秘め事
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日が沈みゆく開拓地は静かだ。
石を積み重ねただけの簡素な墓標を前に、ロネは佇んでいた。
「……ぼく、シャロンの代わりになるよ」
決意の篭った眼差しで墓標を見据えて、呟く。
その顔に、歳相応の少年の面影はなかった。
大人のそれと遜色ない真面目な面持ちの男子が、そこにいた。
「シャロンがやってたこと、全部、できるようになる。頑張るよ。皆のこと、助けてあげられるように」
掌を、拳の形に作る。
「見守っててね。シャロン」
前方から風が吹き、彼の赤い髪をふわりと靡かせる。
帽子を手で押さえ、彼は空を見上げた。
赤く染まった空は、いずれ訪れる夜の闇の足音を鳴らしている。幾分もしないうちに、此処は宵闇に包まれるだろう。
じきに、夕飯だ。
調理の仕度を始めるであろうミラノを手伝おうと、彼は墓標に背を向けた。
そして、止まる。
遥か前方に、見覚えのある姿を見つけたのだ。
若草色の衣裳を身に着けたその男は、木陰で誰かと話をしていた。ロネのことには全く気付いていない。
あれは──イース?
何を話しているのだろうかと、ロネは静かに彼の傍へと近付いていった。
「──せや」
イースは頷き、親しげに相手の身体に右手を乗せた。
相手はくるると小さく喉を鳴らして、頭を垂れた。イースに対して完全に心を許しているのだろう、暴れだす気配は微塵もない。
灰色の鬣が、風を纏って小さく揺れている。
赤色の瞳は小さな星のように、夕陽を浴びてきらりと輝いていた。
──血眼者だ。
ロネは足を止めて、状況を理解しようと頭を働かせた。
血眼者とイースが、会話をしている。
血眼者が何かを喋っていたわけではないが、先の様子が会話以外の何にも見えないため、そのように判断したのだ。
血眼者は人間とは相容れない存在のはず。何故イースとは会話が成立しているのだろう?
ロネの胸中に、疑心暗鬼の心が生まれて広がっていく。
「ほな、頼みましたわ。皆にもそう伝えたって」
うぉん、と口を開いて小さく鳴いて、狼は森の中へと駆けていく。
イースはそれを微笑み顔で見送り、踵を返して──
ロネと視線がぶつかり、目を丸く見開いた。
強い風が吹き、2人の衣を大きくはためかせる。
短くない沈黙の時が流れる。
「──ああ」
先に動いたのは、イースの方だった。
イースはふっと笑みを浮かべて、ロネに問いかけた。
「見てしまいました?」
「…………」
ロネは答えない。
言葉を紡ごうと、唇が僅かに開閉を繰り返している。
「参りましたなぁ。ほんまに参りました。皆さんには、バレたらあきまへんのに」
イースは後頭部をかしかしと掻いて、はぁ、と溜め息をついた。
「皆さんとの生活、ほんまに楽しゅうてこのまま続けていたい思うてましたんに。もう終いやなんて、殺生やなぁ」
「……何を言ってるの? イース……」
「まぁ、何事にも永遠なんてもんはあらしまへんよって。潮時やったのかもしれへんな」
静かに目を閉じ、一呼吸置いてから再度開く。
若草色の髪に合って綺麗だった碧眼は、暗く闇が蟠る血色の瞳に変わっていた。
身を強張らせるロネを見つめて、イースは何処か楽しげとも取れる表情で言った。
「自分、騒がしいのは好きやないんや。せやから穏便にいきましょ。アノンさん──呼んできてくれますかいな」




