見学希望だとぅ!?
昼休みの昇降口は、廊下よりひんやりとしている。
俺と玲は「部活勧誘ポスター」とは名ばかりの怪文書を貼り直していた。
「……なあ玲、もうちょっと普通の文言にできないのか」
「は? “連様を記録する”以外にこの部の本質があると?」
「そんな本質はねぇ! 俺が恥ずかしいんだって!」
壁に貼られた張り紙は、相変わらず斜め上を行っている。
【写真部:日常をアーカイブしよう】と題しつつ、その下に大きく殴り書きされた副題。
――【連様を見守る観察日誌完備】。
頭を抱えた。なんで俺はこんな奴に全部任しちまったんだ。
はぁ、と俺がため息をついたとき。
「……あの」
控えめな声が耳に届いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、ポスターを持った身長の低い女子生徒だった。ショートカットが少し跳ねて、彼女の真面目そうな瞳をより強調している。
「これ……“写真部”って、勧誘ですか?」
「おっ! なんでぃ嬢ちゃん。興味あんのかい?」
いつの間にか口元にちょび髭を生やした玲が居酒屋の店主モードで反応する。
「ちょ、待て待て!」俺が慌てて割り込む。「変なこと言うな。えっと……興味あるのかな?」
女子は小さくうなずいた。
「……記録、とか、そういうのに。ちょっと興味があって」
その一言に、玲の目が輝いた。
「だったら嬢ちゃんここにいる蓮様にまかせな!!なぁ旦那!」
「えっ? れ、連様?」
変な言動を繰り返す玲に振り回されて戸惑う彼女。
俺は必死に両手を振った。
「ご、ごめん! こいつの発言はノイズだから! 無視して! ただ、学校生活を……こう、写真とか文章とかで残していく部なんだ」
俺の必死さに押されて、彼女はかろうじて声を絞り出した。
「……ああ、なるほど。記録係、みたいな?」
「そうそう! それそれ!」
横で玲はにやにやと笑っている。完全に人の焦りを観察して楽しんでやがる。
「ところで、君の名前は?」
「あ、えっと……小坂です。小坂みのり」
ぺこりと頭を下げる仕草は教科書通りの奇麗さだ。
「小坂さんか。俺は連。んで、この変なのが玲」
「変なのって言うなよ、旦那ぁ」
「よろしくお願いします」
『この子スルースキルすごいな』
彼女はポスターをもう一度見上げて不安そうに言った。
「でも……“観察日誌完備”って、何ですか?」
俺は固まる。「えーとそれは…」横目で玲を見ると、彼女は口角を吊り上げた。
「それはもちろん、連様の日常を――」
「違う違う違う! それはお前が勝手に書いてるだけだから! 小坂さんは、自分の気になることとか、学校で見た景色とか、自由に書いていいんだ」
「……そ、そうなんですか?」
「そう! むしろそっちがメインだから!」
なぜだろう。俺の声はだんだん必死になっていた。こんな怪しげなポスターでも興味を持ってくれたからか。
小坂さんは少し考えてから、ふっと表情を和らげた。
「なら……安心しました。もしよかったら、活動を見学させてもらえますか?」
「も、もちろん! 大歓迎だ!」
勢いで言うと、俺の心臓は変なリズムを刻みはじめた。
『見学? 何を見せるんだ。うちの部活、実質ゼロ活動なんだぞ』。
「あぁ~、でも今日は見学もう締め切っちゃってて! だから明日! 明日の放課後にぜひ!」
「えっ? そんなに人気なんですか……?」
「そうそう! 人気すぎて困っちゃってさぁ! あはは、ほんと困るなぁ~ははははー!」
小坂の純粋な瞳が俺の嘘を容赦なく射抜いてくる。だが、彼女は小さくうなずいた。
「わかりました。じゃあ明日また来ますね」
すたすたと去っていく小坂。
俺が、がっくりと肩を落とすと玲が肩を組んでくる。
「わるいねぇ、旦那ぁ?」
「誰のせいだ誰の!」
とりあえず明日小坂さんが来る前に活動内容考えなきゃ!!




