アーゼンとの戦い
アーゼンの一撃を剣でいなしたアノンが宙を舞う。
一瞬にして崩れた体勢を整えたアノンは、アーゼンへと突っ込みながら剣を大きく振りかぶった。
くるりと頭上で槍を旋回させたアーゼンは、アノンを見据えて大きく足を開き、迎撃の構えを取った。
両者の影が交錯する。
がっ、と硬い音を響かせて、槍と剣が交わった。
両者共に1歩も引かない。互いに互いの得物を押し返そうと、両腕に力を込めている。
アノンは左手を僅かに捻った。
噛み合った剣の刃が水平に傾き、力のバランスが崩れる。
噛み合いから脱した剣が槍の柄をなぞるように滑っていく。
指先を薙がれそうになり、アーゼンは咄嗟に両手を右側に移動させて刃を回避した。
振り抜いた剣を、勢いは殺さぬまま刃の角度を右手に傾けて振り上げるアノン。
くの字を描くように方向転換した剣の軌跡が、アーゼンの顔をなぞる。
前髪の1房を斬られ、アーゼンが舌打ちした。
「相変わらず厄介な剣捌きだ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
アノンとの間合いを開けるアーゼン。
右側へと回り込みながら、槍を突き出す。
狙っているのは──アノンの背にある翼。
皮膜が槍に突かれ、裂ける。
アノンの体勢がぐらりと崩れた。
「ち──」
羽ばたけなくなった片翼を折り畳み、アノンは背から地面に落ちる。
背中が地面に着く寸でのところで、彼は右手を真下に突き出し身体を支えた。
足が自由に動くならば蹴りのひとつでも放ったのだろうが、それが叶わぬ足は地面に投げ出されるのみだ。
アーゼンは槍を振り下ろす。
穂先の腹が、アノンの左手を打ち据える。
受けた衝撃に抗えず、アノンの手からぽろりと剣が落ちた。
「貰った」
落ちた剣を力任せに叩く。
剣は掴もうとしたアノンの手からするりと逃れ、遠くに弾き飛ばされた。
アーゼンはアノンから離れ、落ちた剣を目指して駆ける。
しかし剣は、彼女の手中に収まる前に横から伸びてきた手に拾われた。
「!……」
アーゼンは立ち止まる。
剣を構えたネフェロは、微笑みを浮かべてアーゼンのことを見つめていた。
「……剣を渡してもらおうか」
「やだ、って言ったら?」
ことりと頭を傾けて、ネフェロは言った。
剣呑な気を纏った身体が、すっと臨戦態勢に入る。
彼はアノンの代わりにアーゼンと争うつもりなのだ。
「お前にはその剣は扱えない。能力を振るえない武器など単なる棒切れだ」
「さてねェ。そんなの、やってみないと分からないよォ」
くすくすと笑うネフェロ。
アーゼンは槍を振り上げた。
「仕方ない。無理矢理奪わせてもらう」
地を蹴る。
がつっ!
激突するふたつの刃。
「!?」
アーゼンは顔を驚愕の色に染め、手にしていた槍をぼろりと手離した。
後方のネフェロを振り返り、呟く。
「──何だ、この力は」
落とした槍を拾おうとするも、指先が痺れていて思うようにいかないようだ。
ネフェロはアーゼンの方に向き直り、言った。
「人間相手なら、まだまだオレの力も捨てたものじゃないでしょ?」
「……くっ」
歯噛みして、何とか槍を拾いネフェロから離れるアーゼン。
状況を静観していたブリスタの隣まで後退すると、彼女は槍を握り締め巨大鳥に変身した。
「……全く、ただの人間にしてやられるなんて狩人が聞いて呆れるのサ」
溜め息をついて、ブリスタはアーゼンの背に飛び乗った。
「今回はそこの勇者君に救われたのサ。でもこれで終わりだなんて思わないでほしいのサ」
「ばいばーい」
飛び去っていく2人を、ネフェロは手をひらひらと振って見送った。
地面に尻餅をついたままのアノンの元に行き、彼ははいと剣を差し出した。
「もー、しっかりしてよォ。大事な剣なんでしょー?」
「……すまない」
剣を受け取り、アノンは頭を下げた。
「戦えたんだな。あんた」
「血眼者相手には通用しないけどねェ」
金の髪をくしゃりと掻いて、ネフェロは肩を竦めた。
「もしも剣の能力を使うことができたら、オレも狩人になれるかなァ」
「そうだな」
剣を見つめて、アノンは言った。
「ただの人間にしとくには惜しい良い腕をしているよ、あんたは」
「そう?」
顔を見合わせて、2人は笑い合ったのだった。




