09
夕食の味がしない。
あ、いや食べてないからしないのは当たり前なんだけど。多分、ヴィオラもしていないんだろうなぁ。と思う程ギクシャクしてる。
其れも其の筈。彼女の目の前にいるのはこの国の最高権力者、皇帝陛下グレンバルト・ルゥ・ユルートレピア。
50代の風格で、ヤクザのトップに居そうな貫禄を醸し出してる。
刻まれた眉間の皺は苦労の証なんだろうなぁ。って思いながら他人事の私、葛木です。
食事中のマナーが凄く煩いが故、銀食器がカチャカチャ鳴る事も一切無く、完全な無音。
配給の侍女も逃げ出す始末。
ネズミの気配すら感じない。
…何故だろう、陛下のバックに負のオーラが見える気がするんだが。気の所為だよね?
俺此処に混ざりたくねぇ。
『勉強は捗っているか?』
っと、此処で陛下が沈黙を破る。
ヴィオラは陛下ガン見してるのに、あっちは一切娘に興味がないのか、こっちを見ずに線のある声で聞く。
幼女やい…ガン見してるのに、不意打ち食らったかの様なリアクションしてんじゃねぇよ。笑っちまったじゃねぇか。
然し、『勉強は捗っているか。』って狙って言ってるのかな。
いや、まぁそうだよなタイミング的に。
リリリリリリリン
リリリリリリリン
…
ガチャ
「カ、カカカカカカカツラギっ!どどどうしよう!!?」
俺に振るのはえぇえよ!巻き込むな自分で考えろよコンチクショウ!
取り敢えず当たり障りのない、明確な答えを避けた回答が一番望ましいから…
「『はい、皇族として恥じぬ様精進しております。』」
『そうか、励むがいい。』
…
そんだけかよ!!
いや、まぁそうだろうね!普段一切関わりを持たない親子関係なら勉強くらいしか親から聞く事ないもんね!友達なんぞ作れる環境じゃねぇし。
ひとまずちゃんと話せる場を作らないと、この気まずい空気が終わらねぇから、
『カツラギ、お、お肉がノドを通らない…!』
飲み込め!吐くな!!
然し、期待は一切して無かったが、皇帝陛下もヴィオラと同じ豚の餌食ってるのか。
どうなってるんだこの世界。進んでる分野があべこべで可笑しいだろ。美食文化頑張れ。
って他人事で済ます訳にはいかないのが現実。
うん、運命共同体ですもの。
生き残る為には何等かの策を練らなければならない。
まず、状況を確認しよう。
皇帝陛下と2人っきり。
盗聴盗撮の危険は考えないものとすれば密談をするにはうってつけの状態、更に言えばこの形を作ったのは相手方である。
これは、皇帝陛下から見てヴィオラには、未だ生かす価値が有る事を意味する。
最悪なコースは下手な事をしない限り首チョンパは免れる訳。
更に更に、陛下の監視が付いての幽閉コースも無い、だろう。
その場合はヴィオラをこの場に呼ぶ必要性が無いからね。
じゃあ、何故陛下はこの状況を作ったのか。
此れを上手く紐解く事ができれば陛下から情報を。
最良の場合は協力を取り付ける事が出来る訳だ。
では相手様の狙いは何だ?
「『皇帝陛下。此の度この様な席を設けて下さり有難うございます。大変申し訳ないのですが、今回呼ばれた理由をお伺いしてもよろしいですか?』」
はい、わからないので聞きます。
一般ピーポに難しい考察なんぞ不可能ですし、計画の共有は相手様の駒として動く上では必須ですから。
勝手な行動して処刑、だけは何としても回避したい。
『では、いくつか聞きたい事がある。まずは…お前の属性についてだ。』
『っ!?』
あ、やっぱりバレてらー
つか、呼ばれた時点でこの事だろうなと思ってたし、勉強について聞かれた事で確信出来たじゃん。
何この幼女は動揺してんだよ。
まあ、年相応の反応って事で許されるだろうけど、皇族としては減点だろうな。
『リューベン夫人からの報告で、お前が彼の属性を有する事は知っている。情報の拡散を恐れ釘を刺した事も報告を受けている。だが、何故脅した?』
お?
あんのばーさんアッサリ裏切りやがったのか。
あれかな。魔力切れを勘付かれたのかな。
んで恐るるに足らずと。
まあ、良いけど。
話を戻して眼前の疑問を答えねば。
何故脅したって言われてもねぇ。
「『皇帝陛下。私には先立つ物が御座いません。行使出来るもので最も確実に夫人を抑えれたのが魔法だったのです。』」
『ほう?だがお前とて皇族。権力で抑え付けるのも可能だったのではないのか?』
「『はい。確かに可能です。ですがそれは一時的なもので、確実に時間を稼ぐのは不可能と子供の浅知恵ではそう判断しました。』」
『何故、不可能と判断した?私に泣付けば彼女を消す事も容易いだろう。』
「『はい。皇帝陛下に掛かれば夫人を消す事など動作もないでしょう。ただ、私には陛下に会見できるツテが御座いません。泣き付こうにも内容が内容だけに直、接お会い出来ねば情報が露見する可能性が御座いました。人を介する事を嫌った故にこの様な事態になりました。お詫び申し上げます。』」
ぐぬぬ。パパン痛いとかばっかり突いてくるな。
後先考えずに行動してたから理由探しも苦労しかしない。
然し、だいぶ読めてきたぞ。
この皇帝、ヴィオラ相手にそもそも価値なんぞ考えてねぇ唯の親バカだわ。
娘に頼られ無かった事に擦れてんだろ。
あれか。俺が身体乗っ取った晩の仕込みが、騎士から騎士団長に、団長から近衛騎士団長にって巡り巡って陛下に行ったのか。
だから最近周りからの目が暖かいのかよ!
だが、これは嫌な予感しかしないな。
皇位継承権が如何のは置いといて、妾子から嫌われてるのはこれは明らかに嫉妬だろう。
其処に更に息子をなんとか皇帝の座に就かせたい親の圧力とかも有りそうだ。
対してこっちは、公私の私を一切出さない皇帝陛下しか味方にいないと。
じゃあ、これから俺が指示するべき最善手は。
「『まず始めにお父様に相談するべきでした…』」
泣き落し。
いや、泣く必要はないけど悲愴感漂う表情をする様に言ったらヴィオラ泣くんだもの。
こいつ演技力パネェ
天才子役かよ。
泣いても尚声は嗄れておらず、しっかりと相手に聞き取れる様に言う役者っぷり。
もうこいつそっちの道行けよ。
まあ、ヴィオラ迫真の演技は功を奏し、此処で初めて皇帝陛下に動揺が見られる。
と、言っても流石は皇帝か。慌てふためく事は一切無く、左眼がほんの少し見開かれただけ。
其れを見逃す俺じゃない。
左眼ってのは感情変化が出やすい部位として有名。
詳しい事はあまり知らないが、右半身は言語や論理を司る左脳に。左半身は感情や感覚を司る右脳に繋がっているらしい。
死ぬ前に読んでた本に書いていた事を覚えていて良かったわ。
そんな事はまぁさて置き。
今回の件で陛下は味方だって事を知れた時点で大収穫。属性云々の話は今はするべきじゃない。
例え動いてくれなくとも、虎の威ってのは想像以上に強いからね。権力って怖いわぁ。
問題はさっきも言ったけど兄弟関係を如何巻くか。
ん?
『済まなかった。お前の助けになれなかった私のせいだ。だが、もう少しだけ待ってくれ。後…少しなんだ。』
何この展開。
いつの間にかヴィオラ視点にさっきまで机の反対側にいた陛下がヴィオラを抱き締めてるんだけど。
って、ヴィオラも惚けてるんじゃねぇよ!
「はぇ!?」
まずは皇帝陛下に頭を下げさせるな!
国の代表だぞ!
「う、うん。」
『お父様!私などに頭を下げないで下さい!』
『いや、全て私の所為なのだ。お前を守らなかった私の怠慢だ。許してくれ。』
『私は今の生活でも満足しております!だからどうか、どうか頭を上げて下さい。』
あ、ダメだこりゃ。
陛下親バカ愛が爆発してやがる。
此の儘だと息子達からの嫉妬コース真っしぐらだから自我を取り戻して欲しいんだが。
って事で話題を変えるか。
「『そ、そう言えばお父様。私が贈りましたペンは如何ですが?』」
お、少し離れた。
『ああ、大事に使わせて貰っている。』
おい、会話続け難い反応してんじゃねぇよ。
『っ!よかった……』
あ。
「カツラギ!お父様離れないじゃない!!」
ヴィオラよ。罪作りな女やのぅ。
お前が悪い。
もう俺知らん。
自分で切り抜けろ。
「カツラギ!助けて!!カツラギーーーーっ!!」




