計画は次の段階へ
「2人目の四方神」
クレテラは静かに言った。
「モノイの狩人が倒した四方神を含めると、3人。我々の手に落ちたことになるんだな」
車椅子の背凭れに立て掛けてある剣に視線を注ぎ、次いでアノンを見る。
アノンは黙して車椅子に腰掛けていた。
彼のゴーグルに映るランプの炎の光が、ゆらゆらと陽炎のように揺らめいている。
「これで、残るは北方神のみなんだな」
「……俺たちは四方神を狩るのが目的じゃない。そんなに四方神に気を取られなくてもいいんじゃないか」
アノンは額に左手を持っていき、そっと指先を触れた。
南方神からの一撃を受けて負傷した頭の傷は、今ではすっかり血が止まって大きな瘡蓋になっていた。
頭に限らず、彼にはこのように治癒しかけの傷が数多くある。
薬も包帯もない環境下だからこそ自然治癒力に頼らざるを得ないのだが、この回復力は素直に立派と言えるだろう。
「向こうの方から出てきたら相手をする。それで十分だ。こっちから構える必要はない」
「……まあ、そう言われればそうなんだな」
クレテラは運んできた物資を詰めた麻袋の口を開いて、中身をひとつずつ取り出していった。
誰かが着ていたと思わしき衣類が次々と出てきた。明らかに女性物と見て取れるワンピース、男女で兼用できそうなスロップス、色々ある。
この未開の土地でどうやって入手したのか疑問に思えるほどの量であった。
「頼まれてた服、探してきたんだな。これだけあればしばらく持つんだな?」
「ああ」
アノンは頷いて、手近な位置に置かれたチュニックを手に取った。
広げて、状態を確認し、元の位置に戻す。
「後で皆に渡しておく」
「鉄鉱石も補充できたようだし、いよいよ」
「そうだな──」
こくん、と小さく喉を鳴らし、彼は胸元に掌を当てた。
ゆっくりと、静かに深呼吸を3度繰り返し、ふう……と長く息を吐く。
「開拓地を拡大する準備が整った」
「……アノン。また、侵蝕が──」
「すぐにどうこうなるわけじゃない」
クレテラの言葉を遮って、言う。
「それに、これから更に忙しくなるんだ。倒れてなんていられないさ」
「……服は替えられるようになったけど、身体は替えが利かないんだな。無茶をして壊す前に、休むようにしてほしいんだな」
クレテラの言葉に、アノンは答えない。
それは、休むつもりなど毛頭ないと無言の宣言をしているようなもので。
この男は頑固だと改めて感じたクレテラは、ふっと小さな溜め息をついたのだった。




