手に入れたものの代償
「アノン、遂にやったんだな!」
アノンの報告を聞いたクレテラは、珍しく声を大きくして身を乗り出した。
「四方神の討伐、君ならやってくれると信じてたんだな。これでひとつ、計画の障害になるものが取り除かれたんだな」
「…………」
アノンは俯いて小さく咳き込んでいた。
クレテラの言葉は聞いているのかいないのか、特に何かを答えることもなく、反応を示すこともなかった。
「これで、残りの四方神も動き出すはず……此処からが正念場なんだな」
クレテラは右手でアノンの肩をぽんと叩いた。
それと同時だった。
アノンの肩がびくんと大きく跳ねたのは。
「……ぅぐ、が、っ」
べしゃ、と生温かいものがアノンの膝を濡らす。
ひゅー、ひゅーと弱々しい呼吸音を漏らしながら、アノンは肩を上下させた。
「……アノン」
「……四方神を取り込んだ影響だ……」
真っ赤になった顎を手の甲で拭い、彼は弱々しく呟いた。
「侵蝕が、進んだらしい……」
ぐしゃりと胸元で掌を握り込む。
は……と落ち着いた息を深く吐いて、吸ってを繰り返し、言葉の続きを紡いだ。
「……いよいよ、俺の命も危ぶまれてきたということか」
「アノン。君は」
「分かっている……過大な無茶はしない。そこそこの無茶で済むように身体を使うさ」
車椅子の上から身を乗り出し、布を手に取る。
膝の上を汚したものを拭って、彼はクレテラの方に目を向けた。
「明日から……開拓地を広げようと思っている。そのために必要な物資を、集めることに専念したい」
「全く……自分のことより仕事なんだな。少しは休むことを考えたらどうなんだな」
はあ、と溜め息をつきつつも、アノンの言葉には大人しく耳を傾けるクレテラだった。
「因みに、必要な物資というのは」
「ガラスに、鉄鉱石……後は、布」
「布?」
クレテラは目を瞬かせた。
「布なんて、何に使うんだな?」
「替えの服を作る。そろそろ着ているものがくたびれてきているからな」
現状、開拓者たちの衣服は着ているもの1着のみで、それをずっと着続けている状態だった。
替えがないから洗うこともできないのだ。衛生面を考えると、それは無視できない問題であった。
「あんたの仕事場で手に入らないか?」
「要は、替えの服になるものってことなんだな……分かったんだな。何とか探してみるんだな」
「頼む」
クレテラは開拓地を留守にすることが多いが、それは開拓地では調達できない物資を手に入れるためである。
何処でどのようにして手に入れているのかは謎だが、彼の働きなくして開拓生活が成り立たないのは事実であった。
「鉄は、また採掘に行ってもらう。明日にでも話をするつもりだ」
「現場の指揮は君に任せているから、私から言うことは何もないんだな」
クレテラはアノンの手から汚れた布を受け取り、真面目な面持ちで彼の双眸を見つめた。
「四方神の動向には注意してほしいんだな。彼らは開拓地を一瞬で潰す……最悪の相手なんだな」
「ああ」
アノンは頷いて、傍らに立て掛けてある剣に目を向けた。
「出てきたら相手になってやる。俺はそのための存在だからな、後れは取らないように気をつけるさ」




