雨の中の来客
ざあ、と豆を大量に転がしたような音が響いている。
ぱしゃぱしゃ、と水を蹴る音を軽快に鳴らして、天幕のカーテンを勢い良く捲ったネフェロは上半身を中へと突っ込んできた。
「んもー、急に降ってくるんだもんなァ」
「此処は元々雨が多い地域だ。今まで降らなかった方が奇跡に近いんだ」
椅子に取り付けた車輪の具合を確認していたアノンが、振り向かずに言ってくる。
「雨が降ったら作業はできないだろう。今日はテントの中で待機だな」
「残念だけど仕方ないかァ」
ネフェロの姿が天幕の外に消える。
ロネは天幕の天井を見上げて、しばし雨の音に耳を傾けて、言った。
「凄い雨だね」
「稀に見る豪雨だな。畑が水没しなければいいが」
懸念を口にするアノン。
確かに、畑は地面を耕しただけの簡素なもので、豪雨対策はしていない。あまり強い雨だと畝が流されてしまう恐れがあった。
それだけではない。現在建築しかけの家屋や、掘りかけの井戸も、雨対策は何もしていない状態だ。
最悪、それらが水没してしまう可能性があるのだ。
大変だ、とロネは腰を浮かせた。
「見てきた方がいいかな?」
「やめておけ。着ているものが濡れても着替えがないんだぞ」
「そうだけど」
「すんませーん、誰ぞおりますかー」
外から聞こえてきた声に、ロネとアノンは顔を見合わせた。
「……今の」
「部外者の声だな」
聞き覚えのない声となると、自然とそういう結論になる。
まさかブリスタのような開拓の妨害者が他にもいるのかと、アノンは置いていた剣を手繰り寄せた。
「出てくれ」
「うん」
アノンに促され、ロネは天幕のカーテンを寛げた。
大雨の中立っていたのは、占い師のような衣裳を身に着けた長身の男だった。
髪を含めた全体を若草色に纏めているところは、クレテラに通じるものがある。
ガラスだろうか、透明の水差しを大事そうに抱え、男は安堵した顔でロネのことを見つめていた。
「ああ、良かった人がおったわ。無人やったらどないしよ思うてたところやった」
かなり特徴的な訛りのある言葉で呟いて、彼はロネに歩み寄った。
「すんません、中に入れてくれますやろか。雨が冷とうて風邪引きそうですねん」
「えっと……」
ロネはアノンの方を振り返る。
アノンが無言のまま頷いたので、彼は男に中に入るよう言って、道を空けたのだった。




