激闘の行方
殺意をぶつけ合うアノンとイースを、ロネはただ見つめているしかできなかった。
もはや、言葉では止まってくれないであろうことを、感じ取っているのだ。
自分があれを目撃しなければ、2人は争うことがなかった?
浮かんだその考えを、幾分もせずに否定する。
イースが言っていたように、この世に永遠などというものは存在しないのだ。生きているものがいつかは必ず死ぬように、いずれはこうなっていたのだろう。
それでも。
ロネは奥歯を噛んだ。
表向きのものでしかなかったとしても、イースは確かに開拓者の一員として此処にいたのだ。
家族──だと、思っていた。
1度は抱いたその思いを、なかったことにだけはしたくはなかった。
本当に、戦うしかないの? 殺し合うしか、ないの?
楽しそうにアノンの剣を受け止めるイースに視線を注いで、ロネは問いかける。
彼の思いは、渦巻く風に飲み込まれて黄昏色の空へと消えていった。
ばしゅ、と音を立ててアノンの耳元を衝撃波が通り過ぎていく。
髪が数本ちぎられるのを感覚で何となく感じ取りながら、アノンは垂直に剣を繰り出した。
刃は、イースの頬を掠めて顔の横にある空間を貫いた。
頬に刻まれる赤い線を指の先で撫でながら、イースは左手で空に何かを描く仕草をする。
指がなぞる軌跡が光の帯を生む。文字にも見えるそれは網の目のように手を広げていき、イースの前面を塞ぐ壁のように展開した。
「来たれ、風の顎」
光の帯が幾つもの収束点を作り、爬虫類の顎のような形の突起を生み出す。
鋭い牙を供えたそれらを、アノンは上空に逃れて回避する。しかし完全な回避には至らず、光に触れた翼の一部が縦に裂けた。
体のバランスを崩してよろめくアノンの身体を、イースの視線が捉える。
左手をアノンに向けて翳す。ぐにゃりと歪んだ掌の前の空間が、不可視の波動となってアノンを飲み込んだ。
「!」
アノンは咄嗟に両腕を顔の前で交差させ、波動が顔に直撃するのを防いだ。
アノンの全身に、細かな裂傷が生まれる。まるで幾つもの小さな刃で全身を切り刻んだかのようだった。
「──く」
「こんなものではありまへんよって」
イースは翳した掌を握り潰した。
ばっ、とアノンの全身の周囲に血煙が生じる。破裂した波動の余波が、彼の肉体を切り裂いたのだ。
「風は、常に優しいものとは限りまへんのやで」
「──ッ」
アノンは剣を構えながら急降下した。
上段から斜めに剣を振り下ろす。深く入ったと思われたその一撃は咄嗟に身を引いたイースに避けられて、空しく空を切った。
「甘いですなぁ」
イースはふっと笑んで、右手を身体の前で軽く握る動作をした。
「そないな腰の入ってない攻撃、当たらしまへんで」
握った右手を、大きく振り下ろす。
アノンの左の手首に、ばくりと深い傷が刻まれた。
生じた痛みにアノンの表情が歪む。剣を落とすことだけは堪えたようだが、ダメージによる影響が彼の挙動に如実に表れていた。
「少しは剣戟を演じてみまひょか。自分、こう見えて剣の腕には自信がある方ですねん」
アノンは悟った。イースの右手の中には、目に見えない風の剣があるのだということを。
傷を負った手で剣を握り直し、横一文字にそれを振るう。
イースは右手を縦に構え、真っ向からアノンの一撃を受け止めた。
きん、と固い音が響く。見えない刃は確かに、アノンの剣と切り結んで力比べを行っていた。
きりきりと剣を持つ手を震わせながら、アノンは低い声で呟いた。
「──悪いが、そっちの都合に合わせてやる義理はない」
ぎゅ、と剣を握り込み、口を大きく開く。
灼熱の炎が、イースの顔めがけて降り注いだ。
流石にこれは予想外だったようで、イースはアノンと切り結ぶのをやめると大きく後方に飛び退いた。
炎は何もない空間を焼き、消えた。塵が焦げる微かな臭いが辺りに漂う。
「そうか。貴方のその剣、喰った魂を憑依させて能力として使うことができるんでしたな」
忘れてましたわ、と言って、イースは右手の『力』を開放した。
「路線変更ですな。そないに危ない武器、いつまでも使わせるわけにはいきまへん」
両手で印を切り、彼はアノンをひたと見据えた。
「そろそろおしまいにしましょ」
「──待って!」
横手からの声に、イースの片眉が跳ねる。
声のした方に目を向けると。
握り拳を作ったロネが、2人のことを見つめている様が視界に飛び込んできた。




