金色少女は倒れない(なんか凄いラノベっぽいタイトルじゃない?)
毎度のハカタです。
流石に4ヶ月も真っ白な状態が続くとは思いませんでした。申し訳ないです。
しかもまた神の眼の上に、本編(?)が進みません
テフィールがいた奴隷商。その内の全てがテフィールと結託した者達の様に商館から逃げ果せた訳ではない。ああ、勿論のことだが、結託したとは言え、逃げ切れずに捕まった者もいるし、結託せずとは言え、便乗して街から消えた者も居る。
天下の首都コルネヴァに構える店と言えど、その様な不祥事はあるというものだ。
それはともかく。レインシャという少女は、騒動を聞いても逃げようとすらしなかった奴隷の内の一人である。胸の内を何が支配していたのか。
レインシャという獣人の少女は、結果的に国に買われた部類の奴隷である。妍麗というには少し稚さが残るが、金色の腰まで届きそうな髪と、頭にふわりと乗るネコミミは、需要が十二分にある存在感を放つ。
ただ、問題は彼女を買った担当者である。騎士団の中でも、熟女好きで有名であった彼が、レインシャを買った理由は単純に安かったからというだけであり、そこに性的な意味は無かった。
更に言えば、彼女には何かに秀でている訳でも無かった。故に、レインシャは戦場に駆りだされる事となったのである。
テフィールの奴隷商逃亡の件も、レインシャの購入の件も、どれも千一卜が奴隷商に行ったすぐ後に起こったことだった。そのタイムラグは数日程。
千一卜は奴隷商に顔を出さなかったことを憂いて居たが、そんなことが気にならない程には、奴隷商は混乱と多忙を極めていた。
彼のことは一先ず置いておくとしよう。
レインシャという少女には、秀でたところが無い。スキルが平々凡々な時点で察せられることだ。
まあしかし、戦場に一度降り立てば、その不平等さは余りにも意味を成さない。特に、相手が帝国軍である場合は。
しぶとくと言うと、あまりにも失礼かもしれないが、レインシャは1週間程しても未だ死を免れ続けていた。
《回復魔法》や、ロウポーション等と言った粗悪な治療手段しか無い中、魔術や兵器に耐え、毒の含んだ風を夜に流され。レインシャだけではない。彼女を含め、今この戦場において、リンテル国側の兵士、冒険者、奴隷は極限状態。言い換えれば虫の息であった。
その中にあって、レインシャが最も憂慮していた事が、よもや食事のことであったなどとは誰も思うまい。
生き残れたのは幸運故である。元々才能という言葉が似つかわしくない少女に、戦場で生き抜け等と言うのは不可能な話だ。
元々負傷していた利き腕を、半径10cm程の火の球で焼かれる。
「うっ・・あぁっ・・・。」
普通なら泣き叫びそうな負傷である。実際に、声こそ上げていないが、頬を水分が伝っている。汗か血か、それとも涙か。
右腕の消失した少女に生き延びる術は無い。
すぐさまに治療を受けたが、先も言ったように、万全な治療師が居ないこの状況では腕を復活させることどころか、止血すら危うかった。あまり大量に服用すべきでない痛み止めを飲むぐらいしか、後に出来る事は無かった。
勿論だが、そんな負傷を負おうが負うまいが、戦場には立たなければならなかった。
でなければ、治療に意味は無いのだから。
まだ幼いと言えど、獣人だからであろうか、本能的に死を悟った。
この戦場で、帝国軍と言うと、ゴーレム数十体は居るが、基本的に兵士が多い。帝国と言えど、兵士よりはゴーレムの方が強いし、見えない分精霊の方が厄介かもしれないが、この場には「オルトリア=アマイモン=ドクセイ」という、勇者から神にまでのし上がった大欲神が居た。1人・・・いや、1柱でこの場にいる兵士達よりも大きい働きをしているだろう。
不幸なことに、その大欲神たるオルトリアの標準が、レインシャ付近の冒険者共を捉えた。
オルトリアの《雷撃魔術》による『ホール・ライトニング』は凄まじかった。
地面を伝って、レインシャまで感電させる程に。
叫び声一つ無いのは、疲弊からではなく、死んだからだ。
レインシャも死ぬ・・・はずだった。
――本当に平々凡々なスキルしか持って居なかったならば。
彼女の正式名称を明かすことにしよう。
――「レインシャ=ハールート=マールート=ルピナ」
《ハールート》と《マールート》。ダブルミドルという世にも珍しい彼女だが、このミドルスキルにあっては、2つ無ければ意味が無い。
その能力は、妖術を使うことが出来、《ハールート》及び《マールート》、《天使》その他のスキルを隠す事ができ、酒に肉欲に強くなるというものだ。
そのスキルの隠蔽さたるや、使用者にもそれをおいそれとは悟らせない。
勿論だが、《天使》の能力があれど、帝国の勇者、オルトリア=アマイモン=ドクセイの『ホール・ライトニング』を無傷で受ける事は出来ない。そもそも、腕が無くなるほどには、天使というものは弱いのであるから。
・・・彼女は悟る。自信に宿る何かを。そしてその操り方を。
「――天使の微笑み」
その呟きは、誰にも聞こえなかったが、世界はそれを聞き届けるかのように、彼女の体を癒した。その癒しは、単に身体的なものだけではなく、心すらも深く満たした。
しかも、その効力は波及して周りにいた者達にまで影響を及ぼした。勿論、生きている者限定ではあるが。
妖術は洗練された技術だ。そこには詠唱だけでなく、様々な工程が必要とされる。ただ、訓練さえすれば、発動までの時間自体は魔法や魔術などよりもよっぽど早い。
流動的な手の動きが、どこか艶かしく人を惹きつける。
不思議な足の運びは、何かを地に語りかける。
殺風景な眼の煌きは、全てを奮起させ駆り立てる。
「――厭世は満ちる」
機械的な声の響きは、この場の全てを変えてゆく。
絶望が始まる。
帝国軍兵は、廃人になり始めている。
リンテル国兵士は、狂気を纏って、帝国兵士を殺し回る。
唯一、オルトリア、狂い殺す彼には、レインシャなど眼中に無かった。
幼き少女は理解しているだろうか。この状況がどんなに現実離れしているか。この世の全てを引っ繰り返して尚、こんなことは起き得ない。
広域妖術『厭世は満ちる』とはそれほどに恐ろしいものであった。
やがてほぼ全員が動かなくなった戦場で、少女は何か夢から覚めたような声で言う。
「ご飯・・・です・・・。」
まるで後ろに警戒することなく、基地へと戻る少女。今回死んだものは、敵味方問わずして、恐らく数千に上るが、少女一人で築き上げた功績であることを無視できるなら、大した損害では無かったと言えるだろう。
食事がお世辞を言って豪勢なものだったのは、やはり兵士達の大量死が原因か。
怪訝な表情で右手を確かめながら、自分に思いを馳せる。自身の今日取った行動の奇妙さに気付いていたのか。
意味もなく掌を見つめ、無為な時間を過ごせば、ただただ時間だけが過ぎ、明日は迫ってくる。
夜ですら映える金髪が、何処かの誰かに似ていると、兵士達の間では噂になっていることも知らず。
親も知らず、愛も知らず。
千一卜と違い、生来の《順風耳》持ちであるレインシャは、獣人であることも味方して、それを手足の様に扱う。その耳が、あらゆる音を拾い集める。
夜は彼女に語りかけた。怖くはないかと。
静寂は彼女に問いかけた。寂しくはないかと。
闇は彼女を誘い出した。一緒に来ないかと。
何かは彼女を駆り立てる。
瞳が何かを決意して、レインシャという少女を走らせた。
まだ宵の頃のこと。
静かな夜に、風を切る音だけがレインシャを支配する。
帝国軍兵士もその大半が眠っている。
もうこの場に彼女を留める鎖は無かった。
本能に任せて何処か自分でも分からぬ方向へと、疾走し続ける。
少し時間は巻き戻る。
こと戦争に至っては、戦争直前、戦時中、戦後問わず、あらゆる階級で少なくない人が逃亡を謀る。奴隷も良い例であろうし、貴族も商人も冒険者も、例に漏れる事はない。場合に依れば、王族ですら逃げ出すのだから。
情勢に聡いもので、更に外に伝手でもあれば、誰でも逃げ出すと言うものである。冒険者ならば、何処でも稼ぎ口はあるのであるし。
S級冒険者テルプロセ=ルピナも逃亡した一人だ。S級の癖に逃げ出すとはと思うかもしれないが、リンテル国に居るS級レベルと思わしき兵士の数は勇者を入れても10に満たない。対して帝国は100を超えると言われている。誰が無謀にも戦おうものか。
今回、実際にはS級レベル兵士はほぼ戦場に出張ってきては居ないのだが・・・。
勿論であるが、リンテル国の十数人しか集まれない会議に出席できるほどの実力者で、それなりに国との繋がりも、人との繋がりも強かさで以って築き上げてきたものを捨てる事に、躊躇いがなかった訳ではない。
例えば、テルプロセ、二つ名で言えば《金闇》とほぼ同格かそれ以上の力を有していた5人の勇者達。《金闇》が本心を吐露できる数少ない盟友だったと言えよう。
「仕方無いにゃ・・・。まだ死ぬ訳には行かないニャ・・・。」
普段の彼女からは考え付かぬほどのテンションの低さで呟く。
目的地へと向かう途中、日が出るのを目を細めながら見て、ふと足を止める。
――べちゃっ
遥か向こうは晴れているのに、ここでは小雨が降っていた。
顔を歪めて彼女は思う。
「意味無いニャ。こんにゃこと・・・。」
彼女の本懐は遂げられていない。
それは妹との再会。
元々《金闇》の家族、つまりルピナ家は森の中にあるひっそりした村にあった。総計して300人ほどの村で、商人も年に一度来るか来ないかの場所であったが、豊富な森や川の資源によって、豊かな生活を送れていた。
テンプレート的ではあるが、勿論話は平和に終わる事などない。
鎧を着込んだ騎士達が、村に攻撃を仕掛けてきたのだ。
話は簡単である。所謂ところの、所有の宣言ということだ。この土地は我々のものであると、騎士が言う。村人が抵抗する。ただそれだけの話だ。
何故ここまで騎士団が話し合いを無視して性急にしたのかと言われれば、当時の彼らの国と、獣人の国との関係あってのことであるから、ここで深く語ることは出来ないが、当時の騎士団連中は獣人を見ると敵だと言う姿勢を崩す事ができないでいたのであった。
騎士は騎士としての雅致を弁えず、猫人族の村人は、協調して決して震懼しない。
そうして騎士達が苦労して得た土地に広がっていたのは、地獄絵図のみであった。
一方、命辛々逃げた猫人族や、元から参加していなかった者達は散り散りになる。
《金闇》のテルプロセとその妹も、元から戦闘に参加していなかった部類に入り、そのまま行けば、他の猫人族の村に着く筈であった。
彼女達含め、十数人を率いていたある猫人族が、焦りを抑えきれずに、いつも使わないはずの道さえ通らなければ。
その猫人族が間違っていたかと言われると、それは分からない。何故なら、もし隣の村に辿り着いたとしても、そこはもう占領されたあとだったからだ。
結局、その隣の村に辿り着くことなく、豪華な外装をした奴隷商の馬車に遭遇し、更に逃げられた者と、逃げられなかった者に分かれた。
逃げられなかった者が、《金闇》の妹であり、逃げられた者が《金闇》だっただけの話である。
その後、程なくして純人族に抵抗する亜人族の組合に助けられた《金闇》は、両親と再会する。
両親の唯一の失敗は、《金闇》に対して、妹も何処かできっと生きているはずだなどと言ってしまったことだろうか。そのせいで、せっかく集まった3人の内1人が、離れていってしまったのだから。その妹を求めて。
そうして、せっかくリンテルに居るという情報まで漕ぎ着けた。そのはずだったのに、何故か妹の情報はあるのに、姿は影すら見つからなかったのだ。
素晴らしくも汚れたこの世界。誰かが彼女が妹を探しているという情報を嗅ぎ付け、奴隷商にそれが広まってしまったのである。
だから、彼女は何度もたらい回しにされた。見つけられない様に。
だから、彼女はあんなに安かった。厄介払いをするために。
浮かんでは消え、浮かんでは消える噂の数々。振り回されるだけ振り回され、その内いつの間にか冒険者ランクはSにまで至っていた。
・・・噂はあったのだ。彼女の周りには絶えず妹の残り香のみがした。
彼女はリンテルを出るべきではなかったのだ。火の無い所に煙は立たないのだから。
いつかの誓いよりも、逃走本能が勝っていたとしても。
《金闇》は瞑っていた目を再び開き、背後を一瞥して、地面を蹴った。
――バチャッ
《金闇》、テルプロセ=ルピナは選択した。もう二度と両親の元にも帰れないだろう。
ところで、彼女の向かう先、自由国家アルデリカの方向と、レインシャ=ハールート=マールート=ルピナの向かう先は同じだったのだが・・・まあ、詮無き事だろう。
彼女はリンテル国を出るべきではなかったろうか?
次回も未定ですが、4ヶ月も空くことはないようにしたいです




