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悪魔さえ見捨てた世界の頂点

美しく妖しい赤い花。

この世界は、

赤い花で覆われていた。

ラーチという少年が、

この世界に現れ、

スライムに赤い花を食べさせた。


少年は教義も知識も信念も持たず。

ただ自然に振る舞った。


結果、

世界は変化した。


世界は弱肉強食といわれるが、本当だろうか?

この世界の頂点が、赤い花だった時、

世界は停止していた。


もし世界が本当に、

弱肉強食であるのなら、

世界は停止するのでは?


虫けらと呼ばれる脆弱な虫のほうが強い事も多い。


捕食者や分解者が極端に増えれば、

自然に淘汰される。


イナゴが増えて、

農作物に被害が出たとしても、

イナゴは世界を支配できない。


赤い花のように、

たった一つの種だけが生き残るのが、環境破壊。


色々な顔や姿があり、

色々な考え方があり、

てんでばらばらで、

統率が取れない混沌とした世界。

静寂で調和の取れた美しい世界とは、

まるで違う。

混沌とした世界。

実は、

その混沌とした世界こそが、

もっとも安定した世界なのかもしれないと。


バランス……、

そして、

弱いものが生き残れる環境が大事なのか。


自然は過酷だという。

しかし、

弱者が生き残れる、

そんなシステムこそが自然であり、

強者のみが生き残れる状態は、

死の世界であり、

修羅の世界。


私は、

疲れて眠りこんだラーチの横顔を見ながら、

そんな事を考えていた。


そう考えると、

世界の頂点は、

ラーチであり、

私であり、

ネズミであり、

あの犬であり、

芋であり、

そして何者でもないのだと。


そう思わざるをえなかった。


私は神に祈る。


私は神を捨てたわけではない。

神は絶対である。

その気持ちは変わらない。

しかし、

神が絶対であるのなら、

その創造物も絶対であり、

全ての者が頂点であり、

全ての者が循環の輪の中にいる。


そうとしか思えなくなったのだ。


……


私たちは、

当面の食料が確保できたこともあって、

残りは畑に残しておくことにした。


カカシに尋ねると、

放置しておくと、

増える可能性もあると言っていたからだ。


ラーチも同意した。


芋は毎日茹でていた。

しかし味もなく、

カカシの出してくれる、くいものと一緒に食べていた。


「うーん。この芋って味がないよね」

私は呟く。


「味って何?」

ラーチは尋ねた。


「味って、辛いとか甘いとか、そういうのよ」


「へぇ。そうなんだ。そういえば、くいものはみんな違う。違うウマさがある」


「そういう事。違うウマさの事を味というの。ねぇカカシ。塩とか味をつけるものはないの?」


「ちょうみりょう……、ちょうみりょう……、すこしまってください」

カカシはどこかに向かう。


十分ほどして、カカシは何かの黒い液体を持ってきた。


「こういうモノですか?」


私は瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。

甘い香りがした。


「これは?」


「人間、これくいものにかけてた」

カカシはそう答えた。


名前を聞こうと思ったが、名詞がそもそも違うので、それはやめた。

私は指に少し液体をつけて舐めた。


「甘い」

これは、ハチミツ?

いやでも、ハチミツの味ではない。


「これはどうやって採るもの?」


「これは樹に傷をつけて採る」


樹液のたぐいか。


私はラーチに、

液体を舐めさせる。


「どう?」


「美味い」


「これはね。甘いという味なの」


「これが甘いという味か。芋もよく噛んだら、少し甘い味になるな」


「そうね。こういうのが甘いというものなのよ」


私は考える。

この世界のモノの名詞はわからない。

でも製造過程を言えば、その形を言えば、

伝わるかもしれない。


「ねぇ、かかし。人間が食べ物に振る白い粉はない?」


「しろいこな。いくつかある。もってくる」

かかしはまたどこかに出かける。

そして十分くらいで戻ってくる。


そこには三つの粉があった。

一つは見た目的に、小麦粉っぽい。


「かかし、これは水をくわえて、練ったりしない?」


「そう。人間これに水をくわえて、練って、膨らませた」


そう答えた。


やっぱり、これは小麦っぽい。


もう二つは塩と砂糖っぽかった。


「これ二つとも食べ物にかけたり、使うやつだよね」


「そう」


「このどちらか、おちゃに入れるものはない?」


「こっちがおちゃに入れる」


私はそれが砂糖だと予想をして舐める。

やはり甘い。


私はラーチに舐めさせる。


「これも甘い」


「そうよね。これも甘い。さっきのものも甘いし、こっちも甘い。こっちは砂糖というの」


「砂糖」


「そう」


私はもう一つの白い粉を舐める。


弱い塩味と、苦み、舌に少しピリッとした刺激があった。


私は思わず、吐き出す。


「なにこれ?」


「人間、これよくくいものにかけてた」


くいものにかける?

これを……。

もしかして、これは。


「人間は、これを掃除とかに使ったりしなかった?」


「使ってた」


そうか。

これは重曹だ。

たしかに、くいものにかけることもある。


「ねぇ。それも舐めていい?」

ラーチが興味深そうに覗き込んでいる。


「いいけど。美味しくないわよ」


そういうのも聞かずに、

ラーチは舐めた。


「うわ。へんな味」


「これは、少しの塩味と、苦味かな。あとは舌にピリッとした感じが出るでしょ」


「うん。舌にピリッとする。こんなピリってしたのって、くいものにもある」


「そうね。これが辛いという感覚なの」


「へぇ。これが辛いんだ。このうげぇってなるのは?」


「それは、苦味かな。こういうのを苦いっていうの。あのおちゃにも、少し似たところあるでしょ」


「うん。そういえば似てる」


「この苦味とか、辛味、甘味がどれくらいあるかで、色んな味になるの」


「すごい。魔法みたいだ」


「そうね。料理は魔法みたいだね」


私は、

世界も一つの料理のようなものではないか。

そんな風に思えた。

赤い花だけだったころ。

世界は苦いだけだった。

しかし、

スライムによって苦みを取り除いた結果、

世界本来の味が出てきたのではと。


「ねぇ。かかし。このくいものってどこから来たの?」

もしかしたら、そこに塩もあるかもしれない。


「ここから半日ほど歩いた所です」


「そこに行くことはできる?」


「行けます」


「ねぇラーチ。ここから半日くらいのところに、このくいものを作った場所があるみたいなの。行ってみない?」


「うん。明日行こう」

ラーチはそう答えた。


その世界は悪魔さえにも見捨てられた。

そこにゴミ拾いの少年と聖女が呼び寄せられた。


二人は実験動物。

そう呼ばれた。


だれによる実験。

人なのか、

それとも神なのか。

もしくは悪魔なのか。


わかることが真理ではない。

知ることが正解でもない。


二人にとって、

最後まで生きつづける事が、

唯一の正解なのかもしれない。


彼らは、

明日――――

工場へ向かう。


END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


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