先生
オイラは一つスゴイ事に気が付いた。
かかしは賢いという事だ。
オイラはモノを覚えるのに、
時間がかかった。
でもかかしはすぐに覚える。
試しに、
オイラの知っている言葉を、
教える事にした。
かかしに腕を見せて、
「これは腕」と言った。
「これ……これ……うで……うで……」
かかしも続けた。
「これうで」
せいじょも真似をした。
それから一日中、
知っている言葉を、かかしとせいじょに教えた。
かかしもせいじょも賢かった。
言葉をすぐに覚えた。
夜になる前に、
教える言葉がなくなった。
すると今度はせいじょが言葉を教えてくれた。
せいじょはオイラが知らない事をたくさん知っていた。
花という言葉は知っていた。
葉っぱという言葉も知っていた。
でも茎という言葉を聞いたのは初めてだった。
土にも、石、小石、砂利、粘土、たくさんの言葉があることを知った。
それから一週間が過ぎた。
一週間、一月、一年、一月、二月、春夏秋冬、時間。
それらにも名前があることがわかった。
島の大人たちが言っていた言葉。
少しわかるようになった。
以前のオイラには、
わからなかったことが、
言葉として知ることで、
わかるようになる。
ラーチのおっちゃんの名前を知った時、
ラーチのおっちゃんの事が少しわかるようになった。
スライムの名前を知った時、
スライムの事が少しわかるようになった。
オイラは学者にでもなった気持ちになった。
でも、
言葉が多すぎて、
オイラには覚えきれない。
忘れたら、
かかしやせいじょに聞いて、
何度も繰り返し、
覚えた。
それから、
三か月が過ぎた。
オイラはせいじょの言っている言葉が、
わかるようになった。
せいじょもオイラの言葉がわかるようになった。
ラーチのおっちゃんの事より、
せいじょの事のほうがよくわかる。
スライムよりも、
せいじょの事がよくわかるようになった。
オイラはこの世界の中で、
一番せいじょを知っていると思ったし、
せいじょがこの世界で、
一番オイラの事を知っていると思った。
それは特別なことで、
とっても大切なことだと。
オイラはそう思えた。
覚える。
知る。
それこそが、宝ものなのだと。
オイラは知った。
オイラは学校に行けなかった。
学校なんかいらないと島の大人は言った。
でも、
それはウソだ。
覚える事。
知る事は、
宝ものなんだ。
オイラは知った。
そこからしばらくして、かかしが、
せいじょもオイラも教えていない言葉を使いだした。
どうやらかかしもオイラ達に教えてくれているみたいだ。
今度はかかしが先生になって、
この世界の事を教えてくれた。
そこから、
三か月が過ぎた。
せいじょが真剣な顔をして、
かかしに言った。
「私たちは、なぜここに呼ばれたの?」
「あなたたちは実験動物です」
かかしはそう答えた。
せいじょの顔はこわばっていた。
実験……、
なにかに成功するかどうかを調べる試験のようなもの。
動物……、
生き物、オイラやネズミ、猫も動物。
そうか、
オイラ達は実験のために呼ばれたのか、
そう思った。
「そうか、オイラ達は何かの役に立つんだ」
オイラは言った。
すると先ほどまでこわばっていたせいじょの顔が、
元のきれいな顔に戻った。
そしてせいじょはオイラの頭を撫でた。
「あなたは神に近い人なのですね」
そう言い、
オイラを抱きしめた。
なぜかわからないけど、
涙が出てきた。
「オイラ、悲しくないのに、涙が出てきた」
オイラは言った。
せいじょはオイラの涙を指でぬぐい、
「そうですね。
悲しくないのに、涙が出るのは、うれしい時かもしれません」
そう言った。
せいじょの顔を見ると、
せいじょの目にも涙があった。
「せいじょも、今うれしいの?」
オイラは尋ねた。
「えぇ。
神の御子である、あなたに会えてうれしいのです」
せいじょは言った。
オイラにはその言葉の真意がわからなかった。
でも、
悪い気はしなかった。
神の御子だから、
こんなにも、
オイラは幸せなんだ。
そう思ったからだ。
「オイラは幸せだ。せいじょに会えて、かかしに会えて」
そう言うと、
せいじょはまた涙を流した。
オイラは驚いたけど、
嬉しいのかなと思い、
せいじょの頭を撫でてあげた。
……
皆で勉強をしている間。
外のスライムは、
ずっと赤い花を食べていた。
面白いのが、
赤い花がなくなると、
そのあとに、
一月ほどでピンクの花が生えてきた。
そしてスライムがピンクの花を食べると、
次は白い花が生えてきた。
そして、白い花をスライムが食べると、
今度は草が生えてきた。
「花がなくなるたびに瘴気が薄くなる」
せいじょは言った。
スライムも面白かった。
水色のスライムが、紫になり、濃い赤になった。
そして紅いまん丸の玉を吐き出して水色に戻った。
サイズが大きくなり、勝手に分裂して、
あちこちに移動して、あちこちの花を食べていた。
せいじょは紅いまん丸の玉を見て、こう言った。
「これは瘴気じゃない。純粋な魔力の塊」
だと。
オイラにはよくわからなかった。
「どういうこと?」
と聞くと、
「赤い花には瘴気という悪いものがあった。
でもスライムが食べることで、
瘴気は消えて魔力の塊になったのだと思う」
オイラにはせいじょの言っていることがわからなかった。
島のだれかが言っていた。
「ここにある毒も、もとは人間が必要としていたもの。
それが必要じゃなくなったから、毒と言われただけだ」
オイラはせいじょに尋ねた。
「瘴気は元から悪いものなの?」
せいじょは困った顔をし、
こう言った。
「神が万物を生んだと私は聞きました。
だとすれば瘴気も神が生んだもの。
悪いと思うのは人間の勝手な思い込みなのかもしれませんね」
オイラはせいじょの答えは正しいのかもしれないと思った。
だから、
「オイラのいた島には毎日ゴミが届けられるんだ。
そこで使えるゴミにわけるんだけど、スライムを使えば、毒だと言われていたゴミだって、お金に変わったんだ」
そう言った。
オイラの話を聞いて、せいじょは優しい目をして、オイラを抱きしめてくれた。




