新たな能力
ばさっ、ばさっ──
大きな翼が空を叩く音が響き渡る。
朝食を食べていた一同が、視界に影が差したことに気が付き、空を見上げると。
すっかり顔馴染み──と言えるかどうかは定かではないが──となった巨大鳥が舞い降りてくる様子が目に映ったのだった。
「お邪魔するのサ」
地面に降り立った鳥が槍を携えた女の姿に変わる横で、先に着地したブリスタが指先を突きつけ胸を張る。
「今日こそ武器を頂くのサ! さあアノン、勝負なのサ」
「…………」
程好く煮崩れたジャガイモを頬張り、咀嚼していたアノンがゆっくりと声のした方に振り返る。
複雑な面持ちのまま槍を携えているアーゼンの姿を視界に捉えて、鼻から溜め息を吐き、器を膝の上に置いた。
「……食事くらいゆっくりさせてくれ」
まだ半分以上残っているスープの入った器に一瞬だけ視線を戻し、それを隣に座っているセレヴィへと渡して、車椅子を反転させる。
背凭れに引っ掛けていた剣を手に取りつつ、ブリスタたちがいる方へと前進した。
「仕方がないから相手をしてやる。気が済んだらさっさとあんたたちの開拓地に帰れ」
「そんな大きい態度をしてられるのも今のうちだけなのサ」
ブリスタはアーゼンの傍から1歩離れ、ばっと片手を振り上げた。
「新しく手に入れた力、見せてやるのサ! アーゼン!」
アーゼンは槍を力強く地面へと突き立てた。
ぼごっ!
アノンが佇んでいる地面が音を立てて陥没する。
横倒しになる車椅子。アノンは間一髪のところで翼を召喚し、宙へと逃れた。
「よく逃れたな。褒めてやる」
アーゼンが言う。しかし声音が普段の彼女のものとは違っていた。
彼女は、山吹色の法衣を纏った男へと姿を変えていた。占い師風の出で立ちといい、その姿には既視感がある。
「……イース……!?」
席を立ち、声を上げるロネ。
確かに彼が言う通り、現在のアーゼンの格好には色こそ違えどイースのそれと共通点が多い。と言うよりもそっくりだった。
ロネの声はアーゼンにも届いていたようで、彼女は彼の方に僅かに目を向けると、言った。
「西方神、の名は聞いたことがあるか」
西方神、の単語に、アノンの眉が跳ねた。
アーゼンは右手の指先をアノンへと向けて、不敵に笑んだ。
「血眼者の神と称される存在を、私は倒した。西方神の力が、私のものになったのだ」
大地が隆起し、土で構成された巨大な錐が幾つも生まれ出る。
それは四方からアノンを取り囲むように迫ってきた。
アノンは高度を上げて錐の包囲網から逃れると、アーゼンとの距離を一気に詰めた。
剣を斜めに振り下ろす。
それはアーゼンが左手で生み出した土の障壁に阻まれて、彼女へと刃が届く前に勢いを殺され、虚空で停止した。
「万一にもお前の勝ち目はない。アノン。観念してその剣を私に明け渡せ」
ぼろぼろと崩れていく障壁の陰から顔を覗かせながら、アーゼンは淡々とアノンに告げる。
それに対し、アノンは笑みをもって応えた。
「言ったはずだ。俺がこの剣を手放すのは、俺が死んだ時だけだと」
剣を引き、顔の横で構え直して、宣言する。
「四方神如きの力で俺の命を取れるものなら取ってみるがいい」




