鉄鉱石の加工
その日、アノンは朝早くから屋外にいた。
天幕からは離れた位置に座り、何処からか拾ってきた大きな石を作業台代わりにして、剣を左手に握り締めた格好で手元の作業に没頭していた。
先日ネフェロとフィレールが採掘して手に入れた鉄鉱石を何個か石の上に置き、息を大きく吸い込む。
ふう、と息を吐く。
彼が吐き出したのは普通の吐息ではなく、限りなく細く収束した炎を纏った超高熱の吐息だった。
熱に炙られ、鉄鉱石が少しずつ融解していく。
溶けた鉱石の上に新たな鉱石を載せ、それも溶けたら新たな鉱石を載せ、を繰り返し、いつしか彼の目の前には、それなりの大きさの茜色に輝く物体が現れていた。
鉱石から取り出した鉄だ。
炎の吐息を吹きかけて温度を調整しながら、彼は用意していたハンマーで鉄を叩く。
先端が薄くなるように、繰り返し繰り返し。
時折叩く位置を変えて形を調整し、平たい形状になるように伸ばしていく。
形が大体出来上がったところで、桶に貯めていた水に浸して熱を取る。
赤い色が黒くなったところで水から取り出し、出来栄えを手で触れて確認する。
どうやら満足のいくものができたようだ。
傍らに用意しておいた木材を取り付けて、軽く振るってぴたりと目の前に翳した格好で静止した。
完成したのは鍬だ。
作ったばかりのそれを右手に携え、左手に剣を持ち、背に翼を呼び出して、彼は畑へと向かった。
畑には、セレヴィとロネがいた。
彼らは畑を耕していた。次の作物を育てるための準備だろう。
シャベルを片手に悪戦苦闘している2人の元へ近付いていく。
先にアノンの存在に気付いたのはロネだった。
「アノン」
「畑作りは順調のようだな」
ゆっくりと腰を上げるセレヴィの前に、鍬を突き立てる。
「鍬ができた。使ってくれ」
「なかなか本格的ですね」
シャベルを傍らに置いて、鍬を手にするセレヴィ。
振り上げようとして、手元に小さな虫が止まっているのを見つけて彼は動きを止めた。
「……虫が」
「…………」
ぴく、と片眉を跳ね上げるアノン。
虫は、1匹だけではなかった。何匹も辺りを飛んでおり、耕しかけの畑に止まっているものもいる。
バッタだ、と虫に手を伸ばすロネを制して、アノンは剣を水平に構えた。
「血眼者だ」
「え?」
きょとんとするセレヴィの声には応えず、口を大きく開いて炎を吐き出す。
火炎放射器のように噴き出た炎が、飛んでいる虫を焼き払う。唐突に目の前を横切った炎に驚いたロネが、目を丸くしてアノンの方を見た。
「……畑ができたから沸いたんだな。目ざとい連中だ」
虫が残らず駆逐されたことを確認し、アノンは構えていた剣を下ろした。
「昆虫タイプの連中は作物は荒らさないが、人間の血を吸う。気を付けてくれ」
「咬まれるってことですか。ぞっとしますね」
焼け焦げた死骸を見て、セレヴィは腕を掌で擦った。バッタに咬まれた状況を想像したのだろう。
「気を付けます」
「それじゃあ、俺は作業に戻る。何かあったら呼んでくれ」
「はい」
飛び去っていくアノンを見送って、セレヴィはロネに声を掛けた。
「さ。仕事を続けましょう」




