2人目の神
アノンは車椅子に腰掛け、空を見上げていた。
そよぐ風が彼の髪を弄び、通り過ぎて天へと還っていく。
何事も起きていない、穏やかな昼下がり。
このまま昼寝をしていたいような、そんな心地良さがある。
此処が血眼者のいない平穏な土地であったなら、そんな生活をするのも悪くはなかっただろう。
柔らかな日差しを浴びながら、彼は静かに口を開いた。
「──随分大人しいじゃないか」
「騒がしいのは好みではないのでな」
彼の背後に現れたその男は、燃えるように赤い髪を掻き上げて、答えた。
髪色と同じ紅蓮色の法衣が、風に広がって彼を大きく見せている。
アノンはゆっくりと振り返った。
「東方神は倒した。俺をただの人間だと思っているなら痛い目に遭うことになるぞ」
「分かっている」
男は真紅の瞳をまっすぐにアノンに向け、右手を真横に翳す。
ぼっ、と炎の渦が掌の先に生まれ出て、それは帯を伸ばし、一瞬で巨大な槌へと変貌を遂げた。
「脆弱な人間如きと過小評価はしない。全力で叩き潰す。それがイースに対する弔いよ」
「…………」
胸の辺りを掌で撫で、アノンは背凭れに引っ掛けていた剣を手に取った。
目を閉じて、ふー……と静かに息を吐き、椅子の肘置きをついと押してその場に起立する。
ばさりと翼をはためかせ、彼は男を見据えて剣の構えを取った。
「イースを下した汝の腕前に敬意を表して、名乗ろう」
男は槌を地面に突き落とし、朗々と言った。
「我が名は南方神サウス。全力で抗うがいい、血眼者の魂を喰らう人の子よ」
びゅ、と強い風が吹いた。
座る者がいなくなった車椅子が、からからと押されてゆっくりと2人の傍から離れていく。
車輪の縁がこつんと竈の石にぶつかり、車椅子は動きを止める。
その音を合図に、2人の男は同時に相手に向かって地を駆けた。




