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始まりの開拓者たち  作者: 高柳神羅
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人間とは

 汗と血を滴らせ、2人の男は何度目かになる渾身の一撃を繰り出す。

 しかしそのいずれも、相手の致命傷には至らない。

 紙一重で急所をかわすその動きは、最初の頃と比較すると随分と鈍ってきてはいるものの。

 意地が。矜持が。彼らに力尽きることを許しはしないのだ。

 ノースが放つ水の刃の連撃を、アノンは剣で打ち払う。

 ばしゃ、ばしゃと剣に当たって弾け散り、何の力も持たない水飛沫と化すそれらを全身に纏いながら、アノンは剣を真横に一閃する。

 それを、ノースは咄嗟に右手で生み出した水の剣で受け止めた。

 拮抗した力のぶつかり合いに、彼は舌を鳴らして左手を掲げた。

 生まれた水球に生える無数の棘。それは内からぱっと弾けて弾丸のようにアノンを襲う。

 アノンは相手の脇の下をくぐり抜けるように体勢を低くして降り注ぐ棘をよけた。

 そのまま背後へと回り込みながら、剣を下段から突き上げる。

 剣先がノースの胸元を掠める──が、浅い。

 斬られた衣が風圧で靡く。ノースはアノンの方へと向き直りながら、彼に見舞うべく力を練った。

「ちょこまかと……!」

 ノースの頭上に、水の波紋のようなゆらぎが生じる。

「弾け飛べ!」

「もうやめて!」

 唐突に横手から割って入った声に、ノースとアノンは同時に振り向いた。

 水差しを腕の中に抱いたロネは、彼が作る表情としては珍しい険しい顔をして、2人のことを見つめていた。

「2人とも、戦わないで……話ができるのに、話さないなんておかしいよ!」

「話だと?」

 ノースはロネの言葉を一笑に伏した。

「寝言は寝て言え。人間と話をする必要が何処にある」

『そう言わんと、聞いたってな。この子の話、聞く価値はあるで』

「──その声」

 ノースの片眉が跳ねた。

「くたばってなかったのか。イースさんよ」

『自分はこの子に賭けることにしたんや。なかなか捨てたもんやあらへんで? 人間の、想いが作ろうとする未来は』

「くだらねぇ」

 へっ、と笑い飛ばし、ノースはロネから視線を外した。

 眼前のアノンを睨み据え、言う。

「人間と! 血眼者は! 未来永劫! 相容れねぇんだよ!」

 かっと目を見開く。

 ばっ、とアノンの額に血煙が生じた。

 唐突に額に生まれた痛覚に、アノンは思わずノースから視線を外して頭を抱えた。

 生じたその隙を見逃すノースではない。

「貰った!」

 右手を掲げ、水を束ねた鋭い槍を作り出す。

 狙いは──アノンの頭。

「大人しく死にな! 狩人さんよ!」


「──その言葉、そっくりそのままお返しするんだな」


「……あ……?」

 ぼたり、と口から滴った液体の存在に、ノースは目を瞬かせる。

 放とうとした力が霧散し、消えていく。

 指先に震えが生じ、それは、次第に全身へと広がっていく。

 胸元に視線を落とす。

 見覚えのある剣が、胸の中央を深々と貫いている光景が目に飛び込んできた。

 アノンの剣だ。

 しかし、柄を握る手が、アノンのものではない。

「滅びるんだな、北方神」

 剣を握る手をぐりっと捻り込み、クレテラはノースをまっすぐに見つめて静かに言った。

「これで、四方神討滅は完了したんだな」

「てめぇっ……狩人でもねぇくせにっ……!」

「……!」

 突如として現れた青の道化師に、ロネは目を見開いた。

 望んでいた対話のチャンスが潰えてしまったことを、悟ったのだ。

「クレテラ! どうして……」

「四方神は潰さなければならないんだな。今後のために、どうしても」

「理由になってないよ! せっかく、分かり合えたかもしれないのに、どうして──」

 ノースの全身が淡い光に包まれる。

 ノースはロネが持つ水差しに目を向けて、憐れみとも取れる表情をした。

「……これが、人間だ……信じるとか、とんでもねぇ話だぜ……」

 はぁ……と深い深い息を吐き。

 彼は光と化して、剣の中に吸い込まれていった。

 貫くものがなくなった剣を持つ手をゆっくりと下ろし、クレテラは呟く。

「これで、四方神は皆手中に落ちた──」

 翼を失い尻餅をついているアノンに目を向けて、微笑んだ。

「今まで本当によく戦ってくれたんだな……アノン。御礼を言わせてもらいたいんだな」

「…………」

 血に濡れた額を押さえながら、アノンは無言でクレテラのことを見上げている。

 クレテラは独りで呟きを続けていた。2人が注目していることも、まるで気にしていない様子だった。

「ようやく、計画が完遂できる時が来たんだな……感無量なんだな」

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