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とあるエルフと・・・尿・・・ゴーレム・・・?(これ公開して良かったのかなぁ)

エイプリルネタが残ってたので消しときます。

今回の話に出てくるテフィールと次回の話に出てくるレインシャちゃんは、「そして、千一卜はドSに目覚める。(イースちゃんが精神崩壊寸前まで苛められる話ではありません。)[ http://ncode.syosetu.com/n1125cu/12/ ]」にて千一卜の奴隷候補として出てきました。

 まあ、忘れてましたよね! すみません更新遅くて。




 戦争状態下における奴隷の扱いというのは、普段にも増して酷くなる。


 先ず、国が騎士団などを通して奴隷を買い漁る場合。役割は、戦場における盾から、医療班、鍛冶など様々で、その酷使度合いと言えば、戦場に出ていなくても一日に数人は死者が出るほどだ。


 次に買い漁られなかった奴隷は、奴隷商がその処遇を決定する訳だが、リンテル対帝国の構図を知った時点での選択肢はかなり限られる。

 その1つ目は、売ってしまうと言うもの。冒険者にとっても、奴隷1人が居たお陰で助かったということも戦争では十分有り得る。だから、戦争間際においては、奴隷の需要と供給は上がる。

 2つ目は、殺すというもの。奴隷を無闇に殺す事は法によって禁止されているが、曖昧なものなので、どうとでもなる。

 3つ目、これが一番多いと思われるが、今まで通り奴隷を養いながら、国外に逃亡すると言うものである。


 ただ。上記の全ての例に当てはまらない奴隷も居る。

 奴隷商が奴隷を売る以前、つまり商館にて奴隷が過ごしているとき、奴隷に『隷属の腕輪』や『隷属の指輪』等と言ったものが装備されていない理由は、単純にその所有者登録の変更が手間で尚且つコストがかかるからである。

 それゆえに、奴隷には抵抗の余地があるのである。


 簡単に言ってしまうならば、上記に当てはまらない奴隷とは、戦争という非常時において逃亡を謀った者たちのことを指す。

 理由は様々であるが、それを総括して最も簡素に言い換えれば、酷い目に遭いたくないのである。しかも、今回の場合に限れば、リンテル対帝国。負けが確定した戦争に参与するなど御免被るものだろう。


 テフィール=アククムクというダークエルフの奴隷も、そんなときに逃亡した奴隷の1人である。容姿は悪くなく、黒色のショートな髪は整っており、青い両眼と長い耳は知性を覗わせる。全体的に黒っぽい肌は極力服により隠されているが、垣間見える肌は程よく肉が付き、武力も年齢より遥かに凌駕されていそうである。

 勿論のこと、彼女がどれ程強かろうと、たった一人で奴隷商から逃げ切れる訳も無い。だから、大部屋にいた他の奴隷を一緒に逃亡を画策したのだ。

 彼女が千一卜に対して「戦闘は無理だ」と言った理由は、彼女が全く戦えないからではない。むしろ普通の冒険者以上の働きが見込まれる彼女だが、彼女はその高い洞察力において、千一卜を魔法、魔術の使い手と評したのである。彼女が装備する呪具、『魔弱の腕輪』は、魔法魔術を魔力に還元する。普通なら、還元された魔力値が一定以上になれば、その形を保てずに壊れるはずだが、《マジック・リリース》というスキルにより防がれる。そもそも魔力に還元した側から魔力が外に出て行くので、理論上はどんなに大魔術であっても防いでしまうのだ。

 そういう訳で、テフィールは魔法魔術との相性がある意味で良く、またある意味で悪い。


 テフィールは逃亡奴隷であるが、共に逃げた奴隷と異なるのは、その逃亡理由だろうか。他の逃亡者は、戦争から逃げるためだ。しかし・・・。

 そもそも、彼女は楽観主義者ではない。首都コルネヴァの位置、つまり三方向が街、残りの一方向が魔物湧き出るの森という立地であることや、リンテルの町の各地に存在するスラムや、騎士団を考えて見れば、戦争から逃げたところでどうにもならないのは明白だと、理解している。

 だから、彼女の目的は決して生き残ることではなく、むしろ死ぬ事にある。もう少し付け加えるならば、悔いなく死ぬ事である。


 ――復讐、であった。


 テフィールはある屋敷の一室に居た。声も発することなく、ただ胡乱な目で、やっとのことで屋敷の主を捉える。既に事切れていた。彼こそが、彼女に呪具を付けた張本人だった。

 彼女の中を駆け巡るのは、遠い日の温かい記憶達。単に遊びで生き残った自身と、単に遊びで命が尽きた家族と友人。屋敷を煌々と灰に煤にしていく炎が、彼女達の悲鳴に重なる。彼女に最早、生きようという意思は無かった。ただここで自分も死ぬのだろうと感じていたらしい。

 炎が揺らめくと、死体と共に床の一部が崩れ落ちた。自分の周りが燃えていないのを、不思議に思い苦笑しつつ、吸い込んだ空気に咳き込んだ。


 彼女は遠のく自分の意識とは別の自分が居るかのような感覚に浸る。「ああ、いよいよ(コレ)は死ぬんだ」と無情に呟く。それは音にはならなかったし、音にするつもりも無かったろうけど。



 小さな集落に、テフィールは居た。剣と魔法を巧みに操り、仲間の弓使いと共に獲物を狩っては、その日の飯とした。偶には畑仕事も手伝えと言う母親の小言に彼女は耳にたこができそうだと思いつつ、月に一度ぐらいは付き合ってやる。

 また、隣の家でムシャルイの羽が欲しいと言われれば、魔法でなるべく傷付けずにムシャルイを狩った。矢が3枚で石打がどたらこうたらとか言う話は彼女にして見れば馬の耳に念仏であったが、それでも話を強引に切ろうとはしなかった。

 偶に来る旅商人との物々交換の際の会話だけが、彼女の知る外だった。もっと大きな国がある。もっと大きな家がある。もっと沢山人がいる。

 なんとも不思議な幸福感に包まれながら、日々が過ぎていく。



 テフィールの瞼が開く。体中の自由が利かず、また視界もぼやけてはっきりしない。先程の光景は夢だったかと少しの落胆を見せる。現実的に考えればそのような光景が広がる訳も無いと、自嘲気味な笑いも付して。

 彼女の目の焦点が定まる。すると、漸々と状況が見えてくる。相も変わらず体は動かないし、更に全身がピリピリと何か違和感がある。ここが街でも有名な無料で治療を施してくれる奇特な爺さんのいる診療所だと考える。


 周りに人の気配は無く、ただ静寂だけが広がる。彼女の中に疑問が浮かぶ。どうしてこんなに静かなのかと。診療所があるのは教会の裏手。街中とは比べるべくも無く静かだが、人が行き交う音が全く聞こえないほどに静かな場所でもない。

 差し込む光の角度は、おそらく今が午後の少し前である事を彼女に示していた。


 彼女は診療所に何度かお世話になったことがあるから、場所を間違えているという事は無い。

 ただ、本当に行き交う人が居ないだけの話である。


 この街の名前を敢えて言うような真似はしないが、コルネヴァより帝国に近い街であるここは、もうすぐ戦火に見舞われようとしていた。誰もがそれに備え、いつも賑わう様な場所を気に掛ける余裕は無かったのだ。


 当たり前の事だが、リンテル国は帝国を退けようとしていた。それだけの自信が王にあったのかどうなのか、真意は定かではないが、少なくともそれは正攻法では為されないものだと皆承知の上だったろう。

 この街は、そういう理由で切り捨てられた(・・・・・・・)街の一つだ。

 つまり、援軍は見込まれない。逃げた民も多い。状況は逃げようとも戦おうとも絶望的であるにも(かかわ)らず。


 テフィールは様々な想像を巡らせるが、交戦間近という結論には至れずにいた。また、彼女には目に見えて迫る危機があった。



 ――尿意、である。



 まあ、これを人生最大の危機と呼んでしまうと、余りにも彼女の人生が幸せ過ぎると感じる人も居るかもしれないから避けるが、他人様のベッドを汚すなどという事は、特殊性癖でも持っていなければ、恥辱的と言えるだろう。


 テフィールは懸命に体を動かす事を試みるが、四肢はそれに全く応じず、代わりに痛みだけが返ってくる。

 彼女がこの街が戦火に塗れるという結論に至れなかった事も災いした。そうであるならば、こんな些細なことには構わなかっただろう。大は小を飲み込むのであるからして。


 彼女が動けない最も大きな要因は、衝撃である。某屋敷において、彼女は火傷を多少負ったが、それよりも床が崩れ、1階に落ち、天井が崩れ3階にあった書斎の防火された本が落ちてきたことによる骨折や打撲の方が酷かったのである。周りが防火の本ばかりなお陰で結局死を免れたのは、皮肉な事だが。

 もう一つ大きな原因は、魔法、魔術による治療が出来ない事である。これは、『魔弱の腕輪』の持つスキルによるものだ。つまり、地球で言うような普通の医療行為しか施されていないのだ。なまじ魔法や魔術が便利なせいで、そういったモノは遅れているから、更に状況は不味い。

 この医療所の主が、魔法魔術以外の治療法に長けていたから、テフィールの怪我もこの程度で済んでいるのだが、生憎彼女は最早この局面をどう乗り切るかという事しか頭にない。


 かろうじて首から上が動かせるが、どう頑張ってみてもベッドから抜け出せないようだ。状況は一刻を争う。


 頭を動かすのが苦手な訳ではない。尿意に気を取られて注意散漫な状態なだけである。


 ついでに、お腹も空いていた。これで集中しろというのは無茶な話だ。


 テフィールは忌々しき腕輪を見る。これさえなければ魔法魔術、いくらでもやりようがあったものをと。


 『魔弱の腕輪』の《マジック・ドレイン》は、自分の魔法だろうか、相手の魔術だろうが、魔道具の起動であろうが、ゴーレムの機能であろうが漏れなく止めてしまう。


「ふんっ・・・っ!」


腕の一本でも動けば状況は違っていたのだろうと思うが、そもそも包帯でぐるぐる巻きの腕を操るのは至難の業だった。


 彼女の手札は、後はスキルぐらいのものだ。《マジック・ドレイン》の奇妙なところで、魔力を消費するスキルでも、魔法、魔術で無ければ全く吸収しないのである。

 それにしても、彼女のスキルに特別何か光るものがあるわけでもない。


「な、何か・・・。何か無いかっ!」


そもそも診療所の爺さんに助けを請うと言う選択肢を浮かべない時点で、彼女も相当焦っていたのだろう。呼んだとしても、来れない程遠くに居るのだが。


 辺りをぐるりと見回したテフィールは、棚に並べられたいつもより格段に量が少ない薬品を目に留める。今の彼女に多い少ないなどという差異はどうでも良く、ただ一つ、その中に万能の薬とされる『魂の妙薬(エリクサー)』があることに気が付いた。

 ちなみに、たとえ魂の妙薬(エリクサー)と言えども尿意を押さえる事はできない。むしろ、液体であるために促進すらしそうである。

 ただ、体はある程度動かせるようになるだろう。魔術やらの色々なスキルを駆使して作られる魂の妙薬(エリクサー)の効能は凄まじいものであるからして。

 余談だが、魂の妙薬(エリクサー)という名前が付けられているが、これは服用者の魂に働きかけるからではなく、薬を作るときに魂が使用されるからという説が有力である。本当に魂を使っているのか、魂に働きかけていないのか、その作り方の特殊性から完全には解き明かされていないけれども。


 ともかく、テフィールはそれを見つけた。とは言え、動くための薬を手に入れるためには動かなければならないという大きな矛盾を孕んでいるのだが。


 彼女の脳がフル回転して出した結論は、とても成功確率の低い、それでいてどこかからくり染みたものだった。


 テフィールは首から上が自由である事を活かした。いや、そこ以外に活かす点も無かっただけだが。それに加えて、彼女の高い《体術》的な「命中精度」を駆使し、傍らに有った錠剤の入りそうな小さな箱を咥え・・・。


 投げた。


 魂の妙薬(エリクサー)のある棚の方ではなく、ある魔道具の方まで飛んでいった箱は、その魔道具に思い切り当たる。


 ――《爆発《エクスプロージョン》》


高度に緊急性を強いられる魔道具に関しては、魔石やミスリルその他の起動者以外の魔力を使う。


 特殊な家庭にしかないものだが、割と良く知られた自爆用魔道具である。ここにいた爺さんの用途は、侵入の妨害である。かなり上手く偽装されたソレだが、テフィールは爺さんにその話を聞いていたために意味を成さなかっただけの話だ。

 入り口付近が爆発し、棚の薬品もいくつかが割れる。そして、棚はテフィールのいるベッドに倒れてきた。偶然にも。


 魂の妙薬(エリクサー)は通常飲むことが推奨されるが、飲めない者に対しては、体に掛けるだけでも十分効果があるとされている。


 ただ、今回テフィールの思惑に反して、魂の妙薬(エリクサー)の入った瓶は割れていなかった。ただ、頭にコツンと辺り、そのままコロりと枕元に落ちたのだが。

 不幸中の幸いというべきなのだろうか。それとも逆なのだろうか。


「うっ・・・。」


棚が落ちた衝撃をモロに受けた彼女の痛みは計り知れない。


 さて、枕元に瓶が落ちてきたこと。これは本当に幸いなのだろうか。


 テフィールは、どうやって瓶の蓋を開ければ良いのだろうか?


「むむむ・・・。」


 さて、瓶はコルクの様なもので蓋をされている。テフィールはどうする?


「なんとか、咥えられるところまで行けばっ!」


彼女のやろうとした方法は、怪我の可能性を伴う危険な行為であった。


 彼女が言ったように、なんとか(・・・・)瓶を加えることに成功する。


 上に思いっきり振り上げ・・・頭突きをかました。


 瓶の破片が散らばり、同時に彼女の血もいくらか舞い散った。


 そして、その数秒後、彼女は自信の体が動く事を確認する。


「包帯が邪魔だが・・・。」


そんなことを言っている場合ではない。限界は近い。


 未だ不調な足を懸命に動かし、トイレへと急いだ。



 さて、テフィールはそうしてこと無きを得たはずだったが、最後に先の爆発で脆くなった床が抜けて、床下の水でビショビショになったのは、なんとも阿呆らしい話なので、ここでは割愛しておこう。



 そうして、事無きを得たテフィールは漸く、周辺の事に気を遣い始める。


 彼女が見たのは進軍するゴーレムの群れだった。




(それでは皆さん良いエイプリルを。)

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