芋とネズミと蛇
オイラたちは、
それから釣りに行くたびに、芋を見に行った。
白い花はキレイだったけど、
枯れるのを待つのは、
変な気分だった。
枯れるというのは、
その植物の命が終わるという事。
それを楽しみに待つオイラたち。
少し変だと思ったけど、
世界は誰かを食べて、
誰かに食べられて、
それでクルクル回るんだ。
そう思った。
オイラの住んでいた島は、
ゴミの島だった。
みんながゴミというだけで、
オイラにはゴミという感覚もなく、
ただ食べ物か、食べ物と交換できるモノだった。
ここに来るゴミは、
外の人間の食べカス。
使い捨てたカスだ。
そう誰かが言っていた。
オイラはスライムと会った時、
島のみんなとスライムは同じだと思った。
でも、
島のみんなはスライムを怖がった。
自分達のくいものを奪われると。
そう思った。
でもスライムは、
島のみんなが食えないものを食った。
この世界でも、
他のみんなが食えないものを食った。
赤い花。
あれは誰にも食われないから、
あそこまで広がった。
赤い花を食えるスライムがこの世界に来たことで、
赤い花は消えた。
そして赤い花の跡には、他の植物達が育った。
オイラは芋を食う。
それは、
芋にしてみれば、迷惑な話かもしれないけど。
いろんな繋がりで、他のモノが生きる種になるのかもしれない。
そう思った。
……
芋の花は枯れ、
葉は黄色くなっていた。
オイラはスコップで穴を掘った。
見た事のある芋になっていた。
「せいじょ。これが芋だよ」
オイラはせいじょに芋を見せた。
「前より大きいですね」
せいじょは答えた。
「その大きさなら、収穫できますね。一気に収穫しましょう」
かかしは言った。
オイラ達は手分けして、
芋を収穫した。
カゴは満タンになった。
オイラ達は収穫して運ぶことを繰り返した。
かかしは教会のなかにある部屋に芋を入れるように言った。
見た事のない部屋だった。
「この部屋はなに?」
オイラは尋ねる。
「ここは農産物の保存に適した部屋です」
かかしは答えた。
収穫は二週間かけても終わらなかった。
二週間を過ぎた時、
畑をネズミが荒らしているのを見た。
「ネズミが私たちの芋を!」
せいじょが指を指す。
「ちょっと待って」
オイラは様子を見る事にした。
オイラは考えた。
オイラの島ではネズミを食っていた。
お腹を壊すこともあるが、割と美味かった。
「あのネズミ。つかまえて食おう」
オイラは言った。
「ちょちょちょちょ。それムリ、ムリ、ムリ」
せいじょは怯えている。
「なんで、美味しいよ」
オイラは言った。
「いや。いや。絶対いや」
せいじょはスゴイ顔をしている。
オイラはどうしようかと観察していると、
ネズミの近くに蛇がやってきている事に気が付いた。
「あっ。蛇が来てる。あの蛇。ネズミを食おうとしてるな」
オイラは言った。
蛇はじっと気付かれないように、ネズミの側に行き、ネズミに噛みついた。
ネズミはぴくりとも動かない。
そして、蛇は口を大きく開けて、ネズミを飲み込んだ。
「うわ。すごい。蛇ってネズミを食べるんだ」
せいじょは口をぽかんと開けた。
「オイラも蛇がネズミを食べるところ、はじめて見た。
あっ。蛇も美味しいよ。あの蛇を食べる?」
オイラは尋ねた。
「いや。いや。絶対いや。魚あるし、芋もあるし」
せいじょは言った。
オイラは他のネズミのところに、
黒い少し大きなリスのような生き物が近づいているのを見つけた。
「あれなんだろう。変な生き物」
オイラは指を指す。
背中に白い線がある。
「昔に聞いたことがある。あれはスカンク。すごいニオイがする動物よ」
せいじょは言った。
「はい。あれはすごいニオイがします」
カカシは言った。
スカンクは、ネズミに近づき、ネズミを倒して咥え、どこかに去っていった。
「スカンクもネズミを食べるんだ……。
蛇は噛むから怖いし、スカンクは臭いと聞いたから、嫌な生き物だと思っていたけど、もしかしたら人間の役に立っていたのかもね」
せいじょは言った。
「世界は誰かを食べて、
誰かに食べられて、
それでクルクル回るんだ」
オイラは呟いた。
「今日はもう収穫は止めにしない?」
せいじょは言った。
「そうだね。今日は放置しておこう」
オイラは頷いた。
……
教会への帰り際、
せいじょは言った。
「ねぇラーチ。なんでネズミを食おうと言ったの?」
「なんでって。美味しいから」
「ネズミを食べたことがあるの?」
「オイラの島では、ネズミは食料を食うし、迷惑だったし、食うと美味いから、皆食ってたよ」
「病気になるとか、思わなかった?」
「病気になるより、お腹を減らして亡くなる人のほうが多かったから」
せいじょの顔がこわばった。
「そうなんだ。どうやって食べてたの?」
「内臓を取って、じっくり茹でて、茹で汁は捨てていた」
「そ、そうか……。他に食べるものがなかったのね」
「うん。ここみたいに一杯はなかったな」
「ここではネズミは食べなくていいんじゃない?」
「どうして?」
「だって芋も魚だって獲れる。蛇もスカンクも芋や魚は食べないでしょ」
「そうだな。オイラ達は芋も取れ、魚も釣れる。ネズミは他の動物に譲ってやるといいな」
「そうよ。私たちは豊かなのよ」
豊かか……。
オイラはせいじょが言った言葉が、やけに気に入った。
「オイラは王様みたいだ」
「なんでそう思うの?」
「王様って国を持ってるだろ」
「そうね」
「そして、その国のものを国民に与えることができる」
「そうよね」
「オイラはネズミを狩れるけど、ネズミを他の動物に譲ってやるんだ。これって王様みたいだろ」
「うん。たしかにそうかもしれない。じゃあ私は?」
「せいじょはキレイだから、お姫様」
「それだと、私はラーチの子供って事になるよ」
「そうなの? 王様とお姫様じゃないの?」
「違う。王様と王妃になるの」
「そっか。じゃあ、せいじょは王妃。でも王妃ってキレイ?」
「うん、キレイな人だよ」
「じゃあ、せいじょは王妃ね」
「うん。わかった」
せいじょは笑った。
オイラはその笑顔に照れくさくなった。




