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今ここであなたと出会えたことは 本当の家族編  作者: 安田 木の葉


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012 次なる行動

 近くのコインパーキングに停めてあった新の車に2人は乗り込むと、新は稑を送るためナビを章の家に設定し走り出した。


「人見知りの僕がすぐにみんなと馴染めたのも、新がいつも気に掛けてくれてたからだよ?僕だって、新にはいつもものすごく支えてもらってるよ?新にとっては当たり前のことなのかもしれないけど。」

「えー。」


 突然切り出した稑に、新はあぁまたかと思った。稑は自分の考えていることを相手も同じように考えているという前提で話を始めることが度々あった。


「まぁねー。でもね、それを言うなら、僕はオーディションの時から稑には支えてもらってたよ?」

「え?」


 新にとってそれは想定内の反応だった。新は続けた。


「僕はさ、当時は今よりももっと気持ちの浮き沈みが激しくて、沈んでる時は、もぉ誰も近付けないってくらい塞いじゃってたりしてたじゃん…。あぁこーいうの良くないよなーって、自分でも分かってはいるんだけど、でもどうしても気持ちのコントロールが上手くできなくて…。だけど稑は僕がそういう時にいつも気に掛けてくれて、別に何かをしてくれたってわけじゃないんだけど、ただ黙ってずっと傍にいてくれたんだよね。僕に構うことで、もしかしたら稑も落ちちゃうかもしれないのにさ…。」

「え…、そうだったっけ…。あ、でも…、そうだったかも。」

「あぁやっぱり。あれって無自覚なのね。」


 新はそんな稑にクスッと笑った。


「でもそのおかげで、毎回毎回、あともう少し、もう少しだけ頑張ってみようかなって、そう前向きな気持ちになれたんだ。だから今僕はここにいる。」


"僕はさ、そもそも稑がいなかったら、章さんと出会えたとしても、きっと魂狼には選ばれてなかったって思ってる。"


(そうだった、のかな…。)


 稑は新のその話を聞いてもあまりピンと来なかった。稑はオーディション当時から、自身にはないパッションを漲らせる新に一目置いていたからだ。


「だからさ、僕も稑のためにできることは何でもしたいっていつも思ってる。この気持ちは、魂狼の中ではもうダントツって自負もある。でもさぁ〜、どうにも敵わないんだよねー、詩帆さんには。」


 新は大袈裟に拗ねた口調で言った。


「…うん。ごめん。」

「ちょっとぉ!そこ素直に謝んないでよ!なんか余計に妬けてくるじゃん!」


 新は一際陽気に突っ込んだ。しかしその後は一変し、まるで独り言のようにぼやいた。


「お互いがそう思える人に出会える確率って、どれくらいなのかなぁ。僕は生きてるうちに、出会えるのかな。ま、まだまだこの先は長いし、気長に待つけどさぁ。」


(確かに。どれくらいの確率なんだろう…。)


 稑は改めて想像してみた。しかしそれを表現する例えはすぐには浮かばなかった。でも大丈夫、新もきっと出会えるよ、そんな気休めは稑には言えなかった。むしろ言いたくなかった。そして今自分にとって詩帆がどれほどの存在であるかを改めて噛み締めた。

 一方でここ最近の詩帆の言動を見ていると、どうやら詩帆にとっても自分はそんな存在なのではないか、そう思わせることが度々あった。本人もそれっぽいことを口にしていて、稑が敵わないと思っていた稜太よりももう心は傍にいて、すでによりどころであるということは確かなのに、詩帆は恋愛に対して本当にただ疎く興味がないだけなのか、それとも何か別に理由があるのか頑なに稑の気持ちを受け止めようとはしてくれない。


(どうしてなんだろう…。やっぱり僕が幼いから?でも、その詩帆さんを何としても振り向かせたいッ。)


 その思いをさらに強めた稑は、次なる行動のために前々から新に協力してもらいたいと思っていたある相談事を持ち掛けてみることにした。


「新、あのね、僕はもうすぐ一人暮らしをすることになるけど、その前にどうしてもやっておきたいことがあってね、それに新も少し協力してもらいたいんだけど…。」

「えぇ!何々?!やるッ!もう絶対協力するッ!!何!?!」

「ごめん新、運転には集中して。」

「…あ、はい。」


 相談を持ちかけられた瞬間俄然前のめりに反応した新に若干身の危険を感じた稑は、それから手短に新にその相談の中身を伝えた。


「おっけー任せろッ。ついでにどうせなら今日このまま下見に行っちゃおうぜぃ!!」

「え、でも章さんたちにも相談しなくて大丈夫かな…。」

「とりあえず今日は外から見るだけだよ!僕もあれ以来だから久々にまた行ってみたいしッ。」

「うん。じゃあ、お願いしますッ!」

「おぅ!まかセロリッ。」


 新はニカッと笑って見せた。早速稑からの頼み事にすこぶる嬉しくて仕方のない新は、さらにご機嫌にハンドルを握りながら新しい目的地へと車を走らせた。




 それから数週間も経たないうちに、稑はとある自動車教習所に来ていた。そこは先日新と下見をしたところだった。新は魂狼が結成してまだ間もない頃に車の免許を取得するため、しばらくここに通っていたのだ。



「はい前田(まえだ)と申ーしますぅーよろしくお願いしぃーーーマスッと。」


 稑はドキドキ胸を高鳴らせながらいよいよその日初めて乗る教習車のところまでたどり着くと、その車の傍に立っていた指導員の前田は稑とは目も合わせずに適当な挨拶をし、尚も顔を上げることなく手元のファイルに何かを書き込みながら続けた。


「えー18歳。へー…。何、ここの費用は親が出したりしてくれんの。」


 初っ端から随分なことを言うと前田はようやく顔を上げた。30代半ばの男性で、稑に比べるとだいぶ背が低かったため、前田は上目遣いで稑を見上げる形となった。


「いえ、自腹です。僕もう自分で稼いでるんで。」


 普通であれば前田の投げかけは嫌味の一択で多少は不貞腐れた態度で返事をしてもおかしくないのだが、そこはやはり稑であり、至って平然と無垢な様子でそう答えた。


「へー…。」


 前田は少し肩透かしを食らった感が否めなかった。しかし懲りずに続けた。


「え、でもさすがに高校生のバイト代じゃ賄えないでしょ。」


 すると稑は尚もきょとんとしたままそうでもないと言わんばかりの顔をしているので、前田は思わず突っ込んだ。


「え、何、どんな仕事してんの?」

「え、えっとぉ…。」


 稑は率直にどう答えれば良いのか分からなかった。そのためとりあえず思いつくまま答えた。


「歌って…、踊ったりしてます。」

「…。は?」


 前田の顔は、一気に歪んだ。


「なにそれ。いーねー、そんなで稼げるんなら俺も歌って踊ってYouTubeにでもあげよっかな〜。」

「はい…。」


 ここで稑はようやく少し困ったようにもじもじし出した。そして言おうか言うまいか迷い一旦は飲み込んだその言葉を恐る恐る付け加えた。


「でも…、ここ最近は、っていうか、デビューしてから毎年レコ大と紅白には、出させてもらってます…。」

「…え?」


 少し肩をすぼめ謙遜しながらそう言った稑の言葉に前田は耳を疑った。そしてさらに突っ込もうとしたその時、遠くの方からやたら鋭い視線を感じた前田は途端にあたふたし出した。


「うっわッヤバッ。川名君!とりあえず車乗って!!」

「えッ、あ、はいッ。」


 前田はそう言いながら稑を運転席へと促し、自分は反時計回りに最短ルートで車の傍を助手席側まで小走りで移動すると遅れて車に乗り込んだ。


「いや〜参った参った。鬼教官に睨まれちゃったよ…。ヤツに目ぇ付けられるともうその日1日が最悪なんだよ…。」


 愚痴っぽくそう言った前田だったが、初めて座った運転席に目をキラキラさせ、ぱぁっと明るい表情に一変した稑の耳にその声は全く届いていなかった。完全にスルーされた前田は少し不服そうに稑を睨み、さらにいじり始めた。


「え、で、何々なんだって??え、君もしかして有名人なの?レコ大?紅白??ごめんちょぉっと検索してみてもいいかなぁもぉ気になっちゃって仕方がないよ。」


 そう言うと前田は稑の返事も聞かずに社用のスマホを取り出し検索し始めた。


「かわ な り くっと。」

「…いいんですか?前田さん、今仕事中…。」

「ぅえーーーーッ!!うっそ知ってる知ってるッ!!!魂狼ッ!!聞いたことあるよ!曲も何曲か知ってるよッ!ほら、あれだよね!あれ!」


 すると前田はその勢いのまま最近ドラマの主題歌に使われていた曲のサビの部分をご機嫌そうに鼻歌で歌い始めた。


「あ、そうです!それです!うわぁ〜、なんか、嬉しいなッ。」


 稑は前田のその反応に素直に喜んだ。一方前田は稑のそのあまりにもピュアな反応に、何か少し違和感を覚えた。


「へぇーそーかぁ。メンバーの名前までは知らなかったわぁ。へぇー、川名 稑。君があの魂狼の…って君まだ18だったの?!?」

「…はい。現役の、高校生です。」

「俺もっと全然上だと思ってたよぉ!!」

「はい…。それはほんとによく言われます…。」


 またかぁ…といった表情でそう返事をした稑だったが、何かピコンッと閃いた様子ですぐに前田に聞き返した。


「ちなみに!僕は今いくつくらいに見えますか?!」

「え…?うーん、5歳くらいは上に見えるな。だって他の子もそれくらいでしょ?見た感じ全然変わんないもん。」


 すると稑の顔は再びぱわぁっと明るくなった。


「え、何。それがそんなに嬉しいの?」

「はいッ!」


 稑は目をキラキラさせて答えた。前田はまたまた何か不思議な違和感を覚えた。


(なんだ?この無垢というか素直というか、表情もコロッコロ変わるし、全く正直な子だなぁ。こうやって見ると、普段は本当にそこら辺にいる、あどけない普通の高校生なんだなぁ。)


「え、じゃあ君今相当忙しいでしょ、年末だってもうすぐだし。何も今こんなとこで免許なんか取る必要ないんじゃないの??」


 前田には企業の業績に貢献する精神は欠片もなかった。そんな前田に、稑は間髪入れずに答えた。


「いえ、今だからです。どうしても今、免許を取りたいんです。」


 そう答えた稑の眼差しは、これまでにないほどの真剣な眼差しだった。






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