水辺の狩猟講座
さらさら、と静かに流れていく川の前で。
ロネは、三角座りをして水面に伸びるロープを手繰り寄せていた。
右の傍らにはシャロンが、左の傍らにはイースが立っている。
彼らが見守る中、ロープを引くことしばし。
ぱしゃ、と水が跳ね、中から立派な岩魚が姿を現した。
「釣れた!」
「ほー」
歓声を上げて岩魚を引き寄せるロネを見つめながら、イースが感心の声を漏らす。
「釣竿がなくても釣れるんですなぁ、魚」
「やり方次第だが、道具がなくても獲れる」
「ほんまに?」
「だが大変なのでな。使える道具は賢く使う、これが狩猟の基本だ」
「成程なぁ」
シャロンは地面の上で跳ねる岩魚を捕まえると、器用に片手で魚の口からロープを外し、ロネの元へと持って来た。
「釣りの基本は覚えたであろうか」
「うん!」
笑顔で振り向くロネに微笑んで、彼の頭を優しく撫でる。
「ロネ殿は物覚えが早いな。教える我の方も楽だ」
「もう1回やってみてもいい?」
「無論だ」
「えっと、虫を捕まえて……」
ロネは近くに転がっている大きな石をひっくり返して虫を獲った。
獲った虫にロープの端を結わえ付け、水面に投げ込む。
イースはその場に腰を下ろし、頭上に広がる空を見上げた。
「此処は資源が豊富ですなぁ。良い環境じゃないですか」
「イース殿が以前いた場所は、違ったのか」
「何もない場所でしたわ。何処まで行っても木ばっかりで」
そこで1度言葉が途切れる。
静寂の中、川の水が流れる音ばかりが響く。
イースはふっと笑った。
「人もおらんから、土地は手付かずのまんまで。よくあんな場所で生活できてたもんやと我ながら思いますわ」
「此処も、最初は何もなかった。皆と協力して土地を拓いたからこそ、今の生活があるのだ」
シャロンはロネが釣った岩魚の腹にナイフを入れながら、言った。
「人間は強い。過酷な境遇に立たされても立ち向かっていくだけの力がある」
「せやなぁ」
「あっ」
当たりが来たようだ。ロネはロープを引き寄せ始めた。
幾分もせずに水面に顔を出した岩魚を捕まえるべく、ある程度ロープを手繰ったところで立ち上がる。
跳ねる魚を捕まえるのには若干苦労したようだが、無事に獲物を手中に収めて、彼は2人が待つ場所へと戻ってきた。
「釣れたよー」
「釣りの練習はもう十分であろう。これからは、釣りはロネ殿に任せても良いようだな」
シャロンは捌いた岩魚を持って立ち上がった。
「次は、食せる野草の見分け方を教えよう」
「うん、楽しみだなー」
「イース殿は、一緒に来るか?」
話を振られて、イースはシャロンの顔を見上げた。
「自分は──」
答えようとして、急にその表情が呆けたものへと変わる。
その視線は、シャロンではない、その後方にあるものを捉えている。
「……?」
イースの様子を怪訝に思って振り向くシャロン。その背中を、
それの鉤爪が深々と抉った。
「!」
生じた激痛に、シャロンの顔が歪む。
手から離れた岩魚が、ぼとりと地面に落ちた。
「シャロン!」
ロネが叫ぶ。
シャロンは歯を食いしばり、悲鳴を上げることは堪えた。
腰のナイフを抜き、自分を攻撃したものの姿を真正面に捉える。
黒光りするボディに、巨大な尾。一対の鋏。
巨大な蠍が、鎌首を擡げた尾を揺らしながら赤い眼でシャロンのことを見つめていた。
「血眼者……!」
ロネとイースを護ろうと、自ら前に出てナイフを構えようとして、
シャロンは、急激に襲ってきた眩暈に体幹を崩されて、その場に膝をついてしまった。




