無粋な客人
シャロンの亡骸は、家の隣に葬られることになった。
「穴は深めに掘るんだ。血眼者が荒らす可能性があるからな」
アノンの指示で、墓穴は通常よりも深めに掘られた。
人間1人が横になれる程度の空間が確保できたところで、天幕の中のシャロンを腕に抱いて運んでくる。
ネフェロは穴の中に飛び降りて、静かにシャロンを横たえた。
「……あげられる花も何もなくてごめんね」
膝をつき、シャロンの腕を取る。
胸の上で手を組んだポーズを取らせ、顔をじっと見つめて、立ち上がる。
穴の外に出て、フィレールからシャベルを受け取り、足首にそっと土を被せた。
「ゆっくり、眠ってよ」
「お邪魔するのサ」
聞き覚えのある声に、一同はゆっくりと振り返った。
湿っぽさとは無縁の声音で、赤色の道化師は人差し指をこちらへと突きつけながらお決まりの台詞を吐いた。
「今日こそ武器を頂くのサ! アノン、隠れていないで勝負なのサ」
「……隠れてなどいない」
ぎっと車椅子を漕いで墓穴の傍から離れながら、アノンは応えた。
小さく溜め息をつき、ブリスタと隣に佇んでいるアーゼンを見つめる。
「本当に空気の読めない奴だな、あんた。少しは状況を見る目を持ったらどうだ」
「……んんー?」
ブリスタの視線が、アノンからついと横にずれる。
そこでようやく、葬りかけのシャロンの存在に気付いたようだ。肩を竦めて、おどけたように言った。
「おやおや、お仲間が死んだのサ?」
「…………」
アーゼンの片眉がぴくんと跳ねる。
彼女は槍を携えている手を後方に引くと、墓穴の方に視線を注いだ。
「全く、ぬるい開拓生活なんてしてるからそうなるのサ」
「……何ですか、あのけったいなんは」
ぼそりと呟くイース。
ネフェロはざくりとシャベルを足元に突き立てると、腰の剣に手を掛けた。
「んー、お邪魔虫ってところかなァ?」
「──邪魔はしない」
ネフェロの言葉に被せるように、アーゼンが大きな声で反論した。
「……そこまで無粋なつもりはない」
「アーゼン、わざわざ付き合う必要はないのサ。早いところ、武器を──」
「お前には人情というものがないのか」
ぴしゃりと言い放ち、ゆっくりと前に歩み出る。
皆が注目する中、彼女はネフェロの隣まで歩いてくると、彼の傍に突き立っていたシャベルを手に取った。
器用に片手で土を掬い、穴の中へと落としていく。
「血眼者にやられたのか」
「……うん」
頷くロネにそうかと返して、小さく言う。
「……災難だったな」
「…………」
彼女の様子を見つめていたネフェロは、剣から手を離した。
彼女が持つシャベルに手を伸ばし、横から制止するように取り上げて、開口する。
「気遣ってくれるなんて、意外だねェ」
「私にも情はある」
穴の中のシャロンをじっと見つめて、アーゼンは言った。
「葬儀を台無しにするほど馬鹿ではない」
「……だそうだが」
「……むぅ」
アノンの一言に、ブリスタは残念そうに顔を顰めた。
はぁ、と大きな溜め息をつき、踵を返す。
「全く、付き合ってられないのサ。今日のところはアーゼンに免じて見逃してあげるのサ」
「それはどうも」
肩を竦めるアノン。
「アーゼン、帰るのサ!」
ブリスタに呼ばれて、アーゼンは墓穴の傍から離れた。
皆が注目する中、彼女は槍の能力を使って巨大鳥へと変身する。
背中にブリスタを乗せ、ゆっくりと羽ばたき、彼女は南の空へと消えていった。
「……何や、騒がすだけ騒がして勝手にいなくなりましたな」
「普段は一騒動あるんだ。今回はシャロンに助けられたな」
小首を傾げるイースに言って、アノンは車椅子を旋回させた。
シャベルを持つネフェロに作業の続きを促し、墓穴の傍まで来たところで一同の顔をくるりと見回す。
「さあ、続けよう。血眼者が来ないとも限らない、なるべく手早くな」




