狩人を求める理由
「こんなもんか」
シャベルをざくりと傍らに突き立てて、フィレールは腰に手を当てた。
森の木を伐採して作ったスペースは、地面が掘り下げられ堀のようになっていた。
家の土台作りの作業は、順調に進んでいるようである。
「思ってたより簡単にできたな。もっと日数かかるもんだと思ってたけどよ」
「これ、大丈夫? 掘り過ぎじゃなァい?」
穴の淵にしゃがんでフィレールを見下ろすネフェロ。
「大丈夫だろ」
フィレールはネフェロを見上げた。
「掘り過ぎだったら埋め戻せば済む話だ。そんなシビアな作業じゃねぇんだから」
「そっかァ」
ネフェロはのんびりとその場に立ち上がって、
「おわっと……」
急によろめいて、頭から段差を落ちた。
「何してんだよ」
「いったぁ……」
土まみれになった顔を上げ、尻を撫で摩る。
何事かと今し方自分がいた場所を見れば、そこには丸々と太った猪の姿が。
猪は赤い目をぎらつかせ、荒い鼻息を吐いている。
注目しているのは──マントが風にぱたぱたと靡いているネフェロだ。
げっ、と声を漏らしてシャベルを武器代わりに構えるフィレール。
「赤い目……血眼者か!」
「もー、あまり汚れたらまた洗わなきゃいけなくなるじゃん」
「馬鹿、暢気にしてる場合か!」
猪が段差をものともせずに突っ込んでくる。
ネフェロは立ち上がりながら半歩横に移動して、猪の突進を紙一重で回避した。
腰の剣を抜き、ぴたりと構える。
「これってさ、アノン呼んでこないといけないんだっけ?」
猪が壁を擦りながら方向転換をする。
再度向かってくる肉の弾丸を、溜め息をつきながら見つめた。
「面倒だねェ」
すれ違いざまに、剣を一閃。
刃は猪の首の付け根辺りを深々と切り裂いた。
血がしぶき、猪が悲鳴を上げる──かと思いきや。
切り口から煙のようなものを吐き出すだけで、猪はちっとも堪えていない様子だった。
「あらー」
「あいつじゃねぇと仕留められねぇってのは、こういう意味か……!」
繰り返される突進をかわしながら、フィレールは段差に飛び乗った。
「アノンを呼んでくる、お前は何とかそいつの注意を引き付けてろ!」
「ん。りょーかーい」
へらりと笑って手を振って、ネフェロはその場を思いきり跳躍した。
足の下を通り過ぎていく猪の背中を踏みつけて、そのまま壁に向けて勢い良く蹴る。
勢いを殺しきれずに壁に激突する猪を見つめながら、すたんと着地し剣を構え直した。
「アノンの武器じゃないと殺せない生き物かァ」
土を被って薄汚れた毛並みを逆立たせ、猪が地面を足の先で引っ掻く動作をする。勢いを付けるために力を貯めているようだ。
何度目かの突進を、ネフェロは避けずに剣を横一文字に構えて受け止めた。
力に押され、足の裏がずずっと後方に滑る。
それをまるで楽しんでいるかのように、唇を舐めて笑みを浮かべながら、彼は言った。
「不思議だねェ。アノンの武器も、君たちという存在もさ」




