勇気と蛮勇は紙一重
猪は、フィレールに連れて来られたアノンの手によって無事に駆逐された。
猪の死骸を見下ろして、アノンはやや呆れ気味の声を漏らした。
「無謀だな、あんた」
「いやァ」
抜き身の剣を右手にぶら下げて、後頭部を掻きながらネフェロは笑う。
「ほら、頑張ればオレでも血眼者と戦えるかな、なァんて」
「戦うなとは言わないが、あんたの武器じゃ仕留められないということを念頭に置いておけ」
血眼者は、普通の武器では倒すことができない。
どんなに切れ味の良い得物を用いたとしても、斬った傍から再生してしまうのである。
普通の人間が相手の場合、血眼者は限りなく不死に近いのだ。
「血眼者が出たら、すぐに俺を呼べ。決して自分たちだけで相手にしようとは思うな」
「はァい」
剣を鞘に戻して、ネフェロは返事をした。
やたらと軽いノリの返事に、こいつ本当に分かってるんだろうなと言いたげな顔でフィレールはネフェロを横目で見つめた。
「さて……」
アノンは周囲を見回した。
「土台ができたようだな。なかなか早い仕事じゃないか」
「結構掘っちまったけど、いいのか?」
「構いはしない。むしろ深さがある方が、しっかりとした基礎を作れる」
離れた場所に積んである丸太に視線を移し、彼は言う。
「此処に、木材で家の枠組みとなる基礎を作る。地震や嵐が来ても倒れない家を作るためには必要不可欠な作業だ」
「木、まだ丸太のまんまだぜ」
「鋸を渡すから、形を整えておいてくれ」
そういえば鉄があるから道具が作れるようになったんだよな、と独りごち、フィレールは頷いた。
アノンは翼を広げ、天幕がある方へ羽ばたいていった。鋸を取りに行ったようだ。
猪の死骸を掛け声と共に背負うネフェロに、言う。
「そういうわけだ。丸太を切りに行くぞ」
「ねー、この猪どうしよう?」
「何処か適当な場所に置いとけ。血眼者は食えないって言ってたからよ」
血眼者が食べられるなら良い獲物になったのだろうが、こればかりは仕方がない。
うん分かったと言って森の適当な場所に猪を置きに行くネフェロの背中を見送り、フィレールは腰ほどの高さもある段差を一気に飛び越えた。




