家を建築しよう
建築作業は順調に進んだ。
アノンが用意していた設計図のお陰で、建築素人のネフェロとフィレールにも滞りなく作業を進めることができた。
土台の上に枠組みとなる基礎を作り、壁を少しずつ築いていく。
今回建てるのは収穫した野菜等を保管するための倉庫なので、部屋割り等はなくシンプルな設計だ。
ある程度壁を築いたら、床板を張っていく。
此処では、アノンが鍛冶で作ったハンマーと釘が大活躍した。
建築の合間に材木を切り出して、壁を完成させたら屋根へ。
屋根も壁同様にシンプルな三角型の設計だが、平坦な造りではない分壁よりは作るのに難儀した。
特に、雨漏りがしないように隙間なく木材を組むのに大変な労力を要した。
それでも、1ヶ月も過ぎた頃には立派な小屋として形になった。
皆は諸手を挙げて小屋の完成を喜んだ。
素人の自分たちでもやればできるのだということが、実際に形になったのが嬉しかったのだろう。
彼らは早速次の建築を始めるべく、資材の調達に着手した。
これから、途方もない数の作業と建築を繰り返して街を作るのだ。ひとつ完成したからといって、満足はしていられないのである。
「アノン」
前方から掛けられた声に、作業を中断してアノンは顔を上げた。
「クレテラか」
「やっと開拓地らしくなってきたんだな。皆頑張ってくれているようで、私は嬉しいんだな」
「そうか」
膝の上に散らばった木屑を払い、形になったそれを椅子に近付けて出来具合を確認する。
「それは……車なんだな?」
「車椅子を作るべきだと言われていてな。最近ずっと小道具作りに没頭していてすっかり忘れていたから、ひと段落着いた今のうちに作ってしまおうと思ってな」
歪みだらけの椅子だが、綺麗な車輪が付くと立派な車椅子に見えなくもない。
クレテラは頷いて、微笑み顔を一転して真面目な面持ちへと変えた。
「家ができたことによって、血眼者の襲撃もより頻発することになるんだな……道具作りも大切だけれど、狩りの方も疎かにはできないんだな」
「覚悟の上だ」
木材を削るのに使っていたナイフを脇に置いて、アノンはまっすぐにクレテラの顔を見つめた。
ゴーグル越しの視線は、相変わらず外側からは何処を向いているのかが分からない。
ランプの光を反射して鈍く光っているレンズを指の腹で軽く撫で、彼は開口する。
「どんな妨害があろうが、俺は俺の役目を果たす。他の誰にも渡すつもりはない」
「こんなことなんて言えた義理じゃないんだろうけれど、できる限り身体は大事にしてほしいんだな」
クレテラは手を伸ばした。
アノンのゴーグルを持ち上げて、彼の金色の瞳を見つめる。
「命は有限……交換も補給もできない、大切な資源なんだな」
「善処する」
アノンはクレテラの手をどけて、ゴーグルを元通り着用した。
「俺が死ねば計画は頓挫する。せいぜい長生きするように頑張るさ」
「アノン、来てくれ! 血眼者が出た!」
外からのフィレールの呼びかけに、彼はクレテラの向こう側に視線を向けて、傍らに置いていた剣を手に取った。
黒い翼を広げ、彼は天幕の外へと飛んでいく。
それを横目で見つめ、クレテラはぽつりと呟いた。
「此処からが正念場なんだな……何としてもこの計画、成功させるんだな」




