観察
赤い花が咲く異世界に来て一晩が過ぎた。
かかしに毛布を出してもらったが、
ベッドはなしの雑魚寝。
身体が痛かった。
日の光で目覚めた。
ラーチはまだ寝ていた。
寝顔が可愛らしかった。
今日は昨日とは違う食べ物だった。
香辛料が使われているのか。
昨日とは違う味で、
美味しかった。
どうも箱にメニューの名前が書いていあるようだけど、
この世界の文字は読めない。
三つの言語を習ったが、
この世界では役に立たなさそうだ。
あのラーチという少年は、
私を気遣ってくれる。
これが、
弟のような感じなのだろうか?
なつく子犬のような気さえする。
ふと過去を振り返る。
私は五歳の頃、
教会に預けられた。
周りは年上ばかりで、
修行ばかりの日々だった。
同じ教会関係者とだけの世界。
その世界に何の疑問も持たなかったが、
教会関係者以外とのやり取りは新鮮だ。
とりとめのない言葉が、
頭を流れる。
そうか、
私は不安なのか。
神がいない世界で、
どう生きて行けばいいのか。
不安でたまらないのか。
そう思った。
あの少年は強いな。
私は思った。
神は空気のように、
身近なものだった。
祈れば神が教えてくれた。
私にとっての教師は、
先輩と神だった。
私の毎日は、
祈りと勉強と掃除。
このくり返しだった。
それが繰り返される日常であり、
現実だった。
私が、
そんな毎日を繰り返している間。
あの少年は生き残るための努力を続けていたのだろう。
祈りと勉強と掃除。
とても退屈な日々だったが、
死の恐怖は身近ではなかった。
あの少年が孤児であるなら、
日常的に死の恐怖を感じていたのだろう。
やはり、私は神に愛されていたのだろう。
だから、死の恐怖から遠ざけれれていた。
でも、
今は死の恐怖が身近だ。
そう思う。
神に見放されたのだろう。
私がここに連れてこられたというのは、
信仰心が足りなかったからなのか?
いや。
本当に死の恐怖が身近なのだろうか?
食事もある。
飲み物もある。
寝るところもある。
ただ人がいないだけ。
いや違う。
ラーチもいる。
かかしもいる。
そうか。
わからないことへの不安なのか。
神のいない。
いや、
神の存在が感じられない世界で、
私はどう生きていいのかわからない。
今日ラーチと共にたんけんに出た。
ほんの少し外に出て周りを見て回っただけだが。
それでも色んな事を知った。
似たような建物が多い事。
どこも赤い花だらけな事。
そしてスライムが赤い花を食う事。
赤い花はその内部に瘴気を持っていた。
これは何を意味するのか?
元から赤い花が瘴気を持っていたのだろうか?
それとも成長する時に、瘴気を取り込んだのだろうか?
仮に瘴気を取り込んだのであれば、
この世界は、
とてつもない瘴気を受けた過去があるという事になるだろう。
この世界に料理がある。
文字があるという事は。
この世界に文明があったということになる。
しかも、私のいた世界とは比べ物にならないくらいの文明。
今、人がいないということは、
人が死に絶えたか。
もしくは人が去ったか。
という事だろう。
この花が繁殖したから、人がいなくなったのか?
それとも瘴気が充満し、人がいなくなった世界にこの花が繁殖したのか?
私は外におかれたスライムを見に行った。
ラーチもかかしもついてきた。
人懐っこい子犬のようで、
なんだか可愛い。
私は花が食べられた跡を確認する。
土との境の辺りまで、赤い花は食われていた。
根っこまでは食われてないが、瘴気は薄くなっている。
これだと、
また花が復活するのだろうな。
そんな気がした。
私は周りに、赤い花以外の植物が本当にないか確認する。
しかし、どこにもない。
もとからこの世界には、この赤い花以外の植物がなかったのではと思うくらい、
どこを探しても、見当たらない。
私はふとスライムを見る。
若干色が紫色になっているような気がした。
私は貰ったスライムを、赤い花を食べるスライムの隣においてみた。
やはり、色が変わっている。
赤色を取り込んでいるのだろう。
私はふと気付く。
この赤色が瘴気だとしたら、
このスライム……
瘴気は大丈夫なのだろうか?
私はスライムに触り、
瘴気に侵されていないか確認をする。
大丈夫だった。
ラーチの手を取り、
瘴気に侵されていないか確認をする。
大丈夫だった。
そしてかかしも大丈夫だった。
私は教会の周りを確認する。
特に瘴気が濃い場所はなかった。
ただ花を踏むと瘴気がでた。
その瘴気の量は多くはなかったが、安全というほどでもなかった。
花が瘴気を封じ込めているのか。
花が瘴気の元凶なのか?
疑問は沢山あった。
私は、
建物の中にあった本を読んだ。
読むといっても、
文字はわからない。
しかし絵はわかる。
絵だけでも、
この世界のことはわかる。
私は一つの事に気が付いた。
沢山の木の絵があった。
そして木には葉があった。
今外を見ても、木には葉がない。
つまり、昔は木には葉があったが、今はないということだ。
私は急いで木を見に行く。
木はいまどうなっているのだろうか。
木はその生命を終えていた。
正確にいうと、
ただの木材のようになっていた。
しかし、
不思議だ。
ずいぶん時間が経つように見えるのに、
木材が朽ちていない。
木材は虫が食ったり、キノコが生えたりして、朽ちていくもの。
そう聞いた。
しかし、木は朽ちずに、そのまま残っている。
もしかして、
木を食う虫も、木を分解するキノコも消えてなくなったのだろうか。
私は鼻で深く息をすった。
冷たい空気が鼻に入る。
しかし、
冷たいという感覚以外に、
ニオイはほぼ感じない。
たいていは、
生活のニオイ、動物のニオイ、植物のニオイなど、
なにらしかのニオイを感じそうなものだけど、
それが感じられない。
私は自分の鼻を疑った。
しかし食べ物は美味しそうな匂いをしていた。
やはり、世界がおかしいのだと私は思わざるをえなかった。




