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聖女

「ピコピコピコポコ」

聞きなれない音がする。

眩しい。

私は目を覚ました。


大理石のような冷たい床。

金属の何かが覗き込んでいる。

「ピコピコピコポコ」


金属の何かから音がするようだ。


私はとっさに身構える。

しかし、

何も起きない。


これはゴーレムか何かなのだろうか?

魔力の痕跡を感じる。

殺気や邪気も感じない。


神よ。

一体ここはどこなのですか?

神に呼びかけるが、

神の声は聞こえない。


私は立ち上がり、

辺りを見渡す。


大理石のような冷たい石の床に、

白い壁。

銀色の金属の箱や壁。

中央には大きな像がある。

ここは教会かなにかなのだろうか?

像の姿を見る。

私が信仰をしていた神ではない。

それに私の知っている他の宗教の神の像でもない。


あなたはこの世界の神ですか?

お答えください。

そう祈りを捧げるも返事がない。


聖女としての力が封じられているのだろうか?

私は指先に力を込める。

指先がほわっと光った。


よかった力が封じられたわけではなさそうだ。


しかし、

いつも感じられる神の気配は感じない。


いやそれどころか。

闇の……、

悪魔の気配すら感じない。


文明のあるところ、

神も悪魔もあって当たり前。


それがなぜ感じられない。


ここに人はいないだろうか?


「誰かいませんか?」


「だれか……だれか……いません……いません……」

ゴーレムのようなモノから音がする。


「私の言葉がわかるの?」


「わたし……わたし……ことば……ことば……わかる……わかる」


「ここはどこ?」


「ここは……ここは……どこ……どこ……」


このゴーレムは言葉がわかっているの?

それとも真似をしているだけ。


「他に人はいる?」


「ほかに……ほかに……ひと……ひと……いる……いる」


(がしゃ)

扉が開く音がした。


外の光が中に入ってくる。

そこには一人の少年がいた。

粗末な身なりをしている。

孤児だろうか。


私は少年に近づき、

腰を落とし話しかけた。


「君……、ここがどこかわかる?」


少年は何か言葉を発しているが、言っていることがわからない。


少年は自分を指さし言った。

「ラーチ」


これは彼の名前なのか?

私は少年を指さし、

「ラーチ」

と言った。


少年は頷いた。

そうか、

この子はラーチという名なのか。


私は自分を指さし言った。

「聖女」


ラーチは私を指さし、

「せいじょ」

と言った。


私は頷いた。


私は下を指さし、

「ここはどこ?」

と言った。


ラーチも下を指さし、

「ここはどこ」

と言った。


ここはどこという場所ではないのはわかる。

おそらくラーチも同じような境遇ではないのかと思った。


私はゴーレムを指さした。


「かかし」

ラーチは答えた。


そうかこれはゴーレムではなく、かかしというものなのか?


(ぐぅ~)

お腹が鳴る。


ラーチはかかしに何か言っている。

かかしは動き出す。

ラーチは私を手招きする。


かかしは銀色の箱から箱を取り出し、なにかにいれる。

その中から光が漏れ、美味しそうな匂いがした。


しばらくして、

ちんという音がして、かかしは匂いのする箱を私に手渡した。

箱は温かく、美味しそうな匂いがした。


どうしたらいいのかわからない。

戸惑っていると、

ラーチは箱を器用に開け、

私に差し出した。


(ぐぅ~)

お腹が鳴る。


私は恐る恐る口に運ぶ。

美味しい。

パンのような食感と野菜のような味と香辛料。

旨味は塩漬け肉かな。

しかし赤い。

血の色?

よくわからない食べ物。

微かに魔力の残滓を感じる。


これは魔法で作られたのか?


ラーチはまたかかしに何か言っている。


かかしは今度は茶色の飲み物を持ってきた。

再び恐る恐る一口飲む。

お茶?甘い。しかし苦みがある。

お茶のようなモノ。


私はラーチに

「お茶」

と聞いた。


ラーチは

「おちゃ」

と繰り返した。


そしてラーチはかかしに

「おちゃ」

と言う。


かかしは、

「おちゃ……おちゃ……」

と言った。


そうか。

これはこの国のお茶なのか。

そう思った。


食事を終えると、

ラーチは私の手を引っ張り、

外に連れ出した。


扉を開けると、

視界の先まで、赤い火花のような花が続いていた。

地面という地面。

そこを赤い花が埋め尽くしている。


「キレイ」

私は思わず呟く。


「キレイ」

ラーチも繰り返した。


「キレイ……キレイ……」


かかしも繰り返した。


ラーチは赤い花の間に入り、

ズボンを下ろし、しゃがみこむ。


ここでトイレをしろという事だろう。


「トイレ」

と私が聞くと、


「トイレ」

ラーチも繰り返した。


「トイレ……トイレ……」


かかしも繰り返した。


ラーチは手に持っていた、透き通った水色の物体を見せる。

「スライム」

そう言った。


あれはスライムという物体なのか。

そう思っていると、

ラーチは花の上にスライムを乗っける。


するとスライムは花を溶かし出した。

溶かしているというか。

食べているようだ。


私が驚いていると、

手を引っ張る。

先ほどの箱が置いてあるところに戻り、

箱の上にスライムを乗せる。

するとみるみるうちに箱がキレイになった。


そうか。

このスライムという物体は、

汚れやゴミなどを食べるんだと理解した。


「スライムゴミ食べる?」

私は尋ねた。


「スライムゴミ食べる」

ラーチも繰り返した。


「スライムゴミタベル……スライムゴミタベル……」


かかしも繰り返した。


私は、

赤い花を一つ取る。

茎の中から薄い瘴気を感じた。


聖女の経験上。

薬草を取ることは沢山あった。

しかし茎の中から瘴気を感じたことはなかった。


この瘴気は毒とはまた違う。


そして瘴気のある中で、

通常植物が育つことはない。

人や動物も生活できない。


ちょっと待って。

私は恐ろしいことを想像してしまった。

私は神に謝罪の祈りを捧げる。

しかし、

神の声は聞こえない。


もしかして、

ここは神も悪魔も、

生物さえも生きられない世界なのでは……。

そう思った。


しかしおかしい。

瘴気は魔に関わるもの。

瘴気が濃くても、悪魔や魔物は生きられるはず。

なのに、

悪魔や魔物の気配すらない。

この場所は一体……。


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