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9/12

釣り

あれから三か月が過ぎた。

オイラ達は、湖に向かった。


釣竿と釣り道具、そして折りたためるバケツを、かかしは用意してくれた。


「これ、どこにあったの?」


せいじょは尋ねた。


「三軒隣の家です」


かかしはそう言った。


「勝手に借りていいの?」


せいじょは尋ねた。


「もうここには、何年も人がいません」


かかしはそう答えた。


「こんなに立派な家があるのに、住んでないなんてもったいないな」


オイラは言った。


「そうですね。もったいないですね。

私も、もったいない」


かかしはそう答えた。


せいじょはかかしの頭を撫でた。


「かかしも置いていかれたの?」


オイラは言った。


「はい。人間は私を置いていきました。帰ってくると、そう言ってました」


オイラは少し羨ましかった。オイラは親の顔を見たことがない。気づいた時には、ゴミの島にいたから。


「かかしは親の顔を見たことがあるの?」


オイラは尋ねた。


「親の顔……分かりません。私を作ったのは人間です」


「オイラも人間から作られた。オイラと一緒だな」


オイラは答えた。


ふと、せいじょの顔を見ると、涙を浮かべていた。


「どうした、せいじょ。お腹痛いの?」


オイラは尋ねた。


「いえ、大丈夫です」


せいじょは目をそらした。


オイラたちは湖に向かう途中、この前の犬に会った。小さな子犬を連れていた。


犬はしっぽを振って挨拶をしてくれた。


せいじょは子犬の頭を撫でていた。


「せいじょ、犬が怖くないの?」


オイラは尋ねた。


「子犬なら怖くありません」


せいじょは笑った。


オイラたちが湖に向かうと、犬たちはオイラの後をついてきた。


オイラは湖に着いた。


湖は綺麗になり、魚たちは沢山泳いでいた。


「これなら魚を釣ってもいいよね」


オイラは言った。


「はい。これなら大丈夫です」


かかしは言った。


オイラは湖の近くの地面を掘った。


ミミズがたくさん出てきた。


「はい、コレ」


オイラはせいじょにミミズを渡した。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! これ何!? 怖い!」


せいじょは言った。


「これはミミズ。魚の餌だよ。これで魚を釣るんだよ」


オイラは言った。


「怖い。怖い。ムリ。ムリ。」


せいじょが怖がるので、オイラが針にミミズをつけてあげた。


オイラは釣りを始めた。

立派な竿だ。

ちゃんとウキまでついている。


せいじょもオイラの真似をした。


湖に餌が入ると、遠くまで波紋が広がった。


「波紋ってすごくない?」

せいじょは呟いた。


「なにがすごいの?」

オイラは尋ねた。


「だってあんなに遠くまで伝わるんだよ。私達遠くの声とか聞こえないじゃない。水の中なら遠くまで聞こえるんじゃないかな」

せいじょは言った。


オイラにはせいじょの言っている事が、よくわからなかった。


しばらくして、せいじょの竿がピクピクっと動いた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ。これ、どうなってるの?」


せいじょは驚いた顔をした。


「それは今、魚が餌をつついているんだ。しばらく動かさず置いておいて、ぐっと引かれたら、その時に引っ張って」


オイラは言った。


(ピコピコ……グーッ)


せいじょの竿が引っ張っていかれる。


「もう引いていい?」


「うん。引いていいよ」


せいじょは竿をグーっと引き上げる。


水面を糸が走り、

銀色の魚が空を舞った。


魚は螺旋を描き、

せいじょに向かってくる。


「うわっ、怖い!」


せいじょは竿を手放す。


オイラはせいじょの竿を掴んだ。


魚がぐるっと回って、オイラの顔にぴたっとついた。


「ほら、大丈夫だよ」


オイラは言った。


オイラの顔にひっついた魚を見て、

せいじょはクスクスと笑った。


オイラはせいじょの楽しそうな顔を見るのが、

嬉しかった。


オイラは魚を水の入ったバケツに入れた。


せいじょは恐る恐るバケツを覗き込む。


「私、こんなに間近に魚を見たの初めて」


せいじょはそう言った。


かかしがバケツを覗き込む。


「これは食べられる魚です」


かかしはそう言った。


「ねえねえ、ラーチの竿も引いてるよ」


せいじょはそう言った。


オイラは竿をつかむ。そして、グーッと引き上げた。


せいじょと同じ魚が釣れた。


それからしばらく魚を釣り、十匹ほどの魚が釣れた。


犬がじっと、オイラたちを見ている。


「欲しいの?」


と聞くと、コーンと鳴いた。


オイラはせいじょの方を見る。


「わけあいっこしましょう」


せいじょは言った。


オイラは四匹、犬に魚をあげた。


オイラは薪を集めて火をつけた。


火は、かかしが持ってきた道具ですぐについた。


犬たちは火に怯えている。


でも、オイラたちが火で魚たちを焼き始めると、少しずつ近づいてきた。


オイラたちが焼いた魚を食べると、自分たちに渡された魚をオイラの元に持ってきた。


「焼いてほしいの?」


と聞くと、コーンと鳴いた。


オイラは魚を焼いて犬たちにやった。


犬たちは少し戸惑いながらも、魚を平らげた。


気がつくと、日は傾いていた。


「楽しかったね」


せいじょが笑った。


「帰ろうか」


オイラは言った。


「うん」


せいじょは頷いた。


オイラたちは湖で手を洗う。


せいじょが手の匂いを嗅いでいる。


「魚って、匂いつくよね」


オイラは言った。


「そうですね」


せいじょは辺りをキョロキョロしている。


「ちょっと待ってください」


せいじょは草を取った。


そして、その草を手でぐしゅぐしゅとして、また湖で洗った。


せいじょは手の匂いを嗅いだ。


せいじょは頷き、オイラに手を差し出す。


「匂い嗅いでみて」


せいじょは言った。


オイラはせいじょの手の匂いを嗅ぐ。


「臭くない」


オイラは言った。


「あの草をくしゅくしゅとすると、匂いが消えます」


せいじょは言った。


オイラは言われた通りにしてみる。


匂いは消えた。


「すごいね。あれは何なの?」


オイラは尋ねた。


「あれは魚の匂いを消す草なんです」


せいじょは言った。


オイラには、

せいじょが魔法使いのように見えた。


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