大欲神と魔神の邂逅(めぐり合いなんて生易しいものなのかーっ!?)
どうも、毎度のハカタです。
いつものことながら遅れて申し訳ないです・・・。
青天の中、雨は突然降り出した。しかも、バケツを引っ繰り返した程大量に。水はけの悪いところは一瞬にして池となり、城壁を囲む堀も簡単に決壊した。次いで、どこの川が氾濫した訳でもないはずであるが、少数の町は波に飲まれた。普段の生活からは到底想像も付かない水の力が、人々に猛威を振るった。
更に小さいものではあるが、今まで一度も此の地に訪れる事のなかった地震が発生し、人々を混乱の渦に陥れた。
止むことないばかりか、雲まで呼び寄せられ、落魄した様な雰囲気がリンテル国全体を襲う。
湖の主にして、豪雨の中心、そして震源なる者。彼女は一見蛇のようでもあるが、鱗が備わり、翼を携えたその姿は「竜」というのが相応しかろう。実際、彼女は海竜に最も良く似た形姿をしており、海竜の神と言われることもある。
だが、圧倒的に大きさが違う。
全長は200kmを優に越し、最大直径も1kmを越し、1万6千トンを超える重量を持つ。一番近いとされるタイタニック・ボアという海竜ですら、全長は100mもないのに。
その重さだけで地を響かせ、存在するだけで水を撒き散らし、雨を降らせる。
彼女は振古神最弱ではあるが、それでも神であることに変わりはなく、そこに居るだけで人にとっては災害となる存在だ。
彼女こそが、魔人族の神にして、不死なる者。そして、愛と嫉妬を司る自由なる者。
呼ぶことすら恐れ多いその旧名は、「スーィワァル=レヴィアタン=シャトー」であり、今は違う名を持つ。
――スーィワァル=レヴィアタン=アモル=ブラウニー
彼女の復活を望み、彼女を崇拝する魔人族の者達は、彼女の黒き闇に一瞬にして呑まれた。彼らの中に生き残った者は居ない。
また、何も知らぬリンテル国の兵と帝国の兵は敵味方など関係無く、水の気の赴くがままに流され、引き摺り込まれていった。生き残った者の殆どは偶然により助かった者達だが、結局は単なる流水であるからして、実力で切り抜けた者も然程少なくは無い。
「活きの良いのが居るじゃあねェかァッ! ハッ!」
オルトリア=アマイモン=ドクセイも実力ある者の一人であった。
大欲神たるオルトリアという勇者は、召喚された当初から恐ろしい程の力を持っていた。彼が元居た世界では、彼は別段突出した何かを持っていた訳では無かったが、この世界では彼のスペックはかなり高いものであった。
しかし、華の現帝王・故涼からしても、まさかオルトリアが神に至るとは思っていなかった。大欲神としてのオルトリアの力は、帝王が《楽園の色欲》だけで服従させるのが難しいと断じたほどのものであった。
オルトリアは腰のポーチに入っている赤色の宝石の様な魔道具に触れた。魔力を流したのだ。
瞬間、水が蒸発し、炎が立ち上り、再び乾いた地面が姿を現した。『炎の宴』という最高級炎撃魔術であり、それを閉じ込めたこの魔道具の価値はプライスレス。恐らく市場には出ないし、出たとしたら青天井に値段は吊り上るだろう。
続けて両手でポーチに手を突っ込み、確認もせずに魔力を流す。
轟音と不協和音が混ざり合った音と共に、光が降り注ぐ様な雷と、乱れ散る程の氷が生み出され、魔神スーィワァルに直撃した。
――《自由之理》
普通、神であっても全く防御せずにこの攻撃を受けきるのは辛い。だが、彼女は最大級の神、胴体の一部が千切れたに過ぎず、修復など全く苦にならない。
ファイアーボールであろうと、ファイアーメテオだろうと、フレアランスだろうと、規模が同じであれば威力など関係無い。
ただ、魔神スーィワァルはその攻撃によって、胴体の一部を失ったことは事実だ。果たして彼女は、オルトリアという小さき存在を敵と見做した。彼女はとても目が良く、自分の目より遥か遠くの小さき存在であるオルトリアを捉えることは造作も無かった。
スーィワァルは、狂い舞った。塒を巻いたと言っても良い。
彼女はそもそも、今現在、正常な思考回路なぞ持ち合わせていない。そこにさらに、良く分からない相手からの攻撃により、痛みと怒りのみが沸き上がってきたのだ。
「チッ ふざけんなよォ!」
オルトリアはぶっきらぼうに叫びながら、剣を抜く。彼が剣を抜くのはこのリンテル国との戦争が始まって以来初めてだった。
理由は二つ有る。まず、本来の戦場、つまりオルトリア対リンテル国軍の場合だと、そんなものを使うより先に魔術でほぼ全ての敵が死んでしまうのだ。わざわざ剣なんぞ抜くより、よっぽど魔術の方が楽で愉快で爽快だと、彼は思っていた。
もう一つ。スーィワァルとの戦闘においては、魔術の方が遠くから撃ちやすかったからである。たとえ、神にまで上り詰めたオルトリアとは言え、スーィワァル程の巨体に潰されては、無事ではすまない。
オルトリアはいつもの様に、押し潰さんと跳ねてくるスーィワァルに向けて剣を200振った。重さで押し潰されて死にましたなんて話、オルトリアにとっては屈辱以外のなにものでもない。それだけは避けようと、本気で放っていた。
――『多連斬絶』
――《自由之理》
オルトリアは残骸となって吹っ飛んでくる馬鹿みたいに大きい胴体を、一つ一つ《氷撃魔術》で蹴散らしていく。そして、揺れる大地に耐えつつ、スーィワァルの様子を窺う。
スーィワァルの肉体は細かく刻まれ、湖は真っ黒に染まる。彼女の血だ。
それが、そこかしこに飛び散る。純人族からしたら、有毒なんてものじゃない。即死級の雨だった。
ドプンッと湖につかり、咆哮を上げる。おそらく痛みから来るものではなく、怒りから来るものだ。
そして、同時に新しい胴体が出来始めた。
「面白ェじゃねェかよォッ!」
オルトリアは久しぶりの強者に見えて歓喜しながらも、冷静に少し下がる。
オルトリアはふっと肩の力を抜く。オルトリアは完全に不利だ。そもそもリスクが違いすぎるのだ。スーィワァルからはオルトリアがはっきり見えているのに、オルトリアからは、どこにスーィワァルの核となる部分があるのかは愚か、顔すら見えないのだから。
それに、普通の魔術師ならば魔力の枯渇など起き得ないが、オルトリアは魔力を流すだけで最高級の魔術を発動できる魔道具を持っているせいもあり、消耗が激しい。
「へっ 一発で決めてやらァッ!!」
そんな思考を隅に置いた。そもそも、冷静に考えるなど性分じゃないと思い直したらしい。
――『一閃壊裂』
オルトリアの持つ数少ない個を相手にした剣技の中で、最も破壊性が強く、個を相手にすることを突き詰めた技である。はずなのに、周りのほぼ全てを廃塵に帰すという恐ろしさを持つ。
トンっと剣が魔神の鱗に触れた瞬間に、周囲100m程が吹き飛び、傷口からまるでドミノ倒しのように肉が剥がれ落ちる。その速度はスーィワァルが肉体を再生するより僅かに速く、見た目だけではゆっくりと崩れて言っているように見える。
そうして、最後の一欠片まで落ちると、その場に静寂が訪れた。
スーィワァルの肉は、一欠片も余さず、湖に沈んだ。
スキル《真なる強欲》の効果により、自分のステータスが大幅に増え、スキル《巌撃魔術》が手に入っていることを確認すると、どこか不満そうに呟いた。
スキル《真なる強欲》には、殺した相手のステータスとスキルを取得する効果がある。だから、オルトリアはこういうとき毎回自分のステータスを確認することで、相手が本当に死んだかどうか確かめるのだ。
良い方法だ。本来ならば。
――『レヴィアタン・リヴァイブ』
――《自由之理》
スーィワァルは振古神最弱である。生まれ変わった今のスーィワァルがどのくらいの実力を持つかはともかく、昔の彼女は神全体のなかでも中の下程の力しか持たなかった。
しかし、どれだけの戦いを重ねても彼女が死ぬ事は無く、また最後の手段として封印しかできないほどの粘り強さを持っていた。
いや、少し違う。死んだ事は幾度もあったが、結局今は生きている。ただ、それだけのことである。
肉片と血が一瞬にして凝縮され、新たなる肉体を形作る。
「あん?」
確かに殺したはずの何かが、塒を巻いてうねっていた。何故かオルトリアのことは眼中に無いらしい。
オルトリアは思案する。《剣技》、『一閃壊裂』は、もう1発ぐらいなら放っても問題無い。問題は命令にある。華の帝王、故涼から『絶対隷属』により下された指令は、リンテル国との戦いに勝利するために前線を保持することである。オルトリア自身不思議なのが、戦線を拡大しろと言われていないことだ。オルトリア率いる部隊がすべきことは、他の部隊が既に侵略した地域をリンテル国に奪還させまいとすることだけというのは、オルトリアは自身と隊員を過大評価する訳でも無く非効率だと言える。
いずれにせよ、今ここでこの神であろう何かと戦うのは、一時的には対処として許されたとして、それが目に余るものだと、『絶対隷属』により自由が利かなくなるだろう。
ちりん、と首元の魔道具が揺れる。これはそんなに高級な魔道具ではない。単なる通信用の魔道具で、小金持ちの冒険者や貴族なら誰でも持つことが出来る程度のものだ。
「あ? ちっ 帝王からかよ」
オルトリアは大層不機嫌な様子で魔道具に触れながら、スーィワァルと距離を取る。轟音が酷くて、自分の声すらまともに聞き取れない。
「聞こえるか?」
帝王の渋い声が魔道具を震わせる。
「ああ、聞こえんぞ。」
「時間も惜しいのでな。手短に言わせて貰うがの。先刻まで有効だった命令は解除し、生き残った貴様の部隊を再編成して、能う限り早く戻って来るのじゃ。それから、その神は手出し無用じゃ。」
『絶対隷属』は問題なく発動し、オルトリアは一言「ああ」と不快そうに答える。
「この神がなんだか知ってんのか?」
「お前が知る必要は無い。」
要するに、質問への答えはYESだなとオルトリアは少々笑いながら、魔道具が切れるのを感じる。
オルトリアは帝王のことをそこまで嫌いではない。というのも、横柄な言葉遣いも、いくらか命令を逸した行動も許すし、そもそも命令をそこまでせずに自由にさせてくれているからだ。それに、帝王の持つ《楽園の色欲》に負けたのは事実で、鼻から全面的に抵抗しようとは思って居ない節があった。
よっと等と言いつつ、オルトリアが大きく跳躍する。感知できるだけで、同じ部隊の者は数十、他の気配は恐らくリンテルの者達だろう。それ以外は流されたか、前線から退いて待機しているかのどちらかだ。
魔神が今も尚暴走し、水を振り撒いているが、そこまでの雨とはなっていない。風も煩わしいが、障害となるほどではなかった。
「オルトリア指揮!!」
数名固まって動いていたであろう帝国騎士達が、オルトリアに駆け寄る。
「残ってる奴を回収して、帰って来いだとよ。」
オルトリアが簡潔に言うと、騎士達は「了解!」とだけ言うと散開する。オルトリアがわざわざ探せと言わなくても、先を読んで行動するのはこの騎士隊の隊長の教育の賜物である。
「チッ」
ちなみに彼の舌打ちはただの癖であり、何か不満が有る訳でも常時不愉快な訳でもない。
「俺は・・・テントまで戻るか。」
流されたり流されまいとして無事だった騎士達はともかく、テントにいる騎士達へ指令を出すのが一騎士では不味いだろう。皆さっさと散開してしまったせいで、伝令の証明書なんかも持ってなどいない。
空はどんよりとした曇りで時間も分からぬが、オルトリアの体内時計では今大体午後3時程となっている。そうすると、今日は生き残った騎士の回収に専念した方が良いと断じ、テントに着いて近場に居た副隊長に伝える。
こうして、オルトリア率いる人族が中心となった部隊だけはリンテルから退いた。
ちなみに、前回の後書き、うどん県云々は魔神の大きさが大体それぐらいとして設定したというだけの話です、ハイ
千一卜「でかいなっ!」




