風呂に入りたい者たち
クレテラが調達した着替えは、皆からはとても喜ばれた。
お洒落とは無縁の質素なデザインの衣服が殆どだったが、初めて着替えができるようになった環境を前にそのような問題は些細なものだった。
早速皆は着替えをし、身に着けていた今までの衣服は洗濯をした。
洗剤がないためざっと水洗いしただけであるにも拘らず、数ヶ月分の汚れを吸った服たちは桶の水を真っ黒に染め上げた。
洗った衣服は木々の間に張り巡らせたロープに吊るして干した。
生活臭溢れる光景に、田舎暮らししてるみたいだと言ったのはロネだ。
サバイバル生活も、初期の頃と比較すると水準が上がってきたということなのだろう。
もっとも、彼らが目指すのはこの程度の暮らしではない。
文明人らしい生活を。それの実現を目指して、今日も彼らは奮闘するのである。
「お風呂に入りたい」
ロネが釣ってきた魚の下処理をしながら、ミラノはぽつりと呟いた。
隣で野菜の皮を剥いていたセレヴィが、え?と怪訝そうにミラノの方を見る。
「お風呂ですか」
「水浴びはしてるけど、やっぱりお風呂よ。温かいお湯にじっくり浸かりたいわ」
湯の温かさを思い出したのだろう。はあ、と彼女は溜め息をついた。
「お風呂、作れないかしらね」
「……ふむ」
ナイフを動かす手を止めて、セレヴィはしばし考え込んだ。
「仮にバスタブが工面できたとして、どうやってお湯を張るのかという問題がありますね」
「鍋でお湯を沸かして貯めていく……ってやり方じゃ途中で冷めそうよね」
竈の上に載せてある鍋を見て、ミラノは肩を竦めた。
確かに、こんな小さい鍋では1度で沸かせる湯の量などたかが知れている。入浴に必要な量の湯を沸かしている間に、先に風呂釜に貯めておいた分が冷めてしまうだろう。
「せっかく服が洗濯できたんだから、身体も綺麗にしたいなって思ったんだけど、上手くいかないわね」
「……文明の力は偉大ですね」
「そうね」
ガスや水道が普通に使えた頃の生活が、如何に恵まれたものだったか。
文明社会出身の彼らにとって、それは贅沢な悩みであると言えよう。
今でこそサバイバル生活に随分と慣れたとはいえ。根底にある感覚はそう簡単には変わらないのだ。
「ねえ、あの人に頼んでみない? お風呂、作れないかって」
あの人、とはアノンのことを指しているようだ。
「割と何でも作っちゃうし、ひょっとしたらお風呂だっていけるかもしれないわよ」
「……そう簡単に作れるものなんですかねぇ」
セレヴィは竈の鍋を見た。
風呂とは、要はこの鍋のようなものなのだ。湯を満たせる容器があって、湯を沸かす設備があって、初めて成り立つもの──
「……あ」
ふと、声が漏れる。
目を瞬かせるミラノに、セレヴィは微笑み顔を向けた。
「何とか、できるかもしれませんよ」




