理解し合う者
「ねえ──本当に、ぼくたちとイースは分かり合えないのかな」
ロネは必死に2人に訴えた。
彼は戦いの術を持っていない。そんな彼ができる、精一杯の自己主張の仕方であった。
「家族だって言ったじゃない。あったかい言葉だって笑ってくれたじゃない」
「ロネ君」
ロネを見つめるイース。
若草色の睫毛を揺らして、彼は微妙に淋しげな微笑を浮かべた。
「隔たりはなくならんのよ……人と、血眼者との間にある壁は」
「分かり合える存在なら、こうして争ったりしない」
アノンは油断なくイースを見つめたまま、剣を構えた。
彼は決着を着けるつもりなのだ。そうと分かる気迫が、佇まいから伝わってきた。
「何を言っても無駄だ。血眼者に人間の言葉は通じない」
「それでも──」
ロネは叫んだ。腹の底から。精一杯に。
「分かり合えないからって、分かろうとする努力はやめたくない!」
「────」
す、とイースは掌をアノンに向けて翳した。
ロネへの言葉はなかった。無言のまま、構えを取ってアノンと対峙する。
アノンが仕掛けた。剣を身体の前で構えたまま、翼を大きく広げ、イースに向かって突っ込んでいく。
イースの掌が力の塊を生む。空間を歪ませ、圧縮した波動となってアノンへと降り注ぐ。
アノンは避けない。両肩を切り裂かれながら、剣をまっすぐに立てて、突き出した。
両者の影が交錯する。
2人は眼前に迫った互いの顔を見つめ合い──
イースの掌から、力が霧散して消えていく。
ロネは目を丸く見開いた。
がくり、とイースは体勢を崩した。
淋しげな微笑を浮かべたまま──
胸の中央を刺し貫いた剣に、左手をそっと触れさせた。
「──もしも」
ごぷ、と開いた唇から大量の血が溢れて落ちる。
顎を真紅に染め、イースは呟いた。
「自分が家族になろう言うたら、ロネ君はそれを受け入れてくれますのん?」
「……うん」
ロネは何度も頷いた。
見開いた眼から、涙が1粒、ほろりと零れて落ちていった。
「分かり合おうと思えば、仲良くなれるってぼくは信じたいんだ」
「……さいですか」
イースは静かに目を閉じた。
「あったかい心、おおきに──」
彼の全身が淡い光に包まれる。
イースは数多の光の欠片となって、収束するように剣へと吸い込まれていった。
後には彼が零した血の跡だけが残っていた。
ふう、と深く息を吐き、アノンは静かに構えを解く。
1度だけロネの方をちらと見て、すぐに視線をそらし、言った。
「──この世の全てがそれで決着着けられる物事ばかりだったら良かったんだろうがな」
「…………」
ロネは目を伏せた。
絶えず吹いていた風が、いつの間にかやんでいた。それはまるで、イースがこの地を去ったことを表しているかのようだった。




