第67話 お前はお前の医術師になれ
翌朝、アレクは三時間眠ってから医療所に戻った。
体は重かった。眠った後の方が、起きていた時よりも疲労を感じるのは、限界を超えていた証拠だった。前世でも経験のある現象だった。冷水で顔を洗って、温かい白湯を一杯飲んで、それから医療所に向かった。
ミアがすでに来ていた。前日に「明日来てもらいます」と伝えた患者が二名、待合の椅子に座っていた。ミアが記録帳を手に診察の準備をしていた。
「……早いですね」とアレクが言った。
「先生より早く来ないと意味がない」とミアは言った。記録帳を開いたまま患者の方を向いていた。落ち着いた顔だった。「先生、座っていてください。私が報告します」
処置室の薬棚は、いつもより整っていた。瓶の口の高さが揃っている——ミアの整理の仕方だった。アレクが整理する時よりも、並びが綺麗だった。気づいてはいたが、口に出して言ったことはなかった。
「座らなくていい」
「お願いします」とミアは言った。有無を言わさない口調だった。
アレクは椅子に座った。
ミアが患者の一人——五十代の男性——の記録を読み上げた。「昨日の右前腕複合骨折です。今朝の触診と魔力感知での確認では、腫れは引きかけています。骨の位置は問題ありません。副木の固定は正しく維持されています。患者本人も昨夜より痛みが軽いと言っています」
「手の感覚は」とアレクが患者に直接聞いた。
「指が動きます。昨日よりはだいぶ楽で。お弟子さんが丁寧に診てくれたよ」と男が答えた。
「このまま一週間、副木を外さないでください。水に濡らすのも避けて。一週間後にまた確認します」
「先生のお弟子さんが昨夜来てくれた。若いのにしっかりしてるもんだ」
ミアが「……ありがとうございます」と言い、記録帳に書き込んだ。頬がわずかに赤くなっていたが、声は落ち着いていた。
二人目は子供だった。打撲と擦り傷——群衆に押されて転倒した。ミアが傷の洗浄と処置を済ませた後でアレクに「消毒の処置を確認してもらえますか」と聞いた。傷を見た。「問題ない。十分です」と言うと、ミアが「ありがとうございます」と患者の母親に向き直り、「二日後にもう一度来てください。それまでに赤みが増したり膿が出たりしたらすぐ来てください」と告げた。
子供が「お姉ちゃん、痛くなかった」と言った。母親が苦笑して、「先生のお弟子さん、上手だね」と返した。
ミアが「私、医術師見習いです」と少しだけ訂正した。声に固さはなかった。「お弟子さん」と呼ばれることには慣れているが、今日は「医術師見習い」と言いたかったのかもしれない、とアレクは思った。
患者二名が帰った。
静かになった処置室で、ミアが記録帳を閉じた。
「先生」とミアは言った。「昨夜の処置は合格でしたか」
「合格です」
「本当ですか」
「本当です。副木の固定は正確だった。魔力感知での血流確認も、俺が見ても同じ判断をした」
ミアが「……よかった」と言い、窓の方を向いた。光が入ってきていた。
「ミア」
「はい」
「昨夜の処置、俺に確認を求めてから動いた点が一か所あった」とアレクは言った。「副木を当てる前の腫れ確認だ。あれは確認しなくていい。お前の魔力感知の方が俺より精度が高い。俺の指が感じ取れないものをお前の感知は捉えられる。お前の判断で動けばよかった」
「……でも先生のやり方を確かめたくて」
「それはいい。疑問を持つのは大切です。ただ今は——俺のやり方を覚えることが目標じゃない」とアレクは言った。「お前はお前の医術師になれ。俺のコピーじゃなくて」
ミアの手が止まった。記録帳を抱えた指の力が、わずかに変わった。アレクは続けた。
「俺は前世——子供の頃から、解剖と外科の世界で生きてきた。指で覚えた医術しか持っていない。お前は違う。魔力感知という、俺には絶対に手に入らない目を持っている。それは俺の道具にする能力じゃない。お前自身が、お前の医術として使うべきものだ」
ミアが「……」と黙った。
「魔力感知があって、患者と話せて、記録が正確に取れる——それはお前の力だ。俺とは違う医術師になれる。俺が見えないものを見て、俺が届かない患者に届ける。そういう医術師が必要だ」
「……そうですか」とミアは言った。
しばらく黙っていた。
それから「……うん」と言った。
声ではなく、笑顔で言った。「はい」ではなく「うん」だった。師に対する言葉遣いではなかったが、そこには何か別のものがあった——アレクには正確には言語化できなかったが、確かに受け取った。
ミアはそれから記録帳を開き、「今日の午後の患者は二名です」と言い、いつも通り仕事に戻った。アレクも「分かった」と言い、次の処置の準備に取りかかった。
午後の二名の患者は、複雑な症例ではなかった。アレクが診察し、ミアが記録を取り、薬の処方を伝えた。一連の流れに、もう違和感はなくなっていた。
夕方、最後の患者が帰った後、ミアが「明日も来ます」と言って外套を取った。アレクが「ご苦労さん」と返すと、ミアが扉の前で一度だけ振り返った。何かを言いそうにして、結局は「おやすみなさい、アレクさん」とだけ言って、扉を閉めた。
「アレクさん」と、ミアは言った。
まだ慣れていない呼び方ではなかった。「先生」ではなく、試すように言った。
アレクが「……なんですか」と言った。
「いいえ。呼んでみただけです」とミアは言い、記録帳に向き直った。笑っていた。
アレクはしばらく、その横顔を見た。半年前、まだ「先生」と呼ばれることに自分が慣れていなかった頃のミアの顔と、今の顔は別人のようだった。背丈は変わらない。声も大きくはない。でも、立ち方が違っていた。
「アレクさん、と呼ばれることに、まだ慣れていません」とアレクは言った。
「私もまだ言うのに慣れていません」とミアは答えた。「だから、毎日少しずつ呼んで慣れます」
「毎日呼ぶんですか」
「呼んだ方がいいですか、それとも呼ばない方がいいですか」
「……どちらでもいいです」
「じゃあ呼びます」とミアは言い、また記録帳に向き直った。
アレクは何も言わなかった。窓の外で雀が鳴いていた。秋の終わりの、よく晴れた朝だった。今日も患者が来るだろう。今日もミアが先に来て、診察の準備を整えているだろう。それは今日に始まったことではなく——もう少し前から、当たり前になっていた光景だった。
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