第74話 最後の手術
翌日の夕方、知らせが届いた。
強硬派残党が工事現場ではなく孤児院に向かった——その情報が入ったのは、カーラが工事現場側に展開した後だった。残党の一部が囮の動きを見せ、別の一隊が孤児院の近くの路地でコウルを連れ去り、短剣で刺した。
コウルは半時間ほど物置に拘束された後、孤児院のエルダが叫び声を聞いて駆けつけ、近くの巡回兵を呼んだ。残党は逃走、コウルは脇腹を刺されたまま放置されていた。手首には縛られていた縄の痕、腹部の右側から血が滲み、子供は震えて低体温になりかけていた。
アレクが医療所に走り込んできたのは知らせから三分後だった。ミアがコウルを抱えて後を追ってきた。
「どこだ」
「脇腹。右側。深さは分かりません」とミアは言った。顔が青かった。震えていた。でも声は動いていた。「血が速い」
「運ぶ」とアレクは言い、コウルを処置台に移した。
子供の顔が蒼白だった。息はある。意識がある。「い……たい……」と言った。
「分かる。今すぐ治す」とアレクは言った。
コウルの服を素早く切り裂いた。傷口は脇腹の右、深さは外見からは判断できない。血の流れ方は速い——動脈ではないが、太い血管にかかっている可能性があった。脈を取る。速い、弱い。出血性ショックの初期段階だった。「保温」とアレクは短く言った。シルヴィアが扉から入ってきていた——いつの間にか到着していた——毛布を二枚持ってきて、コウルの脚と肩にかけた。
ミアが灯りを近づけた。「魔力感知で確認します」と言い、目を閉じて両手を傷の近くに翳した。集中する表情だった。これまでとは別の顔だった。
「……肝臓の端ギリギリです。肝臓本体への損傷はないかもしれない。でも出血が速い——血管が切れています。深さは四センチ前後」
「腸管は」
「……周辺の組織が乱れています。腸管への損傷は範囲外のような感じですが、確証は持てない」
「分かった。灯りをもう一本」
シルヴィアがいつの間にか扉の近くに立っていた。すぐに灯りを持ってきた。
「カーラは」
「呼んでいます。十分以内に来ます」とシルヴィアが言った。
処置が始まった。
カーラが扉を蹴って入ってきた、と思ったが——いや、まだだった。先にシルヴィアが「カーラを呼びました、十分以内」と告げた。それより前に、ミアが処置を開始する必要があった。麻酔は使えない。痛み止めの薬草を煎じる時間もない。代わりにコウルを「動けないように」固定する役が要る。
「シルヴィアさん、消毒液をこちらに」とミアが指示した。落ち着いた声だった。「先生、私が傷の周辺を魔力感知で見ます。深さが分かったら教えます」
「頼む」
ミアが両手をかざした。光の歪みを目で追う、いつもの集中の表情。それから「四センチ前後、肝臓の端ギリギリ」と告げた。
アレクの指が傷に沿って動いた。血管の損傷部位を確認した。ミアの感知で位置が絞れていた——独力で探すより速かった。止血の処置をした。縫合糸を掛けた。「血の流れが落ち着いてきた」とミアが言った。その声も、以前より落ち着いていた。
コウルが「い……」と声を上げかけた。シルヴィアが「コウル、私の手を握って」と子供の手を取った。「強く握っていいから。痛い時は私の手を握って」
子供の小さな指が、シルヴィアの掌に食い込んだ。シルヴィアは顔色を変えなかった。血の気の引いた令嬢の白い顔は、灯りの下で蝋のように見えた。それでも声は揺れなかった。
十五分後、損傷血管の処理が終わった。
カーラが扉を蹴って入ってきた。「コウルは——」
「生きてる」とアレクは言った。「もう少し続けます」
「私は何をすればいい」
「子供の上半身を固定してください。肩の方から、動かないように。痛みで反射的に動くと縫合がずれる」
カーラがすぐに動いた。コウルの両肩を、片手ずつで押さえた。力加減が完璧だった——子供を傷つけず、しかし動かさない。暗殺者として身につけた力の加減が、今は別の用途に使われていた。
腹腔の確認をした。腸管への損傷はなかった——ミアの感知が正確だった。傷を閉じた。縫合糸を引き、結び目を作った。
一時間だった。
脈を確認した。さっきまで弱く速かった脈が、強く落ち着いてきていた。回復の兆候だった。アレクは指先の感覚にしばらく集中し、それから「安定した」と短く告げた。三人が同時に息を吐いた。誰も声には出さなかったが、空気が一段だけ軽くなった。
コウルが「……先生」と言った。意識がある。よかった。
「動くな。三日は安静だ」
「……うん」
「怖かったか」
「……うん」とコウルは言い、それから「でも先生来てくれた」と言った。声は小さかったが、確かに言った。
アレクは何も言わなかった。処置台の脇に使った道具を並べ始めた。手が止まった。
「先生」とミアが言った。「もう休んでください」
「片付けが先だ」
「私がします」とミアは言い、アレクの手から道具を受け取った。「今日は本当に休んでください。コウルは私が見ます。シルヴィアもいます。カーラも今夜はここにいます」
「……そうだな」とアレクは言った。
「先生、もう休んでください」
「……ありがとう」とアレクは言い、手を下ろした。それからコウルを一度見た。子供は目を閉じていた。呼吸は安定していた。
医療所の奥の部屋に向かった。
あの言葉に、今日は一言も反論しなかった。「片付けが先だ」と言いかけた口を、自分でも珍しいことに、止めた。三人がそれぞれの役割をすでに動いている。自分が動かなくても回る——その事実を、今夜初めて、抵抗なく受け入れた。
奥の部屋に入りかけて、アレクは立ち止まった。
強硬派の残党は全員捕まっていない——カーラがそう言っていた。廊下の先で、コウルの呼吸の音がした。規則的で深い、子供の眠りの呼吸だった。今夜工事現場ではなく孤児院を狙ったのは、分散戦術だった可能性がある。
「カーラに今夜の動向の確認を頼みます」とアレクは言い、部屋に入った。「明日の朝、報告をもらってください」
「……分かりました」とミアは言った。アレクが素直に指示を出したことに、一瞬驚いた顔をして、それから頷いた。
扉を閉めた。部屋の中は静かだった。寝台に座って、靴を脱いだ。手の指先がまだ少し震えていた。手術の後の、腕が痺れたような感覚が残っていた。横になった。天井の梁が見えた。今夜のコウルの脈の感触が、まだ指先に残っていた。
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