採掘道、再び
「ねェ」
かつん、かつんと鶴嘴を振るう音に混ざって、ネフェロの声がする。
それには取り合わず、フィレールは無言で鶴嘴を振るい続けた。
普通の石に混ざってぽろぽろと顔を覗かせる大小様々な鉄鉱石が、彼の足元には大量に転がっている。
前回同様、今回も順調に数が集まっているようだ。
「ねェってば」
ある程度掘り進めたら、用意しておいた麻袋に鉄鉱石を詰め込んでいく。
掘っては詰め、掘っては詰めの繰り返しで、まだ到着してそれなりの時間しか経過していないにも拘らず、既にそこそこの量が袋の中には集まっていた。
「フィレールー」
ぎゅむ、と背後から覆い被さる大きな鎧。
遂に堪えきれなくなったのか、鶴嘴を振るう手を止めてフィレールは喚いた。
「……ああもううっせぇな! 事ある毎に抱き付くなつってるだろうが!」
「寒いんだよォ。フィレールあったかいし、ちょっとでいいからオレのことあっためてくれない?」
「そんな金属の塊着てるから冷えるんだろうが! 鎧脱いで体動かせ! オレの体温を奪うな!」
がー、と冬眠明けの熊のように両腕を振り上げてネフェロの束縛を振り解き、フィレールは眉間に皺の寄った顔をネフェロの方へと向けた。
「さっきからオレばっかり作業してんじゃねぇか! さぼるな!」
「だって寒いんだもん」
「そんなのオレの知ったことか!」
鶴嘴を置いてネフェロに掴みかかり、半ば強引に彼が着ている鎧を剥ぎ取りにかかるフィレール。
きゃあ、とわざとらしく女のような声を上げて、ネフェロが胸元を抱き込むような仕草をした。
「フィレールのエッチ! オレの心の準備ができるまで待ってくれたっていいじゃない!」
「気色悪い声出すな! 鳥肌立つわこの馬鹿野郎が!」
「いやぁぁぁ」
ひと悶着ありつつも、結局ネフェロの鎧はフィレールの手によって脱がされた。
インナー1枚になった上半身を丸め、ネフェロが震えながら抗議する。
「寒い! 凍っちゃうってばフィレールの馬鹿ー」
「オレより厚着だろうが情けねぇ野郎だな! 働いてりゃ寒くなんざねぇよ!」
これ以上の問答は時間の無駄だと思ったらしい。フィレールはネフェロを一瞥し、置いていた鶴嘴を握り締めて採掘作業を再開した。
はぁ、と溜め息をつき、ぐすっと鼻を鳴らしてネフェロは自分の分の鶴嘴に手を伸ばす。
「フィレールは結局オレの裸が見たかっただけなのね……後のことはどうでもいいなんて、酷いよォ」
「…………」
ぞわぞわっと背中を駆け抜けていったものに身震いし、思わず作業を中断するフィレール。
「人聞きの悪いこと言うな! 誰が野郎の裸なんか見て喜ぶってんだよ!」
「オレはそんなに安い男じゃないのにー……」
「ああもう、話になりゃしねぇ!」
フィレールは吠えて力任せに鶴嘴の先端を壁に叩き付けた。
「一応命が懸かってる仕事なんだからふざけんな! 怪我しても責任取らねぇからな!」
「……まぁ、確かに、ね」
それまで女々しくぶつぶつ呟いていたのが嘘のように、ネフェロの顔からふわふわとした浮いた雰囲気が消えた。
二の腕を掌で擦りつつ、ネフェロは坑道の壁を見据えて言った。
「崩れて生き埋めなんて事態が起こらないとも限らないんだよね。此処で」
かつん、かつんと壁を掘る音だけが穴倉に響く。
す、と息を吸い、彼は鶴嘴を構えた。
「早いところ作業を終わらせて、此処を出よう。そしたらオレのことあっためてくれる?」
「まだ言うか!」
ぼこっ、とフィレールの鉄拳が飛ぶ。
脳天を強打されてもその痛みも何処吹く風で、ネフェロはにこりと笑うと鶴嘴を目一杯振り上げた。




