5.花は静かに
女子の噂話は、面白い。
マリエッタはそう思う。
なぜなら、とてもよく広がるから。
昼休み。
学園の温室。
ここは女子生徒がよく集まる場所だ。
花を眺めながら、おしゃべりをする。
声も自然と小さくなる。
彼女たちの輪から離れた場所。
背の高い植物に隠れ、視認しにくいベンチ。
マリエッタはそこに座って本を開いていた。
ページはめくっている。
だが、視線は文字を追っていない。
耳だけが働いていた。
「聞いた?」
女子生徒の声。
「マリエッタ様のこと」
別の声が答える。
「また?」
「下級生の子が泣かされたって」
マリエッタは静かにページをめくる。
(その話は初耳ですね)
少しすると別の声がする。
「でもそれ、リズ様が言ってたんでしょう?」
一瞬だけ、マリエッタの指が止まった。
「そうそう」
「“本当か分からないけど”って」
「でも、あの言い方だと絶対そうだよね」
くすくす笑い声。
マリエッタは本を閉じない。
ただ次のページへ進む。
少しして、また別の会話。
「マリエッタ様って男遊びしてるらしいじゃない」
「それもリズ様から聞いた」
「私はクラスメイトが言ってたのを聞いたけど、その子はリズ様から聞いたみたい」
マリエッタは静かに息を吐いた。
(やはり)
噂の形は違う。
内容も違う。
だが。
すべての始まりが同じ。
「でもリズ様ってすごいよね」
女子の一人が言う。
「マリエッタ様にも普通に話しかけて」
「みんなに優しいから」
「普通なら怖くて近寄れないよ」
マリエッタは少しだけ目を細めた。
(そう見えますか)
リズは直接悪口を言わない。
困った顔で。
悲しそうに。
『本当かは分からないのですが』
そう言いながら話す。
その言葉が、噂の免罪符になる。
聞いた側はこう思う。
『リズ様は、ただ教えてくれただけ』
『彼女に注意するようにと、心配しているだけ』
(賢いですね)
マリエッタは素直に感心した。
だが。
完璧ではない。
どんな噂でも。
流れを辿れば、必ず最初がある。
マリエッタの噂には、必ずもうひとりの名前がついてくる。
マリエッタは本を閉じた。
もう十分だ。
結論は出ている。
マリエッタは静かに立ち上がる。
(やはり、あなたでしたか)
リズ・フェルディナンド。
守ってあげたくなる笑顔の少女。
マリエッタは歩き出す。
表情は変わらない。
いつもの穏やかな微笑み。
だから誰も気づかない。
彼女の中で、すでに決まっていることに。
(おそらくヘンリーも、同じ結論にたどり着いていますね)
たった数日、集中して聞いていただけ。
マリエッタは何も言っていない。
ヘンリーは直接的に調べている。
ならば、もっとはっきりと噂の出所を把握しているはず。
(さて)
あとは。
どう終わらせるか。
マリエッタの微笑みが、ほんの少しだけ深くなる。




