表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/12

神の芋

それから毎日のように、私たちは湖に向かい、魚を釣った。


犬たちは私たちが来ると、じっと私たちが魚を釣り上げるのを待っている。


犬たちはたまに鳥などを捕まえて、私たちに持ってくる。


そういう不思議な共生関係ができた。


狼だと思うと怖い。でも犬だと思うと怖くはなかった。


教会で、

「先入観を持ってはいけません」

と教わった。


しかし私は先入観を持ち続けていた。


ここに来て神と離れ、ようやく先入観が音もなく崩れ去っていくことに気がついた。


私はこの世界に来た時、神の意図がわからなかった。


しかし今、

先入観を持っていた自分に対峙することで、

神の意図が少しだけ分かったような気がする。


神の意図がわかる――それを人が言うのは罪であると思う。


しかし神の意図を理解することで、私は随分救われるのだ。


そう感じた。


本当は神の意図など存在しないのかもしれない。


無作為に、

ただ運が悪くこの世界に流された。


そう思うこともできる。


しかしラーチは言っていた。


人の役に立てると、それをラーチはただ喜んでいた。


私は聖職者だ。

本来、人々の役に立てるということだけで喜びを感じるべきなのに、そこに認められたいという承認欲求が絡んでいることに気がつく。


前の世界では信者に感謝をされた。


この世界で実験動物として生きることに、私は感謝されているのだろうか。

そう疑問を感じる。


そのことが私の心を容易に引き裂いた。


湖からの帰り、私は白い星形の花の咲く花畑に出会った。


「可愛い」


私はそう言って、花畑に近づく。


ラーチは不思議そうな顔をして、じっと花を見ていた。


「どうしたの?」


私は尋ねた。


「この花、島で見たことがあるんだ。

確か、この花の下に食べられる根っこがあったと思うんだ」


ラーチは言った。


「かかし、この花の根っこは食べられるの?」


と私は聞いた。


「はい。

これは今いもという植物です。

大きな根っこがあるので、それを茹でれば食べられます。

ここは畑です」


かかしはそう言った。


この畑があれば、自給自足ができる。

私は神に感謝をした。


私はすぐにでもその根っこを見たくなったが、道具も何もない。

私たちは別の日に再度来ることにした。


次の日、かかしはスコップを用意していた。


「このスコップは五軒隣の家にあったものです」

かかしは言った。


私がこの間、

竿がどこから来たのか聞いたからか。

私は少し反省をした。


「そう。ありがとう」

私はかかしの頭を撫でた。


「ほめられた。ほめられた」

かかしは言った。


私はかかしはゴーレムではないのだと、

そう思い始めていた。

ゴーレムは人が生み出したもの。

そう思っていた。

家も、道具も、皆人が生み出したもの。

そう思っていた。


人は神の御子とも言う。

であるなら、

人が生み出したものも、

神が生み出したものだと、

言っていいのではないか。

そう感じた。


そうか、

かかしも、

私たちと同じ、

神の生み出したモノなのだ。


そう思うと、

かかしに感じていた不気味さが薄らいできた。


そうか。

私は人間の生み出したものに、

少しの不信感をもっていた。


しかし、

人間が生み出したという事は、

少なくとも、

神が許可を与えたという事。


それに不信感を持つという事は、

神への冒涜とも言えるのかもしれない。


そう感じた。


「かかし。悪というのはあるのかしら?」

私はかかしに尋ねた。


「善も悪も、ただの判断に過ぎません。

刃物は人を傷つけます。

しかし刃物なくては、人は生きられません。

刃物が悪であれば、人は悪により生かされている事になります」

かかしはそう答えた。


刃物が悪であれば、人は悪により生かされている。

その言葉は、とても重かった。


「刃物を武器として使えば武器。野菜を切る道具として使えば包丁。そういうことか」


「はい。邪悪な炎も、使い方を誤らなければ、大いなる恩恵でした」


「人間は間違ったという事だね」


「どうでしょうか?

この邪悪な炎を使った人間も、神の創造物。仮にそうだとするならば、この状態すらも神の意図と言えるのかもしれません」

かかしはそう答えた。


私には、その答えが理解できたが、理解することに躊躇があった。


……


私たちは、

芋の花畑についた。

ラーチはスコップを手に、

花の根元を掘り出した。


私はその様子をじっと見る。


「やっぱり、これは食べられるやつだ。でもなんかおかしいな」

ラーチが考えこんでいる。


芋。

まるっこい、石みたいな根っこ。

私が見たことのない植物だった。


かかしが芋に近づく。


「これは確かに芋ですが、収穫にはまだ時間がかかるようです」


「いつまでかかるの?」

ラーチは尋ねた。


「私の頭には詳しいことが入っていません。

教会の図書室を覗いてみます。

あぁそうそう。

このスコップを借りた家にも農業書がありました」

かかしは言った。


「じゃあ、帰ろうか?」

私はラーチの頭を撫でた。


ラーチは少し残念そうだった。


「今日くいものどうする?」

私は尋ねる。


「あのくいものまだあるの?」

ラーチはかかしに尋ねる。


「まだ十分にありますよ」

かかしは答えた。


私たちは帰路につく。


(コーン)


遠くでオオカミの鳴く声が聞こえる。


「あの犬。今日はこないの?って言ってるのかな」

私は言った。


「うん。そんな気がする。明日は釣りに行こう」

ラーチは笑った。


教会に戻ると、

かかしが食事を用意してくれ、

そのあとかかしは忙しく動き回っていた。


そして三時間程経ったあと。


「花が咲き終わり、葉が黄ばんで、茎がだらりとしていたら収穫の適期だそうです」

かかしはそう言った。


「ありがとう」

私はそう言い、頭を撫でた。


かかしはじっと止まっている。


ラーチがその姿をじっと見て、

近くに寄ってきた。

私はラーチの頭を撫でた。


可愛い笑顔で、

私に抱きついてきた。


私は心が温かくなった。


神の愛というのは、きっとこんな風に温かいものなのだろう。


そんな風に思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ