#10
教授はブックマウンテンライブラリーが炎上しなかった事を見届けて、賓客の一人に電話をした。
相手先は君島薙沙警視総監だ。女性らしい名前だが、れっきとした厳つい男だ。夜見の父親でもあり、教授にとっては旧知の間柄のビジネスパートナーでもある。
『教授か』
「ええ」
『首尾は?』
「想定内ですよ。娘さんは無事に魔法の本を取得されたようで・・あ、今、部下からメールが入りました。完璧です。矢島君は 自害しました」
『そうか。惜しい人材をなくしたな』
楽しげに言う。
「多分、彼女は魔法の本を公表しますよ?」
『それでいいのだ。これでお荷物を一掃する。そして若手警官には市民の為にここまでやる者がいるとアピールできる。それを私 は許容する。日本警察の膿を出して、業務改革に乗り出す、と。Companyもその方が動きやすいだろ?』
「魔法の本の提案者が貴方と知ったら夜見さんは哀しむでしょうな」
『喜々と忠告頂くのは遠慮願いたいな。それでなくても私は娘に嫌われてる。膿を出したそれだけだし、害虫共はそれで今まで 生きながらえた。利益は享受した訳だ。悪辣なヤツは刑罰を受けるだけの話だ』
「ライブラリーの被験者にも提供してくれた貴方だ、そは夜見さんも嫌うでしょう」
『遠慮ないな。まぁ娘の気質を考えたら、司書にはならなくて良かった。全ての事実を暴きかねんな。【Reader(読み手)】で あるというだけで恐怖を感じる』
「ライブラリーに関しては、まだ調整が必要です。商品としてはかなり、可能性を秘めてます。もう少し国にも出資をお願いした い所ですね」
『それは多方面でパトロンを募ってくれ。私一人では如何とも、だ』
警視総監は言葉を切った。
『それより、司・ライトの方はどうだ?』
「娘さんのおかげで、検索精度を上げてますね。貴方の愛情が足りない分、夜見さんは[Write]に依存している所もあり、それ は今後、突く上では良い材料です」
『所詮はあれも欠陥品か』
「お父様に釘をさされてますから、私達もそれ以上は手を出せない事がありますので、総監、そこは堪えてくださいね。私の発 言は上に届くようにもなってますので」
『忌々しい限りだ』
「本日は当社をご利用いただき有難う御座いました。またのご利用、を」
教授は電話を切った。
夜見はカワイソウに、と思わなくもない。
徹底的に絶望し、この世を呪ってくれたら、あるいはCompanyへの道もあるかもし れない。
この世は嘘、虚構、欺瞞だらけだ。 「おじいさんに近づく、近道でもありますけどね?」 小さく笑む。酷薄で、悦楽な、そして空虚な笑みを。




