表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治癒魔法なんて要りません 〜転生外科医が教会の独占をぶち壊す〜  作者: いなばの青兎
対立勃発編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/70

第59話 患者だ

 翌朝、アレクはカーラを連れて王宮に行った。


 道中、二人とも多くを話さなかった。王都の朝の通りはまだ人が少なかった。商店が一軒ずつ扉を開け始める音が、規則的に背中で響いた。


「何をするつもりだ」とカーラは道中で言った。


「先手を打ちます。教会が公表する前に、こちらから経緯を説明する」


「私の過去を公開するのか」


「隠すより公開した方が強い。隠しているものは暴露されるが、自分で先に言ったものは弁明がある」


「……それが有効だと思うか」


「有効かどうかは確かではない。でも現時点で最善の手です」


 カーラが「……勝手なことを」と言った。怒っているわけではなかった。


* * *


 国王の執務室には、書類の束と、いくつかの地図と、半分閉じた窓があった。朝の風が紙を一度だけ揺らした。アレクが頭を下げ、カーラも倣った。


 国王の執務室で、アレクは話した。


「カーラという人物について報告があります。彼女は過去、教会系の暗殺組織に属していました。その組織の命令で私の抹殺を依頼されましたが、遂行しませんでした。現在は私の医療チームの護衛として働いています」


 国王が筆を止めた。書類から顔を上げた。


「……それを今日、わざわざ言いに来たのか」と言った。


「教会が彼女の過去を暴露して、『犯罪者を抱えている』と攻撃してくる前に、陛下にご報告する必要があると判断しました」


「その女は何者だ」とアルバート3世はカーラに言った。


 カーラが「カーラと申します。元暗殺者です」と答えた。


「なぜ教会の命令を断った」


「……対象の患者を診る姿を見ていたからです」


「患者」


「私が殺すはずだった男が、患者を診ていました。三日間見て——依頼を断ちました」


 国王がアレクを見た。「……お前が人を口説く方法は珍しいな」


「口説いた覚えはありません」


「そうだろうな」と国王は言い、少し間を置いた。「カーラへの訴追は不問とする。ただし今後の行動については責任を持て」


 カーラが「……はい」と言った。


「ハルト・アレク」と国王は言った。「お前はいつも予測できないことをやる。面白い」


「ありがとうございます」


「褒めていない」とアルバート3世は言い、手を振って退室を促した。


* * *


 王宮の外に出た。


 カーラが「……なぜそこまでする」と言った。廊下での言葉の繰り返しだった。


 アレクが「お前も俺の患者だ」と答えた。


 カーラが「……患者」と言った。聞いたことのない言葉を聞き返したような口調だった。


「カーラは昔、化膿性骨髄炎の手術を俺が行った。患者は退院後も医師の管轄下にある。お前は退院していない」


「……それは医療の話か」


「医療の話です」


 カーラが歩を止めた。アレクも止まった。王宮の門を出た先の街路で、二人きりだった。


「医療の話、ということにしておく」とカーラは言った。「その方が、お前にとっても私にとっても楽だ」


「楽な方を選びました」


「……お前は」とカーラが言いかけ、止めた。続きは言わなかった。歩き出した。アレクも横に並んだ。


 カーラが「……」と黙った。それからアレクの前では珍しいことだったが、苦笑した。声を出さない笑い方だった。


「……患者か」とカーラは言った。「それでいい」


「よかった」


「患者として、先生についていく」


 アレクが「よろしく」と言った。それだけだった。


 カーラが「……うるさい」と言った。何もうるさいことは言っていなかった。しかし怒った顔ではなかった。


「一つ聞いていいか」とカーラは言い、歩きながら横を向いた。


「どうぞ」


「患者として、という話が——本音か」


 アレクが「本音です」と言った。「ただし」


「ただし、何だ」


「本音が医療の言葉に収まっているかどうかは——俺には、まだ分からない」


 カーラが「……」と黙った。冬が近い空は高く、澄んでいた。


* * *


 医療所に戻ると、ミアとシルヴィアが待っていた。


「お帰りなさい」とシルヴィアは言った。「陛下の判断は」


「不問。条件付きで」とアレクは答えた。


 ミアが「よかった……」と両手を胸の前で握った。


 カーラが「面倒をかけた」と短く言った。


「面倒じゃないです」とミアは言った。「カーラさんがいないと、私たち困るんです。診察の合間にカーラさんが見回りに来てくれないと、外の安全が分からなくて落ち着かない」


「気づいていたのか」とカーラが言った。


「気づいていました」とミアは答えた。「私の魔力感知は、カーラさんの動く気配にも反応するんです。屋根の上で気配が消えるとき、私は安心して診察に集中できる」


 カーラが「……そうか」と言った。聞いたことのない声色だった。


 シルヴィアが「ついでに言えば、屋根の上で見張ってくれていることも、皆気づいていますよ」と言った。


 カーラが「……気づいていたのか」と聞いた。


「気づいていました。気づかれないつもりだったんですか」


「そうだ」


「下手ですね」とシルヴィアは言った。


 カーラが「……ふん」と言った。それから、初めてに近い顔で笑った。声を出さない笑い方だったが、肩が動いた。


 ミアが「カーラさん、笑った」と小声で言った。


「笑ったら悪いか」


「悪くないです、嬉しいです」


 アレクが手帳を開いた。「次の予定です。明日は東地区の経過観察。あさっては議会の補足説明。来週は医術師学校の設立準備の会合」


 ミアが「先生、休む日は」と聞いた。


「ありません」


「先生」


「……入れます。一日だけ」


 ミアが「明日、入れてください」と言った。


「明日は東地区です」


「あさってでも」


「あさっては議会です」


「先生」


「……分かりました。来週のどこかで」


 ミアが「絶対に、ですよ」と言った。


 カーラが横で「先生、お前は患者にだけ厳しい方がいい」と言った。「お前自身に厳しいのは、こちらが困る」


 アレクが「……分かりました」と返した。


 四人が次の手帳の頁を開いた。次の患者は、まだ誰なのか分からない。それでも明日の朝には、誰かが扉を叩く。それが、この医療所の日常だった。


 夜、カーラが屋根の上で見回りをしていた。ミアが診察記録の整理をしていた。シルヴィアが法案の追加修正案を書いていた。アレクが、明日の患者リストを並べていた。


 四人とも、それぞれの仕事をしていた。それぞれの場所で、それぞれの仕事をしていた。それが、四人で一つのチームになっているということだった。


お読みいただきありがとうございます。

続きも毎日更新予定です。作品フォロー、評価、ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ