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始まりの開拓者たち  作者: 高柳神羅
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感情のあり方

 開拓地の朝は日の出と共に始まる。

 メンバーの中で最も早く目を覚ますのはミラノだ。

 目覚めた彼女は井戸の水で顔を洗い、倉庫へ向かうのが日課になっていた。

 食事作りのための下準備である。

 畑の収穫が円滑に行われ、今では随分と数も種類も豊富になった蓄えは、彼女に食事の献立で考えさせるという嬉しい悩みを齎していた。

 しかし、一方で懸念もあった。

 鹿肉の残りを見やり、彼女は呟く。

「……お肉、少なくなっちゃったわね」

 今までは備蓄の残りが少なくならないよう、シャロンが定期的に蓄えを確認し、必要に応じて補充してくれていた。

 それがなくなった今、食肉の蓄えは減る一方だった。

 食糧は放置しておくと傷むため、食べずに保管しておくという選択肢は存在しない。

 近いうちに、肉の蓄えは底をついてしまうだろう。誰が見ても分かる事実の存在に、彼女は溜め息をついた。

「ま、仕方ないか」

 そのうち誰かが獲物を獲ってきてくれるはず。

 淡い期待を仲間に抱きつつ、彼女は今回使う予定の野菜を籠に入れ、倉庫を出た。

 水を汲みに井戸まで戻ると、そこには先客がいた。

 砂で薄汚れた純白のマントに、朝の光を反射してきらりと輝く白い鎧。

「おはよー」

 ネフェロは気楽な挨拶を寄越すと、井戸に吊り下げている桶を手繰り寄せた。

「朝御飯作り?」

「ええ」

「毎日ありがとねェ」

 汲んだ水でぱしゃぱしゃと顔を洗う彼に、ミラノは微苦笑混じりに言った。

「貴方って、悩みなさそうでいいわね」

「んー」

 掌で顔を拭い、ネフェロは微笑み顔をミラノに向けた。

「オレ、そんな風に見える?」

「見えるわ。その間延びしてる感じとか、凄く」

「そっか」

 特に否定も怒りもせず、彼は桶を井戸の中に落とした。

 水を汲み直し、桶をはいとミラノへと渡して、言う。

「オレね、なるべく誰かといる時は笑っていようって思ってるの」

 朝日のある方向に顔を向け、空をじっと見つめ、続ける。

「親父の遺言なんだよね。辛い時こそ笑顔でいろって……だから、皆が泣いててもオレだけは笑っていようって決めたんだ」

 それは、普段の彼のようで。

 似ても似つかない、歳相応の引き締まった雰囲気の男がそこにいた。

 彼の言葉から、ミラノは何となくだが悟った。

 これは、シャロンのことを言っているのだということを。

「けど、やっぱり駄目だね。笑っていても、悲しいことがなくなるわけじゃないんだよね」

 ネフェロは微笑したまま、肩を落とした。

「……淋しい、よ」

 ──これが彼の悲しみの表現の仕方なのか、と彼女は思った。

 泣かない泣き方があるのだということを、知ったのだ。

 それは、直接表現してくるよりも何倍も切なく、悲しみに満ちていた。

 人間の感情とは、何と複雑で、時として残酷なものなのだろう。

「……ごめんねェ。朝から湿っぽい話しちゃって」

「……いいわよ。別に」

 ぱっとスイッチが切り替わったかのように普段の調子に戻ったネフェロに、ミラノはかぶりを振って応えた。

「人間だもの。誰にでもそういう時くらいあるわよ」

「ん。そっかァ」

 そう言って笑うネフェロの笑顔が心の底からのものなのか、彼女には分からなかった。

 それだけ、自分はまだまだ仲間について知らないことが多いのだなと思ったのだった。

「……暇なら竈に火点けるの手伝ってくれる?」

「いいよー」

 自分の言葉に二つ返事で頷き踵を返すネフェロの背中を見送って、ミラノは桶に籠の野菜を入れた。

 せめて、食事の時くらいは手放しで笑い合える環境を作ってあげよう。心密かに思いつつ、彼女は野菜を丁寧に洗い始めた。

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