釣り
あれから三か月が過ぎた。
オイラ達は、湖に向かった。
釣竿と釣り道具、そして折りたためるバケツを、かかしは用意してくれた。
「これ、どこにあったの?」
せいじょは尋ねた。
「三軒隣の家です」
かかしはそう言った。
「勝手に借りていいの?」
せいじょは尋ねた。
「もうここには、何年も人がいません」
かかしはそう答えた。
「こんなに立派な家があるのに、住んでないなんてもったいないな」
オイラは言った。
「そうですね。もったいないですね。
私も、もったいない」
かかしはそう答えた。
せいじょはかかしの頭を撫でた。
「かかしも置いていかれたの?」
オイラは言った。
「はい。人間は私を置いていきました。帰ってくると、そう言ってました」
オイラは少し羨ましかった。オイラは親の顔を見たことがない。気づいた時には、ゴミの島にいたから。
「かかしは親の顔を見たことがあるの?」
オイラは尋ねた。
「親の顔……分かりません。私を作ったのは人間です」
「オイラも人間から作られた。オイラと一緒だな」
オイラは答えた。
ふと、せいじょの顔を見ると、涙を浮かべていた。
「どうした、せいじょ。お腹痛いの?」
オイラは尋ねた。
「いえ、大丈夫です」
せいじょは目をそらした。
オイラたちは湖に向かう途中、この前の犬に会った。小さな子犬を連れていた。
犬はしっぽを振って挨拶をしてくれた。
せいじょは子犬の頭を撫でていた。
「せいじょ、犬が怖くないの?」
オイラは尋ねた。
「子犬なら怖くありません」
せいじょは笑った。
オイラたちが湖に向かうと、犬たちはオイラの後をついてきた。
オイラは湖に着いた。
湖は綺麗になり、魚たちは沢山泳いでいた。
「これなら魚を釣ってもいいよね」
オイラは言った。
「はい。これなら大丈夫です」
かかしは言った。
オイラは湖の近くの地面を掘った。
ミミズがたくさん出てきた。
「はい、コレ」
オイラはせいじょにミミズを渡した。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って! これ何!? 怖い!」
せいじょは言った。
「これはミミズ。魚の餌だよ。これで魚を釣るんだよ」
オイラは言った。
「怖い。怖い。ムリ。ムリ。」
せいじょが怖がるので、オイラが針にミミズをつけてあげた。
オイラは釣りを始めた。
立派な竿だ。
ちゃんとウキまでついている。
せいじょもオイラの真似をした。
湖に餌が入ると、遠くまで波紋が広がった。
「波紋ってすごくない?」
せいじょは呟いた。
「なにがすごいの?」
オイラは尋ねた。
「だってあんなに遠くまで伝わるんだよ。私達遠くの声とか聞こえないじゃない。水の中なら遠くまで聞こえるんじゃないかな」
せいじょは言った。
オイラにはせいじょの言っている事が、よくわからなかった。
しばらくして、せいじょの竿がピクピクっと動いた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ。これ、どうなってるの?」
せいじょは驚いた顔をした。
「それは今、魚が餌をつついているんだ。しばらく動かさず置いておいて、ぐっと引かれたら、その時に引っ張って」
オイラは言った。
(ピコピコ……グーッ)
せいじょの竿が引っ張っていかれる。
「もう引いていい?」
「うん。引いていいよ」
せいじょは竿をグーっと引き上げる。
水面を糸が走り、
銀色の魚が空を舞った。
魚は螺旋を描き、
せいじょに向かってくる。
「うわっ、怖い!」
せいじょは竿を手放す。
オイラはせいじょの竿を掴んだ。
魚がぐるっと回って、オイラの顔にぴたっとついた。
「ほら、大丈夫だよ」
オイラは言った。
オイラの顔にひっついた魚を見て、
せいじょはクスクスと笑った。
オイラはせいじょの楽しそうな顔を見るのが、
嬉しかった。
オイラは魚を水の入ったバケツに入れた。
せいじょは恐る恐るバケツを覗き込む。
「私、こんなに間近に魚を見たの初めて」
せいじょはそう言った。
かかしがバケツを覗き込む。
「これは食べられる魚です」
かかしはそう言った。
「ねえねえ、ラーチの竿も引いてるよ」
せいじょはそう言った。
オイラは竿をつかむ。そして、グーッと引き上げた。
せいじょと同じ魚が釣れた。
それからしばらく魚を釣り、十匹ほどの魚が釣れた。
犬がじっと、オイラたちを見ている。
「欲しいの?」
と聞くと、コーンと鳴いた。
オイラはせいじょの方を見る。
「わけあいっこしましょう」
せいじょは言った。
オイラは四匹、犬に魚をあげた。
オイラは薪を集めて火をつけた。
火は、かかしが持ってきた道具ですぐについた。
犬たちは火に怯えている。
でも、オイラたちが火で魚たちを焼き始めると、少しずつ近づいてきた。
オイラたちが焼いた魚を食べると、自分たちに渡された魚をオイラの元に持ってきた。
「焼いてほしいの?」
と聞くと、コーンと鳴いた。
オイラは魚を焼いて犬たちにやった。
犬たちは少し戸惑いながらも、魚を平らげた。
気がつくと、日は傾いていた。
「楽しかったね」
せいじょが笑った。
「帰ろうか」
オイラは言った。
「うん」
せいじょは頷いた。
オイラたちは湖で手を洗う。
せいじょが手の匂いを嗅いでいる。
「魚って、匂いつくよね」
オイラは言った。
「そうですね」
せいじょは辺りをキョロキョロしている。
「ちょっと待ってください」
せいじょは草を取った。
そして、その草を手でぐしゅぐしゅとして、また湖で洗った。
せいじょは手の匂いを嗅いだ。
せいじょは頷き、オイラに手を差し出す。
「匂い嗅いでみて」
せいじょは言った。
オイラはせいじょの手の匂いを嗅ぐ。
「臭くない」
オイラは言った。
「あの草をくしゅくしゅとすると、匂いが消えます」
せいじょは言った。
オイラは言われた通りにしてみる。
匂いは消えた。
「すごいね。あれは何なの?」
オイラは尋ねた。
「あれは魚の匂いを消す草なんです」
せいじょは言った。
オイラには、
せいじょが魔法使いのように見えた。




