ICあいしーICY足愛しー石
その夜。
ちゃぶ台の上にカレーライス。夕方に買ってきた安売りのサラダも並んでいる。
玲はスプーンを手に、鼻歌まじりにカレーをぱくぱく食べていた。
「ふっふ~ん♪ ご主人はんは~今日も~絶好調♪」
「なんだそれ。こぶし利かすな」
蓮は呆れ顔で、ルーの染みたご飯を口に運ぶ。だがそのツッコミには上機嫌が隠し切れない。
「だって嬉しいじゃないですか~。小坂嬢ちゃん、入部即決ですよ?これは祝い酒……じゃなくて、祝いラッシー案件です!」
「どこからラッシー出てきたんだよ。ていうか、飲めない酒を飲むな」
蓮がたしなめると、玲は「ちぇっ」と頬をふくらませた。
テレビではニュースが流れている。画面の中ではアナウンサーが真顔で読み上げていた。
「続いてのニュースです――街の大型スーパー前で謎のクラッカー大量破裂騒動がありました……」
蓮は箸を止め、じろりと玲を見る。
「……お前じゃないだろうな?」
「心外ですね!私がやるならもっと派手にやりますよ!」
「それを聞いて余計に疑いが強まったんだが」
ため息をつきながらスプーンを置く蓮。玲は「えへへ」と笑ってごまかす。
そこへ、玲の耳からぴこりと通知音。
「おや?」
玲は姿勢を正すとスッと立ち上がって深々とお辞儀した。
「ご主人様……お母さまからご連絡です」
「げっ」
カレーのルーが喉に詰まりそうになる蓮。
「『げっ』じゃないでしょう。むしろ喜ぶところでは?」
玲は口をへの字に曲げ、少し呆れ顔。
「……いや、なんか嫌な予感しかしない」
蓮は額を押さえ、これ以上話題を広げないようにそっとテレビの音量を上げた。
そんなこんなで夜は過ぎ――。
翌朝。
「はぁ……」
蓮は重たい溜息をつきながら駅のホームに立っていた。サラリーマンたちに混じって列車を待つ姿は、どうにも学生らしい軽さがない。
原因はもちろん、朝からの玲である。
起き抜け第一声が――。
『昨日はお楽しみだったわね♡』
『朝チュンセリフをやめろ!』
朝から大声でツッコミを入れる羽目になり、近所の人に聞こえてないか心配だ。
そんな憂鬱気分を引きずりながら列車を待つ。すると、少し離れたホームの端で見覚えのある姿がきょろきょろしているのが目に入った。
朝のホーム。人の波に揉まれながらも、ショートの髪を揺らしてきょろきょろする小坂さん。
「小坂さん?」
声をかけると、ぱっとこちらを振り向いた。
「あ、蓮先輩。よかった……」
「どうしたの?」
「実は……」小坂さんは困った顔で鞄からICカードを取り出した。
「このカードで改札通ろうとしたら、ピッて音がして……止められちゃって」
蓮が受け取って見てみると、ディスプレイには赤々と「有効期限切れ」の文字。
「……期限切れてるじゃん!」
「えっ!? そ、そんな……」
小坂さんは目を丸くし、慌ててもう一度カードを見つめる。
「まぁまぁ、ご主人様。初心者あるあるですよ」
玲が横からドヤ顔で割り込む。
「ここは私がピッと処理して――」
「なんでお前が読み込むんだ」とチョップをお見舞い。
「あだ!ご主人様ぁ……。小坂さん、この扱い、ひどすぎません?」
玲は頭に手を当て、いかにも傷ついた風を装う。
小坂さんはおろおろしながら蓮と玲を見比べ、困り顔で「いやぁ……?」と首を傾げた。
駅員さんに事情を話し、無事に新しいカードを手にした小坂さんと三人で電車に乗り込む。
朝の車内はそこそこ混んでいて、立ちっぱなし。吊革を握る蓮の横で、玲は妙にリズムを刻むように揺れている。
「ご主人様、電車って最高ですね。人間の群れを観察する絶好の場です」
「電車を動物園みたいに言うな」
「ほら、あそこのサラリーマン。絶対二度寝した顔です。あとあの学生、カバンにプリン隠してますよ」
「なんでわかるんだよ!?」
「嗅覚AIですから」
「名にその機能、こわ」
玲の軽口に翻弄される蓮。そのやり取りを横で見ていた小坂さんは、ふと真面目な顔で口を開いた。
「あの、ひとつ疑問に思ったんですけど……」
「ん?」
「玲さんって、どうして学校に来てるんですか?」




