。りょーかーい」
一同は竜と対峙する。
アーゼンはすうっと大きく息を吸い、先陣を切ってその場を駆け出した。




