039 bonus episode - side Shiho -
そっか。
やっぱり私、
もう少しここにいていいんだ。
私たちはもう、
今までとは違うんだ。
本当は、
帰りたくなかった。
もっと一緒にいたかった。
不思議だな、
すごく安心する。
でも一方で、
何だろ…、
すごくざわざわもする。
このシチュエーションでしか生まれ得ない、
全身が細胞レベルで、
脳みその奥の方までぞわぞわする。
こんな感覚、初めてだ…。
稑って、
こんなに大きかったんだな。
なんかちょっとびっくりする。
でも、
やっぱり稑の腕の中は、
すごくしっくりして心地いい。
あぁ、本当に稑だ、稑なんだ…。
…やばい。
なんかまた泣きそうだ…。
いったい私は、
稑にどれだけ泣き顔を見せてるんだろう…。
まさか稑とこんなふうになるなんて、
思ってもいなかった。
んんん、
誰かと人生を寄り添おうと思える日が来るなんて、
この先ないと思ってた。
それもまさか、
14も歳が離れた稑とだなんて…。
でも、稑との出会いは必然だった。
いつの間にか私の心にすぅっと入ってくる、
本当に不思議な人。
この人には、見せてもいいと思えた。
知られてもいいと思えた。
でもそれは、自分でも驚くほどの、
私の胸のうちのすべてだった。
でも、稑だからなんだ。
稑が稑でよかった。
私のありのままを受け入れてくれる人。
そして同じだけ、
私にありのままを見せてくれる人。
"ありのままのすべてを受け止めてくれる人と、
人生二度出会えると思うなよ。"
ほんとだね。
ほんとに章の言う通りだ。
離れてその存在の大きさに気が付いた。
だからもう、絶対に離れない。
こうしているだけで安心するこの距離が、
この先当たり前になるように…。
稑がゆっくりと腕の力を抜いていった。
でも完全には離さなかった。
離れるのは最小限にとどめた。
ゆっくり、ゆっくりと頭が起き上がり、
やがて顔は頬と頬が触れるギリギリの距離になった。
その距離を保ってゆっくりと、
頬の次に、
今度は鼻と鼻が触れるくらいの、
でもそれ以上は離れずに。
あぁ、やっぱり稑は優しいなぁ。
自身を気遣い一瞬動きが止まった稑に詩帆は思った。そして昔ピアノ室で"性格診断"と称して稑にピアノを弾かせた時、人差し指でラの白鍵を弾いた時の稑を思い出しながらゆっくりと瞳を閉じた。
そして改めて近付いていった。2人が許す、最も近いその距離まで……。




