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部活見学とは名ばかりのなにかを見学しろ!!

 翌日の放課後。

 曇り空の下、校舎の窓ガラスは西日を鈍く反射していた。校門の脇では、生徒会主導の「部活動見学フェスティバル」と銘打たれた屋台群がずらりと並び、焼きそばのソースの匂いや、チラシをばらまく上級生の声が交錯していた。


 そんな喧騒を少し離れた場所で小坂さんを待っていた。今日は部活動の見学だけじゃなく校内も案内するつもりだ。連は深いため息を吐く。

「……来るかな、小坂さん」

「あんたなんかのために来るわけないじゃない!ばっかじゃないの!?」

と、我らがトラブルメーカー玲。ゴスロリを着て足まで伸びたツインテールを必死に動かしぺしぺしと俺にあててくる。今日はツンデレの気分らしい。てか必死過ぎてほぼデンプシーロールにしか見えないんだが。

「妙に楽しそうだな」

「勘違いしないでよね!ご主人様と運命の人が結ばれる記念日だからってうれしいわけじゃないんだからね!」

「どういう勘違い?」


 そうこうしているうちにやってきたのは――小坂さんだった。

 ショートカットの髪がはらりと揺れ、きょろきょろと辺りを見回す仕草はまさに「純朴な転校生」の見本。やがて僕たちを見つけると、とことこと駆け寄ってきて、ぺこりと頭を下げた。


「こんにちは。今日、よろしく……お願いします」

「よ、よろしくお願いします」


 慣れない空気に、こちらもぎこちない返事しか出てこない。

 玲はというと――なぜか両手を腰に当て、謎の部活動勧誘ポーズ。

「さて! ご案内ツアー開始~!」

「いやテーマパークじゃないからな」

 小坂さんはきょとんとした顔で辺りを見渡す。

「え?…あの、ほかの方は?」

 少し間を置いてそう訊ねられ、僕は慌てて言葉を探す。

「あ、あぁ~……みんな用事が入っちゃったり、先生に呼ばれたりでね~、まいったまいった」

「そうなんですね」

 首をかしげながらも、どうやら納得?してくれたらしい。いや、あれは半分疑ってる顔だ。


 まずは自分たちのクラスへ行った。

 放課後でも教室にはちらほらと残った生徒がいて、小坂さんを見て「新入生?」と疑問が飛ぶ。


「ここがご主人様と私の根城です!」

「根城って言うな!」

「こちらがご主人様の席で、日々くたびれた表情を浮かべながら――」

「ハイ次!」


 次は校庭に出ると、でかい桜の木の下を通る。

 枝葉がわさわさと揺れ、まだ蕾が残るその姿は、季節外れの風物詩みたいだった。小坂さんは「わぁ」と感嘆の声を上げ、しばし見とれる。


「この桜、伝説があるんですよ」玲が勝手に口を開いた。

「告白すると、必ず玉砕するっていう」

「縁起でもないわ!かなうほうだ!」

「でもご主人様なら大丈夫。もうほぼ負けですから!」

「まだ勝てるって言え!」


 小坂さんは「あはは」と苦笑しつつ、再び周囲を見回す。こんなのについてくるなんて、やはり純朴というか天然というか。


 ぐるりと校内を歩き回り、特別教室や中庭まで一通り案内した頃。

 彼女が立ち止まり、少し遠慮がちに口を開いた。

「あの……そろそろ、部室とか……見せてもらえますか?」


 ……しまった。さすがにごまかしきれなくなってきたか。


「だ、だよな……そろそろいくか」僕は額の汗をぬぐいながら曖昧に笑う。



 部室前に着くと、玲はなぜかにやりと口角を上げ右手を高らかに掲げた。

「よぉし! ここからが本番! 我らが誇る秘密の愛部屋をご案内しましょう!」

「変な言い方すんな!」」

 蓮のツッコミがむなしく響く。


 ガララ、と戸を開けて部室に入った瞬間――奥の壁に設置されたホワイトボードが視界に飛び込んできた。

 そこには昨日の落書きがそのまま残っている。大きく「小坂ちゃん作戦会議」と題され、その下に「蓮様=無職」と太々しく書き殴られていた。


「――あ、やべ!」

 反射的に飛び出す声。蓮は机をすっ飛ばす勢いでダッシュし、両腕を広げてホワイトボードの前に仁王立ちする。背中には冷や汗、顔はひきつり笑い。


 小坂さんはぽかんと目を瞬かせ、気まずそうに小首をかしげた。

「あの~……いつもは何をされてるんですか?」


「え、えーっと……あ! ほら、ほかの部の活動写真とかね!生徒会の活動とか記録して手伝ったりさ! もちろん、ほかにもあるよ! 先生の手伝いとかも!」

蓮は苦し紛れに早口になる。


「へぇ……」

 微妙に笑顔が固まっている。完全に疑いの眼差しだ。


「そ、それと! 作文! 作文とか記録したいって言ってたよね! えっと、ほら、この棚に!」

慌てた俺が棚の引き出しを開けようとするとばさっと封筒が落ち、はみ出した数枚の写真。

 小坂さんの視線が、するりとその紙片に落ちる。

「……あ」

「あ、いやそれはっ!」

 反射的に蓮が飛びついたときには遅かった。一番上には――よりにもよって「マシロLOVE」と赤字でデコられた写真が。


「これは……」

「違うんです! 合成です! 悪質コラです!」

「いやどう見ても、ご主人様の自作ですよね」玲が横からニヤリ。

「黙れぇぇぇ!」


 小坂さんはくすっと笑いながら、写真を一枚めくる。するとうごくホログラムが室内に浮かび上がる。場面は校門前。空中には玲と蓮が二人そろって正座。生徒指導の先生が腕を組んで仁王立ちしている。校門を通る生徒たちがいぶかしげに見ながら歩く。

『お前ら、校内で騒ぎすぎだ!』

『ち、違うんです先生! これは玲のせいで……』

『先生!命令に逆らえなくて!』玲がボソリ。

『はい!噓つき!先生こいつ嘘つきです!』


 宙に浮かぶ俺たちを見ながら小坂さんは気まずそうに笑い、「楽しそうですね」とぽつり。

 その一言が、蓮には逆にグサッっと胸を突き刺した。小坂さんが次の写真をめくると、ホログラムが切り替わり、昨日の勧誘屋台のときに。焼きそばの湯気と太鼓の音が響く中、玲とチラシの奪いあいをしている。


『ご主人様最高だよ!かっこいいよ!是非うちの部へ!』

『だから俺をダシに使うな!』

『入部したら蓮様の笑顔があなたに~!』

『売り物にするな!』

 周りの新入生たちは苦笑し、軽く頭を下げて通り過ぎる。


小坂さんはまた一枚めくる


 午後の授業。

 黒板の前では数学教師が淡々と公式を解説していたが、蓮の机の横で、玲がこそこそとノートを広げている。

『ご主人様、作戦会議の続きですが』

『授業中にやるな!』小声で怒鳴る。

『静かに。ほら、第四案――『小坂ちゃんを感動させる即興ラブソング』』

『お前歌うつもりか!』

『ご主人様が、です』

『やるか!』

 叫んだ瞬間、教師のチョークが飛んできた。

『そこ! 静かに!』

『す、すみません……』

 隣でニヤつく玲。


「あ、あの~小坂さん?」連ががきまずげに話しかけると、彼女が最後の一枚をめくる。



 それは昨日の放課後、騒がしい屋台の一角で。

 真白と駿が合流し、玲が「記念に!」と半ば強引にスマホを掲げた。

『はいチーズ!』

 シャッター音と同時に、四人が画面に収まる。

 真白が目を細め、駿が肩をすくめ、蓮はあたふた、玲は満面のドヤ顔。


 小坂さんがじっと見上げていると、四人の輪の少し後ろに――小さく自分が映り込んでいることに気づく。

「あ……」

 思わず、彼女の唇がふっとゆるむ。

「……ふふっ」







 校舎の前、蓮と玲が並び正面には小坂さん。沈黙が数秒。緊張で風の音すらやけに耳に残る。


「えっと……その、今日は見学ありがとうございました」ペコリとお辞儀をする。

「い、いやこちらこそ……って、楽しめたか?」蓮が恐る恐る問いかける。


「はい」

 小坂さんは小さくうなずく。


「そ、そっか。それなら、その、クラスの人たちには……あんまり変なことは広めないでくれるだけで……」


「入ります」


「え」


「部活、入ります」


 唐突すぎて、蓮の口が「へ」の字に固まった。


「ちょっぴり思ってたのとは違ったけど、でも面白そうだったので。……だめですか?」

「駄目じゃない駄目じゃない!むしろ大歓迎だよ!」

 蓮は思わず両手をぶんぶん振っていた。

「でも、ほんとにここでいいのか?」

蓮は念を押すように、もう一度たずねた。

「はい。ここがいいんです」

小坂さんはまっすぐに答える。


 その瞬間――。


「よっしゃ~~~~っ!」

蓮が、普段の調子をどこかに投げ捨てて、両手を振り回しながら飛び跳ねた。


「決まった決まった!ついに新入部員だ!お赤飯炊かなきゃ!クラッカーも!風船も!」


「落ち着いてください!赤飯って子どもの七五三とかでやるやつです!」

玲が慌てて制止に入るが、テンション爆上がりの蓮には届かない。


「これが落ち着いてられるか!ほんとに来たんだぞ!やったな玲!お前のおかげだ!」


「え!?、あ、あぁ……べつに、ご主人様のためじゃないんだからね?」

玲は顔を赤くして、明らかにツンデレ脚本をどこかで間違えている。語尾に自信がない。

「じゃあ明日は入部式だな!玄関から花びらを撒きながら小坂さんに登場してもらおう!」

「学校でそんなことしたら生活指導に即バレですよ!」

玲は必死に軌道修正を試みるが、すでに暴走列車と化した蓮を止めるのは至難の業だった。


「いいだろ!明日くらい!いやむしろ全校生徒に告知して――」


「だから悪目立ちするなって言ってるじゃないですか!」


 二人がドタバタしている横で、小坂さんは「ふふっ」と小さく笑みを漏らし、口元を押さえた。


 普段は玲が場をかき回して、蓮がツッコミを入れる――そんな役割分担なのに、今日は見事に逆転していた。珍しくはしゃぐ蓮と、キャラの維持に四苦八苦する玲。そのちぐはぐさが、どうしようもなく微笑ましかった。


「……あの、本当にそこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ?」

小坂さんが、やんわりと二人を見やる。


「いや!気を遣うんじゃない!」蓮は胸を張ってきっぱりと言い切った。

「これは――お祝いだ!」


 玲も一呼吸おいて、急に真剣な顔になる。

「…まぁ…新しい仲間ができるって、やっぱり……すごく嬉しいですから」


 はしゃぐ連を見つめながら夕陽が二人の背を染め、どこかくすぐったい空気が流れた。


「じゃあ」小坂さんは柔らかく微笑むと、ぺこりと頭を下げた。

「明日からお世話になります」


 その言葉に、蓮はまた「よっしゃぁぁぁ!」と飛び跳ね、玲は「もうやめてください恥ずかしい!」と頭を抱えるのだった。

別にかわいくなんかないんだからね!

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