第29話 共同戦線
カーラは三日間、孤児院に留まった。
それは処置の必要があったからだ——少なくとも表向きはそうだった。アレクは毎日傷の状態を確認し、薬草液で洗浄し、経過を観察した。ミアが記録をつけた。初日は感染の範囲が大きかった。二日目に腫れが引き始め、三日目の夜には「光が透き通ってきました。感染がほぼ消えてる」とミアが言った。
「もう一週間様子を見れば完治する」とアレクは言った。「ただし傷口をしっかり養生すること」
「分かった」とカーラは言った。「一週間後、また来る」
「その前に」とアレクは言った。「依頼の詳細を聞かせてくれ」
カーラが短く答えた。「レヴァン神官から依頼を受けた組織を通じて。対象はハルト・アレク、拠点の施設もろとも処分。ただし民間人を巻き込むな、という条件があった。だから三日かかった——子供がいたから」
「それで殺さなかったのか」
「それだけじゃない」とカーラは言った。少し間があった。「……お前を見ていた。患者を診ている姿を。三日間、見ていた」
「患者を診る姿を見て、依頼を実行する気が失せたということか」
「患者の手を握りながら説明するお前の姿。子供が怯えるのを見て、言葉を選び直すお前。一度も顔に疲れを出さないところも。そういうものを三日かけて見ていて——依頼を実行する動機が消えた」
「感情論だな」とアレクは言った。批判ではなく、確認として言った。
「そうだ」とカーラは言った。「それで十分だ」
* * *
翌日、シルヴィアが来た。
カーラを見て動じなかった。ただし、部屋に入ったときに入り口の位置とカーラの位置を瞬時に確認した——その動作は、こちらも油断しないという意味だとアレクは読んだ。「教会の暗殺者ですか」と言った。声は平静だったが、目が笑っていなかった。
「……元、だ」とカーラは言った。
「信用できるのですか」とシルヴィアはアレクに言った。「あの暗殺者を」
「命を救った相手は信用できる。論理的にそうだ」
シルヴィアが目を細めた。「論理的というのはどういう根拠ですか」
「命を救われた相手を裏切ることは、生存本能に反する。加えて、カーラは三日間ここにいながら何もしなかった。それが行動の証明だ」
カーラが壁際で腕を組んでいた。会話を聞いているが、入ってこない。その沈黙は否定でも肯定でもなく、ただ事実として受け取っているような沈黙だった。
「カーラ」とアレクは言った。「正式にこちら側につくかどうか、今決める必要はない。借りを返す形でいい。レヴァンの情報と行動を教えてくれれば、それが一番役に立つ」
カーラが一瞬だけアレクを見た。「……借りを返す形で、か」
「それ以上の義理は求めない」
「分かった」とカーラは言った。短く。
シルヴィアが「なんでそんなに人を信じられるの」と言った。声に皮肉はなかった。本当に理解できないという声だった。
「信じているわけじゃない」とアレクは道具を片付けながら言った。「判断している。信用と信頼は別物だ」
シルヴィアの問いが、宙に浮いた。答えを聞いたはずなのに、まだ分からないものが残っていた。
「信用と信頼」とシルヴィアは繰り返した。
「信用は過去の行動に基づく判断だ。信頼は将来の行動への期待だ。俺はカーラを信用している。三日間の行動がある。信頼するかどうかは、これから次第だ」
「区別して使っているんですか、そんなところまで」
「使い分けない方が混乱する」
シルヴィアがカーラを見た。カーラが目を合わせた。それから視線を外した。
* * *
その夜、カーラが「レヴァンは次に何をするか、おそらく分かる」と言った。
アレクが顔を向けた。
「あいつの仕事の仕方は知っている。力押しで駄目なら、周囲を削る。お前の周りの人間、貴族との関係、民衆の信頼——そのどれかを標的にする。直接お前を潰せないなら、お前が頼っているものを潰す」
「貴族への圧力か、あるいは風評か」
「両方だ。どちらが速いかで選ぶ。レヴァンは効率を重視する。感情での決断はしない——そこはお前と似ている」
「それは助かる情報だ」とアレクは言った。「次の手が見えれば、先手を打てる」
「次の手が見えても、止めることができるとは限らない」とカーラは言った。
「止めるかどうかより、動かされる前に動く方が重要だ」
カーラが短く息を吐いた。それが笑いに近いものであることに、ミアは気づいた。「お前は怖くないのか。本当に」
「怖いと何もできなくなるなら怖がらない方が得だ」とアレクは言った。「それだけだ」
「……そういう男か」とカーラはつぶやいた。誰に言うわけでもなかった。
翌朝、カーラは「また来る」と言って孤児院を出た。ミアがその背中を見送りながら、「信用、できるかな」と小さく言った。
「できるかどうかは関係ない」とアレクは言った。「動くかどうかだけを見ていればいい」
ミアが「でも……万が一、また来て危ないことになったら」と言った。
「カーラが危ない行動を取るなら、それは俺への借りを返す気がなくなった時だ。その時は話が変わる」
「どんなふうに」
「対処する方法を考える。今はその段階じゃない」
ミアが「……先生は怖くないんですか、本当に」と言った。三日間で何度目かの問いだった。
「怖い怖くないで動いていたら、この三日間の処置はできなかった」とアレクは言った。「今必要なことをやるだけだ」
ミアが「……そうですね」と、噛み締めるようにつぶやいた。それから「でも私は怖かったです、この三日間」と言った。「カーラさんが部屋にいる間、ずっと、心臓が」
「お前は正直だな」とアレクは言った。
「先生が怖くないから、私が怖い分まで一緒に怖がっておこうかと思って」
アレクが少し間を置いてから、「それで俺の分も勘定に入れていたのか」と言った。
「一応」とミアは言った。「先生が怖がらないと、誰かが怖がっておいた方がいいかと思って」
アレクは答えなかった。しかし、ミアの言葉がどこか的外れでないことは分かった。怖いという感情には、先を読む機能がある。ミアはそれをやっていた。
「明日から通常通り診療する」とアレクは言った。「記録の確認を頼む」
「はい」とミアは言った。孤児院の入り口に戻りながら、カーラが消えた通りをもう一度見た。
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